第十二話 動き出す
闇組織、ルーインによる戦争から約半年。
少しずつではあるが、被害の少なかった地域から順に、もとの生活へと戻りつつある。
もちろん、被害の大きい地域はまだまだ多く、そんな地域の方が少ないのだが、前進には変わりない。
エミリーやギルバートたちは、今もなお、被害の大きい地域で復興作業を行っている。
「久しぶりに帰ってきたなぁ」
エミリーは誰にともなく呟いた。
今、エミリーたちが復興作業に入っているのは、この戦闘部隊の地元である六区だ。
(こんなふうになってたんだ)
エミリーは戦闘の間、ずっと中心部にいたから、今の今まで六区がどのようになっているか見ることはなかった。
ふと、ギルバートに目をやった。
遠くを見るような目をしていて、何とも言えない複雑な感情が入り雑じっているような表情をしていた。
無理もない。ギルバートがフィリップを喪うことになった場所なのだから。
「ギル」
エミリーは控えめに、でもしっかりとした声で声をかける。
ギルバートは、はっとしたようにこちらの世界に戻ってきた。
「……大丈夫だ」
ギルバートはエミリーを見ることなくそう呟き、歩きだした。
エミリーはその背中を慌てて追う。
エミリーたちの戦闘部隊の地元ということもあって、それぞれの家近くをそれぞれが担当してやることになっていた。
「ギル、私、自分の家に一旦行くけど、ギルはどうする?」
「俺も行く。どうせマンションだから、最終的に全部見て回って、ある程度は持ち主に返さないとならねぇし」
荒廃した地元を見るだけでも、胸の中がざわつく。
ギルバートが今、どういう気持ちなのか、エミリーには何となく感じ取れた。
だから、せめてギルバートの負担を少しでも減らせるようにしたいと思っている。
エミリーは自分の家で、母親の形見となりそうなものと、写真を何枚か手にした。
母親の形見には、母親のお気に入りだった花飾りのついたゴムを。写真は、家族写真と幼い頃の幼なじみ三人とその家族で撮った写真、中学生の頃に撮った幼なじみ三人での写真を。
それぞれを大事に持ったエミリーは、ギルバートの家に向かった。
ギルバートの家はエミリーの家のちょうど上の階だ。
「ギルー、まだいる?」
エミリーはそう訊きながら、中へと入っていく。
ギルバートの部屋を覗くと、ギルバートが床に座っているのが見えた。
「ギル」
エミリーは声をかけてギルバートの隣に座った。
「もういいのか?」
ギルバートはエミリーの方を見ずに、ただ正面を見据えて訊いた。
「うん。私はもう……ちゃんと大事なものは持ってきたから」
エミリーは明るく答える。
「そうか。じゃ、先にフィルの家に行こうぜ」
「え……」
ギルバートの言葉にエミリーは驚きを隠せなかった。
まだ傷は癒えていないのに、それでもフィリップの家に行こうと言ったこと。
いや、それよりも、どういう気持ちでそう言っているかということに。
ギルバートの表情からは何も受け取れない。わからない。
真顔、だけど、何を考えているのかわからないような表情。
「……いいの?無理しなくてもいいんだよ」
エミリーはギルバートの顔をうかがいながら言った。
もともと、エミリーは一人でフィリップの家に行くつもりだった。ギルバートにはまだ無理だと感じたから。
だけど、ギルバートははっきりした口調で答えた。
「無理してないとは言いきれない。けど、逃げてちゃ進めないだろ」
その言葉で、エミリーは思い直した。
ギルバートの負担を少しでも減らせるようにという考えは、結局のところ気を遣っているということ。それはギルバートが望むものじゃない。そんなこと、知っていたはずなのに。
「──────……うん、そうだね」
だけど、たぶんこの先もエミリーはギルバートに気を遣ってしまうのだろう。
それでも、今だけはちゃんと対等に立っていたい。
この世界のどこかにある闇組織、ルーインのアジトで、男女数人が何か話をしていた。
「もっと人手がいる。もっと力がいる」
「そんなことはわかってるわよ。でも、一体、どうやって人手を増やすの?」
「そうですよ。ただでさえこの間戦争を起こして、私たちを捕まえようと監視の目が厳しくなっているのに」
「そんな監視の目、我らなら容易に掻い潜れる。なぁに、人手なら集める方法はあるさ」
不穏な風が吹き始める。




