表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は哀に溢れている  作者: 衣月美優
第一部 もう戻れない、戻らない日々
12/56

第十一話 少しでも


 ギルバートがエミリーに弱さを見せてから数日。

 ギルバートはたまにではあるが、誰かに言われなくても休むようになった。


「エミリー、ギルバートどうしたんだ?」

「え、うーん……ちょっとは前に進もうとしてるんじゃない?」


 ラウルに訊かれたエミリーは、言葉を濁した。

 あのときのことをわざわざ言うことはないと思ったのと、ギルバートも誰かに話してほしくはないだろうと思ったからだ。


 あの後も、エミリーとギルバートはほとんど言葉を交わしていない。

 もともとエミリーが声をかけなければギルバートと話すことなんてほとんどなかったのだ。別に大きく関係が変わったわけでもない。むしろ変わりなどない。


 ただ、もうエミリーはギルバートへの接し方には悩んでいない。今までと変わりなく接していくことにした。

 悩んでいたことの方がおかしかったのだ。接し方を変えてしまったら、二人は二度と昔のような関係性には戻れなくなるのだから。

 エミリーはそう考えて、スッと気持ちが楽になることができた。それだけでいいのだ。


「あ、ラウル。これからもギルとときどき話してあげてね。まだ本調子じゃないし」

「あぁ、もちろん」


 二人は別れ際にそう言った。







 ギルバートは間違いなく、前に向かっている。少なくとも、前を向き始めた。

 それだけでも大きな進歩で、エミリーは嬉しく思っていた。

 だからこそ、エミリーもギルバートに寄り添って、前に一緒に進みたいと願っているのだ。


 どうか少しでも明るい方に進めますように。

 どうか二人ともこの縛りから抜け出せますように。

 どうかこれ以上、不幸が降って来ませんように。


 エミリーにとって願うことはそればかりだった。それだけでエミリーもギルバートも楽になれるのだから。

 お互いに家族と幼なじみを喪った、いわゆる同じ境遇に陥っているからこそ、共に乗り越えることが救いとなる。

 どちらか一方だけではなく、二人ともが救われなければ、本当の意味では乗り越えられるはずもないのだから。







「エミィ、ちょっと来い」


 今日の仕事終わり、ギルバートに呼ばれてエミリーは少し驚きながらも、ついていった。


 ギルバートはあれから、ずっとエミリーのことを愛称で呼んでいる。

 そのことに、エミリーはちょっとこそばゆく思っている。愛称で呼ばれる方が少なかったのだから、それも仕方ないと言えばそうなのだが。


「どうしたの、ギル?」


 ギルバートについていって、いつもの木のそばまで来たところで、エミリーは訊いた。


「お前は……何かないのかよ?」


 ギルバートは躊躇うように言った。


「え?何かって……何の話?」


 だけど、エミリーには何のことかさっぱりわからない。


「フィルのことで……お前も何か吐き出したいことがあるんなら──────……」

「あはは、なんだ、そんなこと?」


 ギルバートの言葉を、エミリーの笑い声で遮る。


「そんなことって……!」

「大丈夫だよ、ギル」


 ギルバートはエミリーの表情を見て、目を瞠った。

 強い意志を宿した瞳と、覚悟を決めたような笑み。何も心配する必要のないような表情。


「だって、ギルがいるもの。ギルがいてくれるなら、私はどんな世界だって生きていける。一人じゃないから、大丈夫」


 エミリーには敵わないとギルバートは思った。

 エミリーは芯の強い少女だ。弱音なんてほとんど吐くことはない。

 だから、ギルバートは昔からエミリーに直接訊くことにしていた。そうすれば、弱音を吐くこともあったから。


 だけど、今のエミリーはそれすらしようとはしない。

 大丈夫だと自分に言い聞かせて、奮い立たせている。

 その揺るぎない姿に、ギルバートは目を奪われた。


 しばしの沈黙のあと、ギルバートは少しうつむき、小さく息を吐いた。


「そうかよ」


 いつから、エミリーはこうやって生きるようになったのか。ギルバートにはもう思い出せない。



 ────一人で抱え込まないで……?



(お前こそ、一人で抱え込んでんじゃねぇよ)


 思いこそしたが、ギルバートは口には出さなかった。

 エミリーがそれで少なからず前に進んでいるというのなら、ギルバートが口出しすることじゃない。

 ただ、エミリーが笑っていられるように、今まで通りに過ごすだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ