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世界は哀に溢れている  作者: 衣月美優
第一部 もう戻れない、戻らない日々
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第十話 ぐちゃぐちゃで


 エミリーもギルバートも、お互いにぶつけ合う想いをうまく鎮めることができなかった。

 それでも、幾分か冷静さを保っていたエミリーは少しずつ落ち着きを取り戻した。


「ギル、私もいるわ。だから、一人で抱え込まないで……?フィルのことは、ギルだけの問題じゃないもの」


 エミリーはギルバートを、そして自分自身を落ち着かせるために、ゆったりとした口調で言った。


「っ!」


 ギルバートは小さく唸る。


 お互いに、フィリップのことで消化しきれていないものがあるのは確かで、それはあたりまえのことだ。

 ずっと一緒にいたのに、それが最悪の形であたりまえでなくなったのだから、仕方のないことだ。


 それはお互いがわかっていて、でも、それで簡単に整理できるわけでもない。

 だからこそ、こうやってぶつかり合ってしまうのだ。


 ギルバートも少しは落ち着いてきたようだが、まだまだ心はぐちゃぐちゃだ。

 そんなギルバートに、エミリーは優しく言う。


「ギル、目の前でフィルを喪ったあなたの気持ちを、私はきっと正確にはわかってあげられてない。でもね、フィルの死を簡単に受け入れられないのはギルだけじゃない。私だってそうなのよ?だから、少しずつでいいから一緒に前に進みましょう?」


 エミリーはギルバートに手を差し出す。


 ギルバートの表情は、尚も辛そうで、苦しそうで、だからこそ、エミリーは優しく笑っていた。

 自分がギルバートを追い詰めるようなことをしてはダメだと、エミリーは自分を奮い立たせて。


 だけど、ギルバートがエミリーの手を取ることはなかった。


「無理だ」


 エミリーを突き放すようにギルバートは言う。


「俺だってわかってるよ、このままじゃダメなことくらい……けど、ずっとフィルが死ぬまでのことが頭で流れ続けやがる……!そんで、頭を過るのはただ一つ」


 ギルバートは辛そうに顔を歪めて、一呼吸おいて続けた。


「あいつじゃなくて、俺が死ねばよかった」


 その言葉に、強く頭を殴られたような衝撃を受けたエミリーはすぐさま否定する。


「そんなこと言わないで……っ!」


 エミリーの叫びに、ギルバートはビクッと肩を震わせる。


「そんなこと、言わないでよ……私はどっちが死んだって悲しいし、辛いよ。そんなふうに思わないでよ。お願いだから、そんなふうに自分を責めないで……」


 エミリーの静かな痛みを伴う言葉に、ギルバートはさらに顔を歪めた。


「しゃーねぇだろ……大体、俺がもっとあいつの方の敵も倒していれば、あいつが死ぬことはなかった。あんなに致命傷を負うことはなかった。後悔するってことは、どうしようもない“もしも”を考えちまうってことだろ」


 エミリーはその言葉に、はっとした。



 ──────ごめんね……そばにいたら、助けられたかもしれないのに……っ



 エミリーもそうやって“もしも”を考えたから。

 だから、エミリーはギルバートに何も言えない。エミリー自身がそれを正しいと思っているから。


「俺はあいつを守りきれなかった。同じ場所で戦っていたのに。ずっとそばにいたのに……!何のために俺はフィルとずっと一緒にいたんだ!?どんな形であれ、俺はエミィとフィルとずっと生きていたかったんだ!」

「ギル……っ!」


 ギルバートの悲痛な叫びに、エミリーはもう堪えられなかった。

 エミリーは、どうしようもなく傷ついているギルバートを支えるように抱きしめた。


 今まで、こんなに傷ついたギルバートを見たことがあっただろうか。

 泣いているのかは定かではないが、こんなにも震えているギルバートを見たことがあっただろうか。


 エミリーはギルバートの傷を少しでも癒したいと、強く、だけど優しく、抱きしめていた。


(もう、限界、かな)


 だけど、弱さをやっと見せてくれたから、エミリーはこれからギルバートを支え続けることを心に決めた。

 きっと、ここで弱さを見せたことは、ギルバートにとって前へ進むスタートラインになるはず。

 エミリーはただただそうであることを願うことにした。


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