第十話 ぐちゃぐちゃで
エミリーもギルバートも、お互いにぶつけ合う想いをうまく鎮めることができなかった。
それでも、幾分か冷静さを保っていたエミリーは少しずつ落ち着きを取り戻した。
「ギル、私もいるわ。だから、一人で抱え込まないで……?フィルのことは、ギルだけの問題じゃないもの」
エミリーはギルバートを、そして自分自身を落ち着かせるために、ゆったりとした口調で言った。
「っ!」
ギルバートは小さく唸る。
お互いに、フィリップのことで消化しきれていないものがあるのは確かで、それはあたりまえのことだ。
ずっと一緒にいたのに、それが最悪の形であたりまえでなくなったのだから、仕方のないことだ。
それはお互いがわかっていて、でも、それで簡単に整理できるわけでもない。
だからこそ、こうやってぶつかり合ってしまうのだ。
ギルバートも少しは落ち着いてきたようだが、まだまだ心はぐちゃぐちゃだ。
そんなギルバートに、エミリーは優しく言う。
「ギル、目の前でフィルを喪ったあなたの気持ちを、私はきっと正確にはわかってあげられてない。でもね、フィルの死を簡単に受け入れられないのはギルだけじゃない。私だってそうなのよ?だから、少しずつでいいから一緒に前に進みましょう?」
エミリーはギルバートに手を差し出す。
ギルバートの表情は、尚も辛そうで、苦しそうで、だからこそ、エミリーは優しく笑っていた。
自分がギルバートを追い詰めるようなことをしてはダメだと、エミリーは自分を奮い立たせて。
だけど、ギルバートがエミリーの手を取ることはなかった。
「無理だ」
エミリーを突き放すようにギルバートは言う。
「俺だってわかってるよ、このままじゃダメなことくらい……けど、ずっとフィルが死ぬまでのことが頭で流れ続けやがる……!そんで、頭を過るのはただ一つ」
ギルバートは辛そうに顔を歪めて、一呼吸おいて続けた。
「あいつじゃなくて、俺が死ねばよかった」
その言葉に、強く頭を殴られたような衝撃を受けたエミリーはすぐさま否定する。
「そんなこと言わないで……っ!」
エミリーの叫びに、ギルバートはビクッと肩を震わせる。
「そんなこと、言わないでよ……私はどっちが死んだって悲しいし、辛いよ。そんなふうに思わないでよ。お願いだから、そんなふうに自分を責めないで……」
エミリーの静かな痛みを伴う言葉に、ギルバートはさらに顔を歪めた。
「しゃーねぇだろ……大体、俺がもっとあいつの方の敵も倒していれば、あいつが死ぬことはなかった。あんなに致命傷を負うことはなかった。後悔するってことは、どうしようもない“もしも”を考えちまうってことだろ」
エミリーはその言葉に、はっとした。
──────ごめんね……そばにいたら、助けられたかもしれないのに……っ
エミリーもそうやって“もしも”を考えたから。
だから、エミリーはギルバートに何も言えない。エミリー自身がそれを正しいと思っているから。
「俺はあいつを守りきれなかった。同じ場所で戦っていたのに。ずっとそばにいたのに……!何のために俺はフィルとずっと一緒にいたんだ!?どんな形であれ、俺はエミィとフィルとずっと生きていたかったんだ!」
「ギル……っ!」
ギルバートの悲痛な叫びに、エミリーはもう堪えられなかった。
エミリーは、どうしようもなく傷ついているギルバートを支えるように抱きしめた。
今まで、こんなに傷ついたギルバートを見たことがあっただろうか。
泣いているのかは定かではないが、こんなにも震えているギルバートを見たことがあっただろうか。
エミリーはギルバートの傷を少しでも癒したいと、強く、だけど優しく、抱きしめていた。
(もう、限界、かな)
だけど、弱さをやっと見せてくれたから、エミリーはこれからギルバートを支え続けることを心に決めた。
きっと、ここで弱さを見せたことは、ギルバートにとって前へ進むスタートラインになるはず。
エミリーはただただそうであることを願うことにした。




