第九話 苛立ち
エミリーとラウルが話してから、二週間ほど経った。
ギルバートの様子は相変わらずである。
ラウルは言っていた通り、たまにギルバートのところへ行っていたが、エミリーはまだギルバートとの接し方を考えていて、見守っていることしかできなかった。
幼なじみであるが故に、距離が近すぎてこういうときに容易に踏み込めないのかもしれない。
エミリーはラウルを少し羨ましく思っていた。
ほどよい距離感で対等に渡り合ってきたからこその接し方ができているから。エミリーには簡単にできないことをやってしまうから。
だけど、気持ちでは負けていない。
エミリーがギルバートを想う気持ち、支えたいという意志は。
ギルバートは仲間による制止によって休まされる時間が長くなっていることに、非常に苛立っていた。それこそ、禍々しいオーラが見えそうなほどに。
だけど、仲間たちはどんな手を使ってでも働かせまいとするので、ギルバートは休むほかないのだ。
体は休まっても、心が休まることはない。いやでもフィリップのことを考えてしまう。
──────ギル、僕のことは置いていけばいい
(ふざけんな)
──────僕を連れていっていたら、君だって命を落としかねない
(誰が死ぬかよ。見てみろ。ちゃんと生きてるじゃねぇか)
──────僕だけじゃなく、ギルまでいなくなったら彼女がどれだけ傷つき、悲しむと思ってる?
(バカ野郎。お前だけが死んでも、どれだけエミィが悲しむと思ってんだ。お前がいねぇと、エミィは笑えねぇだろうが)
あのときの映像が頭に流れる度に、そうやってギルバートはフィリップの言葉に答える。
どうやったって事実は変わらないのに。過去に戻ることも、フィリップに会うことももう叶わないのに。
いや、だからこそ、思い詰めているのだ。それがわかっているから、もがきたくて。
辛くてしんどくて、もう考えたくなんかないのに。これを背負っていかなければいけないと、心のどこかで思っていて。
「くそったれ……何で、死にやがった……」
あの日からずっと、ギルバートの心はぐちゃぐちゃで、自分ですら何を考えているのかよくわかっていない。
誰の話も頭の中に入ってこない。ラウルの話だってそうだ。
どうしたって、ギルバートにはこの暗闇から抜け出せる気がしない。
「ギル」
強制的に休まされているギルバートは、いつも人の少ないところにある木を囲っている煉瓦に腰かけている。
だから、エミリーはそこへ向かって、ギルバートに声をかけた。
「ちゃんと、休めてる?」
エミリーは鋭い視線でこっちを見ているギルバートに恐る恐る訊いた。
「……お前も休めって言うのか」
「え……?」
ギルバートが視線を落とし、呟いた言葉にエミリーは困惑する。
「あたりまえでしょ?休まなきゃ、満足に働けない──────……」
「こんなんで満足に休めると思ってんのかよ?どいつもこいつも休め休めって……うるせぇんだよ!」
「みんな心配してるんじゃない……!」
エミリーの言葉を遮って叫ぶギルバートに、エミリーも辛そうに叫んだ。
「ギルが辛くて、だからこそ休みたくないって思ってることは、みんなわかってる。だけど、本当に休まなかったら、倒れちゃうじゃない!ううん、それ以上のことだって……だから、みんなギルを休ませようとしてるんじゃない……!」
「俺がどうなろうと関係ねぇだろ!」
「あるに決まってるでしょ!ここにいるのはみんな仲間なのよ!?」
エミリーもギルバートも、ただただ吐き出すように叫ぶ。
「俺はその仲間を、フィリップを救えなかった!それに縛られて、俺はもう動けねぇんだよ!良い方に、明るい方に……!」
「仲間を救えなかった人はたくさんいる!私だって救えなかった……!だけど、みんな前を向いて頑張ってるの!」
違う。こんなことが言いたいんじゃない。
エミリーは自分の意思とは違うことを喋ってしまっていることを、制止することができなかった。




