米津美琴の逆襲?
早見琉奈と蛇川日南との一件から数日後。
今日は久々に美琴と登校している萌斗だが、その内心は琉奈と日南の件がバレないかと心配していた。
自分が旅行に行っている間にまた女の子の知り合いが増えたことを知ったら、
美琴は怒り狂うかもしれない。意外と力は強いし、怖い。
それに正直自分の節操のなさにはうんざりしているところもある。
が、モテキには逆らえないのである。
クラスの友達に軽く挨拶をしながら、萌斗と美琴は教室に入る。
そして、
「おはよう戸神君!」
「加藤、おはよう」
「おはようございマス!萌斗サン!」
「おお、おはようカトラ」
「ちょっとカトラさんくっつきすぎ!」
早朝からスキンシップの激しいカトラに注意する詩織。
萌斗としてはカトラの夢いっぱいのボディに触れられて満足なのだが、
これ以上は詩織が怖いからやめておく。
「カトラ、離れてくれっ」
「なんでそんな苦しそうな顔してるの戸神君?」
「……いや私は無視かい!!」
突然、美琴が叫んだ。
「あら、米津さんいたの」
「おはようデス、美琴サン」
「どうしたんだよ美琴、大声なんか出して」
三人の反応にわなわなと震えだす美琴。
だが、単にいつもの怒りではなさそうである。
「仮にも友達でしょうが! 私久しぶりに学校来たんだけど!?」
「「「あ~」」」
「何よ! 三人そろって!」
萌斗たちはにやにやしながら美琴を見る。
「構ってほしいんだ?」
「なっ!? ち、ちがっ」
「まあまあ素直になれよ、美琴」
「あ、頭に手置くな~!」
「ちょっと嬉しそうデス」
「ううう嬉しくないわ!」
旅行から帰った美琴を取り囲むように三人は美琴をいじる。
今朝の教室には平和な時が流れていた。
そう、彼女が来訪するまでは。
一時間目の授業が終わり、次の授業までの時間。
萌斗はお手洗いに、詩織とカトラはクラスで集めた課題に提出に向かっていた。
そんな時美琴の席に白衣を着た知らない女子生徒がやってくる。
「戸神萌斗君はいるかな」
「へ?」
「やあ」
「蛇川日南先輩!?」
「こんにちは。君、戸神君の知り合いだろ? 一緒にいるところをよく見かけるよ」
「は、はあ。それで萌斗に何か用ですか?」
「まあね」
そういうと日南は白衣のポケットから何やら白い錠剤を取り出した。
「ちょっと被検体に」
「絶対危ない人じゃん!」
(っていうか、萌斗のやつ私がいない間にまた女の人と……!)
「まあいいや、えい」
「むぐっ!?」
ゴクリ。突如として美琴の口に突っ込まれた日南の手。
思わず錠剤を飲み込んでしまった。
「君に飲ませても結果は彼を経由して知れるだろうし」
「ちょっ、何飲ませたんですか!?」
「直にわかるさ」
「いや怖すぎるんですけど! 危なくないんですよね!?」
「うるさいなあ、死んだりはしないよ。体は。」
「なにそれ怖すぎるってぇ!?」
それだけ言うとさっそうと去っていった日南。
それと入れ替わりで入ってくる萌斗。何やら慌てているようだ。
しかし、肝心の美琴はすでに意識が朦朧としていた。
美琴が目を覚ます。まだ眠たそうなことに瞼が開ききっていない。
「お、起きたか! よかった……」
「あれぇ? 萌斗ぉ?」
「大丈夫か? 蛇川先輩が教室から出ていくのが見えたから心配したぞ」
「あー……」
「どうした? まさか何かされたのか……?」
ふらふらとした様子で、受け答えもしっかりしない。
萌斗は焦っていたが、美琴はだんだんと調子を取り戻し始めた。
目が完全に開いたところで萌斗は安堵する。
が、
「萌斗~、寂しかったよっ」
「美琴!?」
急に萌斗に抱き着く美琴。
ふわっといい香りがし、一気に心拍数が上がる。
「どうした!? なんでこんな……!」
「なんでって、それは私が萌斗を好きだから?」
「あえええええええええええええ!?」
直球すぎる一撃にクリティカルを食らう萌斗。
さらに美琴は畳み掛ける。。
「大好き」
そう耳元で囁いた。
「ああ、俺……ってあっぶねえ!」
あまりの可愛さに危うく自分からも言いかけた。
(美琴ってこんなに可愛かったのか? いや可愛いな、それにしても可愛い)
ぎゅっと抱き着きながらニコニコと笑顔の美琴。
もうここで終わってもいいと萌斗は思った。
刹那、本当に死の予感がする。
女の争いに巻き込まれる中で萌斗が手に入れた第六感だ。やだ女怖すぎ。
慌てて美琴を引きはがし席に座らせる。
と、同時に詩織とカトラが帰ってきた。
(ギリギリセーフ!)
「萌斗~! もっとぎゅーしてよ!」
(アウトー!)
「どういうこと?戸神君……」
(ツーアウト!)
「ハグしてたんデス?」
「スリーアウト、チェンジ!」
「まって」
「萌斗行かないで~」
「ワタシともハグするデス!」
席を立とうとする萌斗の手をつかむ一同。
「どこいくの?」
「い、いや攻守交替なんで……」
「そんなのが通用するとでも……?」
「ですよねー!」
萌斗は涙を流しながら席に戻った。
昼休み、萌斗は詩織たちに日南襲来のことを話した。
「で、慌てて戻ってみればこの有様だ」
「なるほどね……」
「惚れ薬的なものかと思う」
「確かにそうデス、ここまで変わるのはおかしいデス」
萌斗の腕に抱き着いている美琴を恨めしそうな目で見る詩織。
片や羨ましそうな目で見るカトラ。
「まあでも作った本人に聞かないとわからないよ」
「そうだよな……」
「でもそうなると話を聞きに行けるのは戸神君だけか」
「え、なんで」
「あの人の研究室って普通入れないから」
そういわれて前に琉奈が似たようなことを言っていたのを思い出した。
「でも、どうやら戸神君は先輩のお気に入りみたいだし?」
「はい、すみません……」
「すぐに何とかしてね、戸神君」
「仰せのままにっ」
萌斗は詩織に言われるとすぐさま日南の研究室へと向かった。
「萌斗サン、詩織さんには敵わないデスネ……」
「まあ、将来は尻に敷いちゃうかもね」
「……変態さんデス?」
「本当に敷いたりしないから!」
息を切らしながら研究室へとたどり着いた萌斗。
主に腕にくっついたまんまの美琴が原因なのだが。
「蛇川先輩、入れてください」
「来たね」
ドアが自動で開き、すぐそこに日南はいた。
「ここじゃなんだし、奥へどうぞ」
相変わらずふっかふかの椅子に座る。
丁寧なことにお茶が出てきたが正直飲むのが怖い。
「で、美琴になにしたんですか」
「これを一錠」
「いや先輩怖すぎますって」
日南が錠剤を取り出したのを見て引く萌斗。
「ほんとは君に飲ませる予定だったんだけど」
「……それは聞きたくなかった」
「まあ、この子でも結果は君経由で聴けると思ってね」
萌斗の腕に抱き着きながら名前を呼んでいる美琴。
ああ可愛い。じゃなかったかわいそうに。先輩の実験体にされてしまうとは。
「で、それは惚れ薬かなんかですか」
「いや? 素直になる薬さ」
「え?」
「しかも即効性が高いが、どうやら長続きしないようだ」
「……え?」
萌斗が美琴の方を見ると、先ほどのような美琴はおらず
そこにいたのは顔を真っ赤にして気まずそうに座っている女の子だった。
翌日。
微妙に距離を取りながら登校してきた萌斗と美琴。
教室に入ってからもなんだかよそよそしい。
「二人とも、喧嘩デス?」
「いや、そういうんじゃないんだけどな……」
「じゃあなにがあったデス」
「そ、それはあんまり言いたくないというか」
カトラが萌斗と美琴に詰め寄るも曖昧な答えしか返ってこない。
しかし、詩織は薬のことだとすぐに気が付いた。
「あの薬、どういう効果だったの? 見た感じもう収まったみたいだけど」
「え!? あ、えー……」
「本当は素直になる薬だったとか恥ずかしくて言えない……」
「あ」
「え?」
ポロっと美琴が言ってしまう。
「へ、へえ……米津さん心の中ではああいうことしたいって思ってたんだ」
「ち、ちがっ」
「……大胆デス」
「カトラまでっ!」
美琴を見る目がなんだか冷ややかになってくる。
萌斗の方を見ても、もうフォローしきれないとばかりに苦笑いしている。
「しょうがないじゃない!好きなんだから!」
「……おい」
「あっ」
「米津さん……」
「……大胆デス」
美琴はしばらくの間素直になる薬による後遺症に悩まされることになった。