表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

第四の刺客 早見琉奈

珍しく萌斗は一人で走っていた。

絶賛モテキ中のこの男の周りに女の子の影がないことはまれである。


というのも美琴が現在、家族旅行で留守にしているため起こしてくれる人がいなかったのだ。

そして当然のように寝坊してしまい今に至る。


しかし、彼には遅刻することなんかよりも心配していることがあった。


(右見て左見て……よし行ける……!)


そう、ベッタベタな曲がり角でのエンカウントである。

出会った女の子を軒並み惚れさせるモテキ中にこのイベントが起これば、

間違いなく恋が始まってしまう。一方的に。


既に四人に言い寄られている彼にとってはこれ以上の出会いは避けたかった。


(また角か……右見て……)


再び曲がり角に到達し、注意して周りを見る。

が、萌斗が左を向いた時にそれは起こった。


「ひだぶぁっ!!」

「おっと」


ものすごいスピードでぶつかった()()はかかとをブレーキにして止まる。

萌斗はすでに塀にめり込んでいた。


「ごめんごめん、大丈夫かー?」

「……。」

「あ、あれ?」


萌斗の返事はない。

そして彼がめり込んでいる塀からは赤い液体がドクドクと流れ出ていた。






「やめてくれ加藤!」


萌斗はそう叫びながら跳ね起きた。

なんだかおぞましい悪夢を見ていた気がする。


「あ、おきたか! よかった~」

「へ?」


安堵の表情をする女子生徒。萌斗はそれが誰だかは知らなかったが

ここが保健室で、自分がベッドで寝ていたであろうことを察した。


「あれ、俺なんでここに」

「いやー、今朝あたしが君にぶつかっちゃってね」

「ぶつかって……?」


萌斗は曖昧な記憶の中を検索する。

人とぶつかった覚えなどなかったが。


「んで君を吹っ飛ばしちゃってね」

「吹っ飛ばす……?」

「血が止まらなかったときは殺しちゃったかと」

「殺……?」


理解しがたいことを言っていた。

人がぶつかっただけでそこまでの大惨事になるだろうか?


しかし、萌斗は次第に思い出した。


(そういえば何かにはねられたような気がする……)


とはいえ流石に人から繰り出せる威力じゃない。

軽トラとかだった気がする。と考える萌斗。


しかし、そのあとやってきたもう一人の女子生徒に衝撃の事実を知らされる。


「やあ、起きたね」

「だ、誰です?」

「まずは自己紹介からか、私は蛇川 日南(へびかわ ひなみ)


そしてこっちが、と先ほどの訳わからないこと言っていた女子生徒に自己紹介を促す。


「ああ、そっか早見 琉奈(はやみ りゅうな)だ」

「君は二年生の戸神萌斗君だろ?」

「なんでしって……?」

「そりゃ君は有名だからね、おもに女子がらみで」

「あ……なるほど……そすか……」


萌斗が落胆していると、蛇川と名乗った女子生徒はカバンからケータイをとりだし

萌斗に画面を向ける。


「これは……?」

「今朝琉奈が君にぶつかったんだってね?」

「いや俺は車か何かにはねられたと……」

「そういうと思って、この映像を持ってきたんだ」

「おっ、懐かしいなー!これ!」


日南が再生ボタンを押すと、そこには琉奈の姿。

運動着で陸上のトラックに立っている。


銃声と共に走り始めた。のだが。

琉奈の姿は一瞬にして見えなくなった。


萌斗は理解できずに声を漏らす。


「……ソニックかな?」

「分かるよその気持ち」


すこしして、琉奈の姿が見えた。

……なんだか妙な動きだし遅いのは何故だろう。


「これは……?」

「ああ残像だよ」


日南はさらっと答えた。


(あ、ありえねえだろ……編集とかで……)


「編集、加工なども一切施していない」

「そんなバカな!」

「申し訳ないけど本気だ、この早見琉奈という女の身体能力は生物の枠を超えてる。」

「なんかよくわからないけどごめんなー」

「当の本人が理解してないだと……」


日南はケータイをカバンに戻すと出口に向かった。


「まあ琉奈がぶつかって怪我した分は私が治してあげたから、チャラにしてくれたまえ」

「治したって、どういうことだ?」

「日南はな!天才なんだ! なんでもできるんだぞ」

「は、はあ」


琉奈のアホっぽい回答に気が抜けたように返事をしてしまう。

意味の分からないことだらけの二人に困惑し続けていた。


「じゃあ、あたしは授業あるから戻るな」

「あ、ああ……」


たたたっと保健室を出ていく琉奈。

その後ろ姿を見送ると、ひょこっと入れ替わりで見知った顔が入ってきた。


「兎ちゃんかどうかした?」

「どうかしたのは先輩の方ですよ!」

「ああ、これは今朝人……もとい人ならざるものにな」

「それも気になりますけど、さっき出ていった二人ですよ!」

「あの二人が何だ?」

「あれ学校でも超有名な三年の早見先輩と蛇川先輩ですよね!?」


若干興奮気味で迫ってくる兎にたじろぐ萌斗。

てかあの二人先輩だったのかよ。口調とかやっちまったかな。


「そんなに有名なのか」

「当たり前じゃないですか!」


そういうと兎はケータイの画面を萌斗の顔に押し付けた。

いや、それだとさすがに何も見えないからね?


萌斗が少し画面から離れると、それはネットニュースの画面だった。

そこには先ほどの琉奈の写真。どうやら、スポーツに関する記事のようだが。


「早見先輩の人間離れした運動能力で、この高校の陸上部は最強なんですよ!」

「やっぱりさっきのはホントだったのか……」

「前にサッカーしてるとこ見てましたけど、ひとりで十五点決めた時点で退場になってました。」

「悲しき化け物みたいだな……」


まあ証拠映像も見ているし、琉奈が化け物じみていることは理解ができた。

しかし、日南の方は見当もつかないが。お世辞にも運動ができるタイプには見えない。


「そして蛇川先輩は超天才リケジョ!」

「なんか規模小さくなってないか?」

「そんなことありません! 小学生の時点で大人顔負けの論文書いてるんですから!」

「……嘘だろ?」

「この学校にも学校側からお願いして入学してもらったとかなんとか」


よく考えたら、あのスピードで走れる琉奈にぶつかっておいて

五体満足でいられるというのも不自然な話だ。


……まさかさっきの()()()ってそういうことか……?

思わず萌斗は自分の体を触る。どこにも違和感はない。


(まじかよ……)


萌斗は自分が途方もない才能たちと邂逅してしまったことに

ただの女の子であった方がいくらマシだったろうかと思った。






日南が治してくれたらしい体は何事もなく一日を過ごせた。

まあ、詩織やカトラの攻防が美琴がいない分いつもより激化していたが。


今もそうだ。下校の時間になり、二人はどちらが萌斗と帰るかもめている。


「戸神君の家知ってるし私が送ってくよ」

「萌斗サンは怪我したんデス! 車で帰るのが一番デス!」

「カトラ車で来てたのか?」

「……? 当然デス!」


言い合いのさなか背後のドアが開く。


「お、いたいた二年生」

「早見先輩!?」

「戸神君、早見先輩って……あ、あの早見先輩!?」

「だれデス?」

「なぜここに……」


すると琉奈は頭を搔きながら、照れくさそうにいった。


「あたしの不注意でケガさせちゃったから面倒見ろって……」

「え」

「「え?」」


この一言で萌斗も言い合っていた二人もフリーズした。






萌斗の家、そこでは萌斗と琉奈が向かい合って座っている。

まあ、その横には詩織がいるのだが。


琉奈は萌斗に食事を食べさせてあげている。

詩織が作った料理を。


「ほら、口開けろー」

「自分で食べられますって」

「だめだ、あたしが世話係なんだから」

「そんなクラスで飼ってる生き物みたいな……」


そんな事をしているときも、詩織はすごい眼で睨んでいる。

とはいえ琉奈が頑なに世話をしている以上、

実力行使に出ると返り討ちにあうことも承知しているのか、見ているだけにとどめている。


「ほら行くぞ、あー……」

「あ、あー」

「ンッ!!!」


鋭く顔にめがけて飛んできた銀色をすんでのところで躱す。


「あっぶねぇ!」

「ありゃ、避けちゃダメだろ」

「どこの世界にあんな槍みてえな”あーん”があるんですか!」

「って言われてもあたしも緊張してうまく力加減できないんだよ」


もっかいいくぞー?と琉奈は次弾の装填をする。

詩織がさっきよりも萌斗の方に身を乗り出しているような気もする。


「あー……」

「……あーん」

「ンッ!!!」


ブンッと空を切る音。


「また外したか」

「だから死ぬってぇ!!」

「早見先輩! いい加減にしてください、危険です!」

「そんなこと言われてもなあ」

「ほかのところで世話すればいいじゃないですか!」

「でも萌斗、いくらあたしが力んでるとはいえ本気の一撃を何度も避けるんだぞ?」

「……それが何か?」

「こんなやつ初めてだよ!」


琉奈は嬉しそうな顔でそういった。

確かに、人類最強クラスのお世話に扮した攻撃を二度も躱すなんて並みの人間ではない。


「あたしお前が気に入ったぞ!萌斗!」

「あ、ああ……また増えるの……?」

「まさか……」


ウキウキと萌斗を見つめる琉奈、新たなライバルの予兆にうなだれる詩織。


しかし、萌斗だけは全く別のことを考えていた。


(早見先輩の攻撃を躱せるほどの身体能力……)


そう、今朝までは琉奈の動きをとらえることもできなかったはずだ。

だが今ではこの至近距離でも見える……。


(蛇川先輩……俺の体になにしたんですか!?)







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ