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月城兎の試練

月城兎は一年生の中でもトップクラスの美少女である。

さらにサッカー部のマネージャーで顔も広く、いわゆる人気者だ。


そんな彼女にも想い人がいる。

二年生の戸神萌斗である。戸神萌斗は学校中で噂の絶えない人物であり、

そのすべてが女がらみという、いわゆる()()()だ。


が、すでに惚れてしまっている兎にとっては関係のないことだった。

それよりも懸念されるのはいつも萌斗と一緒にいるあの三人である。


小さい体と幼い顔立ち、陰では人気が高いといわれる幼馴染の米津美琴。

突如現れたとんでもスタイル留学生、カトラ・フラワーズ。


そしてあの日のことは忘れもしない。

兎と萌斗の時間を壊した上、意識が飛ぶほどのヤバい物を兎に食わせたあの女。

加藤詩織はどうにかしないといけないと思っていた。




ある日の登校時、兎は萌斗を発見する。

隣には小さい影。おそらく美琴である。


「戸神先輩! おはようございます!」

「おお兎ちゃんか、おはよう」


朝のひと時を邪魔されたのが気に食わなかったのか、

美琴は不満げな顔をして見せる。


「米津先輩もおはようございます!」

「へ? あ、ああ、おはよう」


満面の笑みで美琴に挨拶する兎。

不意打ちにたじろぎながら、先輩……先輩かぁ……、とつぶやく美琴を見て

兎はちょろいと認定した。


「米津先輩どうしたんですかー?」


兎が悪い顔で尋ねると、意外にも萌斗が返した。


「こいつ、部活入ってないから先輩呼び慣れてないんじゃないか?」

「う、うるさいわ! いいじゃんちょっと嬉しかったんだもん!」

「戸神先輩は米津先輩のことよくわかってるんですねー」

「そりゃ幼馴染だからな」


顔を赤くして答える美琴にも、萌斗にわかってもらえている美琴にも

兎は嫉妬してしまった。


(この先輩、ふつうに可愛いわ……)


「てかアンタたち恋人ごっこはもう終わったの?」

「そうですよ先輩! 結局うやむやになっちゃったじゃないですか!」

「俺としてはもはや思い出したくないんだけどな……」


苦笑いしながら言う萌斗を見て、兎の心臓はキュッとなる。


「えっ、そ、そんなに嫌でしたか……?」

「ちょっと萌斗、引き受けておいてそれはないんじゃないの?」


(ああ、米津先輩やさしい……でも泣きそう……)


美琴にそう言われると萌斗慌てて訂正した。


「あ、いやそういうことじゃなくて、その……ほら、加藤がな……」


そう虚ろな目で言う萌斗を見て、美琴は察した。

なんなら同情してしまうまでだった。


「月城さんも大変だったでしょ……あのサイコは」


美琴が兎の方を見ると

兎が頭を抱えながら小刻みに震えていた。


「ど、どうしたの!?」

「加藤詩織怖い加藤詩織怖い加藤詩織怖い加藤詩織怖い加藤詩織怖い加藤詩織怖い……」

「トラウマ植え付けられてる!」






「大丈夫? 月城さん」

「は、はい……あと兎で大丈夫です」

「そう? わかったよ、兎ちゃん」


にこりと笑う美琴から温かい飲み物を美琴から受け取る兎。

まだ少し震える手でそれを飲み、落ち着きを取り戻す。


「どんだけ深刻なのよ……」

「俺は見てたからわかるが、あれは悪魔の所業だ」

「目の前が真っ暗になった!って感じですよ……」

「まさに瀕死状態ね」


兎を介抱しながら三人は学校に到着した。


「ありがとうございました! 飲み物まで」

「いいって、私たちの友達がやらかしたことなんだから」

「それも、もとはと言えば私が」

「俺が気にしてねえし、もういいよ」

「……ほんとにありがとうございます!」


優しい先輩たちでよかったと笑みがこぼれる。

それと同時に萌斗が遠くなったようにも感じた。






昼休み、購買に向かう兎。いつもよりも人が多い気がする。

それもそのはず、購買で新商品の販売があったのだ。


こういう日に限って弁当ではない。

ついてないな、と感じてしまう。


列に並ぶと目の前の人が珍しい髪色であることに気づく。


(きれいなブロンド……もしかして)


「あの、カトラ先輩ですか?」

「ほ?」


その女子生徒が振り向いたとき、兎は可愛さで息が止まった。

日本人にはないタイプのかわいらしさ、とんでもねえ……。


「や、やっぱりカトラ先輩だ」

「あ! アナタはいつぞやの彼女さんデスネ?」

「あはは、フリですよフリ」

「それでも羨ましいデス!」


屈託のない笑顔と素直な言葉が胸に刺さる刺さる。

こんな純粋な人がまだこの世にいたなんて。


「カトラ先輩はいつも購買なんですか?」

「いつもはお弁当デス、今日は忘れてしまいマシタ……。」

「そうなんですか、なら私のおすすめ教えますよ!」

「ほんとデス? 嬉しいデス!」


手を挙げて喜ぶカトラ。

その様子を見てこんな人には尽くしてあげたいな、とか考えてしまう。


また少し自信を無くす。

萌斗の周りにはこんなに魅力的な女の子がいたなんて。




昼ご飯を買い、二人で中庭のベンチに腰掛ける。

食事をしながら兎は恐る恐る聞いた。


「先輩はお弁当、自分で作るんですか?」

「ママが作ってくれマス!」

「そうでしたか」


それを聞いて少しホッとする。これで女子力高いとかだったら勝ち目ないし。

幸い、兎は自分でお弁当を作る。


「萌斗サンにはお菓子とかたまに作ってくるのデスガ」

「へ、へぇ~」

「まだ食べてもらったことがないデス……」

「野郎! ゆるせねえ!」


思わず萌斗を殴りに行こうかと思ってしまった兎。

が、冷静になる。


「よかったら私が食べますよ」

「ほんとデス!?」

「私料理とか得意ですし、教えてあげられるかもです」

「今すぐ持ってきマース!」


そういうとカトラは急いで教室に戻った。


(ほんと可愛らしい先輩)


嫌でも慈しみの眼差しを向けてしまう。

そしてその眼差しは一瞬にして凍り付いた。


「久しぶり、月城さん」

「あ、ああ、ああああ……」


背後からこの世で最も聞きたくない声がした。


「かかか、か、加藤、せ、先輩……」

「そんなに緊張しなくても」


(緊張ちゃうわ! 恐怖だわ!)


「まあ私だししょうがないか、可愛いもんね」


(自信満々かよ!)


「冗談はさておき、この前のこと……その、謝りたくて」

「へ?」


予想外すぎる言葉に気の抜けた返事をしてしまう。


「ごめんなさい、戸神君のことになると私、周りが見えなくて」

「は、はあ」

「月城さんに迷惑かけちゃった、ほんとにごめんなさい」

「あ、頭上げてください!」


かたくなに謝っている詩織を見て、兎は考えを改める。

悪い先輩ではないのか……?と。


「そのことは、もういいですから」

「ほんとに?」


上目遣いの詩織に絶句する。ああ、そういえばこの人超かわいいんだった。


「はい、それに私には勝ち目ないですし……」

「どういうこと?」


思わず漏れた心の声、詩織には聞こえていた。

観念して兎は話す。


「戸神先輩の周りには魅力的な人が多すぎるんです。加藤先輩だって」

「それで自信を無くしちゃったの」

「まあ、はい……」


すると詩織は微笑みながら兎の手に手を重ねる。


「月城さんだってとっても魅力的だよ」

「そんな……」

「私たちだって脅威に感じてるんだから」

「私を?」

「米津さんもカトラさんもみんな他の人にはない、自分なりの魅力がある」


重ねられていた手を頭に持っていき、兎をなでる詩織。


「その魅力を活かして勝負しなきゃ」


優しい手つきに温かさを感じる。

詩織の言葉によって兎は次第に自信を取り戻していった。


「だったら、先輩たちみーんな出し抜いちゃいますからね!」

「そう、その意気だよ」

「私、こう見えてかなり策士ですから」

「ふふ、たのしみにしてる」


大丈夫そうだし、戻るね、と帰っていく詩織の背中を眺める。


(戸神先輩が絡まないとめちゃくちゃ良い人なんだけどなぁ)


そんなことを思っているとカトラが帰ってくる。

その手にはクッキーのようなもの。


「兎チャン!これどうぞデス!」

「ありがとうございます!早速味の批評しちゃいますからね」


パクリ。

その時、兎は自分のトラウマの正体を知った。






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