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調査ファイル:加藤詩織

萌斗は驚愕していた。月城兎との一件の時に判明した、詩織の狂気に。

その日は帰ってからも服やカバンの中にまだ何か隠されていないかをよく確認した。


二つくらい出て来た。


赤い光を放つ何かしらの機械を眺め、萌斗は崩れ落ちる。

あの完璧美少女は一体何を考えているのだろうか。


「ということで加藤を調査することにした。」

「いやもうそれ通報していいんじゃないの……」

「何言ってんだ美琴、そんなことしたらクラスの男子に殺されるわ」

「アンタらねえ……」


クラスの至宝が失われるようなことがあってはいけない。

その上で詩織の行動を何とかしなくてはならない。それが萌斗の思考だった。


この男も例にもれず、バカで男子高校生だったのだ。




調査初日。

萌斗は朝から美琴と一緒に詩織を尾行する。


「ねえ、こんなことして意味あるの?」

「加藤がいつ俺のものに何か仕掛けてるのか見たいからな」

「見てどうするの」

「仕掛け方が分かれば自分で外すとか対処できるだろ?」

「……いや本人に言えばいいじゃん」

「加藤が好きで俺のためにやってくれてるかもしれないんだぞ!」

「バカっ、声でかいっ」


慌てて二人は物陰に隠れる。

詩織は何かに反応したようだったが、すぐにまた歩き始めた。


「萌斗のためって、アンタ迷惑してるじゃん」

「でも悪意じゃない、しかもあんな美少女の厚意を無下にはできん」


美琴はため息をつきながらも、萌斗と共に動き出した詩織の後をつける。


(男ってほんとバカ……)




学校につくと詩織がさっそく動いた。

昇降口にて最初に開いたのは、ほかでもない萌斗の靴箱である。


「何してるのかしら……」

「まさかラブレターとか……?」

「今更そんなことしないでしょ」


詩織は靴箱の中をくまなく調べると


「ちっ……今日はあった……」


中から手紙のようなものを取り出して破いた。


「えっ? えっ?」

「萌斗……あんた節操なさすぎ」

「まって俺手紙なんて見たことないんだけど?」

「大方あいつが毎朝チェックしてるんでしょ」

「そんな……そんな……」


ラブレターを検閲されていた事実を知り、涙を流す萌斗。

美琴は少しばかり詩織に感謝していたが。


「何してるんデス?」

「うわっ! ってカトラか……」

「びっくりさせないでよ!」

「あれは……詩織サン! おはようデス!」

「ちょっ、まずい!」


突然現れたカトラによって萌斗と美琴も詩織に見つかる。


「ああ、おはよう……って、戸神君もいたんだ! おはよう!」

「カトラの時とトーン違うじゃない……」

「お、おはよう、加藤」

「今日は早いね!」

「あ、ああ偶然目が覚めてな」

「ちょっと、私もいるんだけど」

「ワタシもいるデスヨ?」

「いつもはあと十分くらい遅く来るのに」

「……よ、よく知ってるな……はは……」


萌斗の腕をつかみ先へと促し、隣を歩く詩織。最高の笑顔で談笑する。

その後ろを詩織に無視されながらも、食らいつく美琴。文句が止まらない。

あんまり何も考えずについていくカトラ。あ、こけた。






調査二日目。

昨日はカトラ襲来と共にいつもの雰囲気に戻ってしまい、調査の続行はできなかった。

……正確に言うと、帰宅まで詩織が萌斗のそばを片時も離れなかったのである。


そんな反省点を踏まえ本日も尾行から入る。

今日も詩織は萌斗の靴箱チェックをしている。


「こちらコードネーム:モテキ、そっちの様子は?」

「こちらコードネーム:マウス、問題ない」

「コードネーム:デカチチ出現にだけは気をつけろ」

「分かってる、今のとこコードネーム:デカチ……って何言わせんのよっ!」


美琴は少し顔を赤くしながらトランシーバーを投げつける。


「こちらコードネーム:モテキ、恥じらう美琴が可愛い」

「ううううるさいわっ!」

「うるさいのは米津さんでしょ」


そういったのは詩織だった。

心臓が飛び出したかのような驚きを覚える美琴。


「あ、ああ、かとう……しおり……」

「なに? 私の顔に何かついてる?」

「またやっちまった……」

「あれ! 戸神くん! おはよう!」


再び調査失敗となってしまったことで、萌斗はうなだれていたが

詩織は萌斗を見るなりまぶしい笑顔を見せた。


萌斗はそれだけで回復する。


「さ、教室に行こうか。加藤。」

「うん!」

「ほら、腕につかまってくれ」

「ありがとっ!」

「はっはっは」


美琴はすぐさま追いかけたかったが、腰が抜けて動けない。

小刻みに震える美琴のもとにカトラが登校してきた。


「お? 美琴サン、おはようデス!」

「こ、こちらコードネーム:マウス……デカチチ発見……」


下から見上げたカトラの()()に圧倒され、美琴は気を失った。






その後も加藤詩織の調査は続いたが、毎回うまくいかず難航していた。

萌斗は頭を抱える。


「どうしたら、調査できるんだ……」

「だから本人に直接やめてって言えばいいでしょ」

「それが出来たら苦労しねえよ」


萌斗は直接言ったときのことを考える。


『加藤、こんな事もうやめてくれ!』

『ひどいっ!戸神君! 私は戸神君のためにやってるのに!』

『あ、おい待てよ!加藤! 加藤ー!』


さよならっ、と言って教室から飛び出す詩織。

それに手を伸ばすも届かない。詩織はどんどん遠ざかる。


(悪夢だ……)


「それかもう通報よ通報」

「それだけは絶対にない」

「はあ……ほんとにバカ。」

「なんとでもいえ」


頑固な態度を見せる萌斗に美琴は諭すように言う。


「そうはいってもね、これは立派な犯罪なのよ?」

「……。」

「加藤詩織のためにも直接言ってあげなきゃ」


美琴の言うことをもっともだと思ったのか、

萌斗はしぶしぶ答えた。


「……わかったよ」

「あした、放課後にでも言ってね」

「ああ」

「じゃ、私は帰るから」

「またな」


隣の美琴の家の玄関まで送る。

ドアを開けかけたとき、萌斗は言った。


「悪いな、付き合わせちまって」

「いいって、幼馴染なんだからこういう時は頼って」

「ああ、ありがとな」

「それに、私もあいつには道を踏み外してほしくないっていうか、そこまで嫌いじゃないっていうか……」

「はは、そうだったのか?」

「ああーもう、じゃあねっ」


美琴は家の中に逃げるように入っていった。






翌日、放課後。

他のクラスメイト達は各々部活やら帰宅でいなくなったころ。


静かな教室に萌斗と詩織は二人だけだった。

詩織が明らかに緊張している中、萌斗が口を開く。


「なあ、加藤」

「ひゃいっ!」

「俺に発信機とかつけるのもうやめよう……」


萌斗は自分で言ってて少し引いた。どういうセリフ?これ。

詩織の可愛さのせいで見えてなかったが、その行動自体はやはり怖いものだ。


「……でも私は戸神君の安全のために……この前だって!」

「たしかに、この前は助かった。でもな」


泣きそうな顔をしている詩織を見て躊躇したが

心を鬼にして萌斗は続ける。


「これは犯罪だ。加藤のためにもこんなことは続けちゃだめだ!」

「……そういわれちゃしょうがないね、やめるよ」

「お、おう?」


やけにすんなり受け入れた詩織

すると詩織は萌斗の制服とカバンから8つの機械を取り出す。


(ええええええええええええええええ)


まだ機会がつけられていたことに驚きを隠せない萌斗。

しかし、詩織は淡々と続ける。


「この中には発信機だけじゃなくて盗聴器もあるの」

「え?」

「だから、戸神君がこれをやめさせようと私を尾行してたのも知ってるよ?」

「ええ?」

「だから言われたら止めようと思ってはいたんだ。それにいいものも手に入ったしね」

「……いいもの……?」


詩織はおもむろにケータイを取り出すと画面をタップする。


『加藤が好き!』


……萌斗の声だった。

詩織はにこっと笑う。


「なんだよ、それ……俺そんなことっ」


(『加藤が好きで俺のためにやってくれてるかもしれないんだぞ!』)


「あ」

「これで両思いだねっ」






翌日。

美琴は珍しく寝坊してしまった。急いで教室に入る。

授業に間に合わないからではない、先に言った萌斗が心配だからである。


そして案の定、教室に入ると詩織が萌斗と一緒にいた。

だが予想外だったのはその距離の近さである。


あまりにも近い。美琴はダッシュで駆け寄り、問いただす。


「なあにしてんじゃあ!」

「あら、おはよう米津さん」

「あら、じゃないわ!」

「み、美琴……たすけ」


萌斗がそこまで言うと詩織がケータイを取り出す。

すると萌斗は慌てて口をふさぐ。


「いま助けてって言った!なにしたの加藤詩織!」

「別に~?ねー、戸神君」

「あ、ああ……」


あからさまに元気のない萌斗。ニヤリ笑っている詩織。

美琴は叫ぶように言った。


「やっぱりこの女嫌い!!」




結局、放課後に美琴が例の音声データを発見し削除するまで

詩織による萌斗の支配は続いたのだった。


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