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第三の刺客 月城兎

戸神萌斗の悩みの種はすくすくと成長していた。もはや悩みの苗である。

暴走する彼のモテキとその彼を取り巻く女子たちは、より悪い意味で加速していく。


その最たるものとしては、今のこの状況がそうだ。

萌斗は自分の席にて可愛らしいたれ目の女の子、美琴よりは少しばかり背が大きいだろうか、

その子に腕を組まれて座っている。


まあ、いつものごとく詩織たちに不満の視線を向けられてはいるのだが。


「俺はまた、やっちまったのか……?」

「えへへ」


萌斗の隣で満面の笑みを浮かべるこの少女、月城 兎(つきしろ うさぎ)

モテキの餌食になってしまったのは一週間前ほどに遡る。






授業と授業の間の休みに藤枝が窓の外を眺めている。

そんな黄昏た雰囲気がなんだかムカついて萌斗は声をかけた。


「何してんだ藤枝。キモイ顔になってんぞ」

「お前は開口一番ひどいことを言うな……」

「何見てたんだ?」

「ほら、あの子だよあの子」


藤枝が指さした先には小柄の女の子。

とあるクラスが体育の授業を終えたところらしい。


「あの子がどうしたんだよ」

「いや、部活のマネージャーで、後輩なんだけどさ」


すると藤枝は先ほどの目も当てられないような醜い顔になった。

……少し言い過ぎたかもしれない。


「献身的で優しいし、声も顔も可愛いし、最高なんだよぉ~」

「……うっわ」

「なんだよその態度! お前だってうさぎちゃんに会ったらこうなるからな!」

「うさぎちゃんってあだ名か?」

「いや、本名だぞ」

「またすごい名前だな、月に代わってお仕置きとかしそう」

「なんだそれ? でもそこも可愛いんだよなぁ~」


どうやら藤枝はすでに彼女にゾッコンだったようだが、

この時点では萌斗にとっては、まだ友達の後輩程度でしかなかった。




しかし、その日の昼休みに事件は起きた。


萌斗といつもの三人、美琴、詩織、カトラは昼食を一緒に取る。

藤枝もいることが多いのだが、今はトイレに行ったきり帰ってこない。

……でかいほうか。


カトラが手作り弁当を萌斗に食べさせようとして、美琴と詩織が止めに入る。

単純に萌斗の命のために。


そんなことをしているときに教室の後ろのドアが勢いよく開いた。


「もうこの際藤枝先輩でもいいんで助けてください!」


そう叫んで教室に入ってきたのは、さっき藤枝が言っていたあの後輩である。

彼女は藤枝がいるはずの席に来ると空席であることに困惑していた。


(あれは確か……うさぎちゃん、だったよな。藤枝が言ってた)


後ろでまたも争っている三人をよそに、

萌斗は教室を見渡している彼女に話しかけた。


「うさぎちゃん、だよね」

「えっ、誰ですか、なんで私の名前知ってるんです」

「ああ、ごめん。俺は戸神、藤枝の友達だよ」

「あ、そうだったんですか」


そういうと兎は萌斗のことをジロジロと見回す。

耐えかねた萌斗はたまらず切り出す。


「……ふ、藤枝に何か用か?」

「え? ああ、もういいんです」

「そうなのか?」

「そのかわりに戸神先輩に用ができました」


(用って今知り合ったばかりなんだけど)


「戸神先輩には私の彼氏になってもらいます!」

「だから今知り合ったばかりなんだけど!?」


萌斗は後ろなんか振り向かなくても分かった。

美琴たち三人の視線が自分に突き刺さっていることを。




「……というわけなんでしばらく彼氏のフリをお願いしたいんです。」


放課後になり、落ち着いて改めて説明を受けた。

紛らわしかったが、どうやら付き合ってほしいとしつこい男子生徒を諦めさせるために

彼氏のフリをお願いしたいということらしい。


(おかげで今の今まで美琴たちからのアプローチがいつもの数倍きつかったが)


「でもなんで俺なんだ?」

「サッカー部の先輩方でマシな人たちはみんな彼女さんがいるみたいで……」


(いやマシって)


「それで藤枝先輩なら彼女いなさそうだろうと思いまして」

「ま、確かに間違いないわね」

「……戸神先輩、この人たち誰なんです?」

「……気にしないでくれ」


萌斗の後ろには例の三人がいる。

萌斗をたぶらかす女を許さない、そんな目で兎を見ている。


「まあ、それでこの教室に来たんですが」

「藤枝はいなくって、偶然いた俺に頼んでみたと?」

「まあ、そうなりますね……」


態度的にどうやらまだモテキの餌食にはなっていなさそうである。

そう感じた萌斗は


「彼氏のフリって何すればいいんだ?」

「……! やってくれるんですか?」

「まあ、俺フリーだし。」

「ありがとうございます!」

「ちょっと戸神君!?」


背後霊のようにいた三人のうち、詩織が思わず叫ぶ。

同様にカトラも美琴も萌斗に文句を言い始めている。


「じゃあこれ、私の連絡先です」


うるさい三人の先輩には目もくれず

兎は萌斗に紙切れを渡すと足早に去っていった。


(よく考えたら、放課後なら藤枝にも頼めたよな……)


が、今しがた思った嫌な予感に関してはあまり深く考えたくなかった。






そして、連絡を取り始めた萌斗と兎。

放課後の部活がない日は一緒に帰ったり、昼ご飯を一緒に食べたり

休日にはデートにも出かけたりした。


そんなこんなで経った一週間。

冒頭にもあったような状況が出来上がってしまってた。


「萌斗、この一週間でずいぶんと距離が近くなったみたいだけど?」

「もういい加減しつこい男子も諦めたんじゃないのかな?」

「萌斗サン、私も腕くんでいいデスカ?」

「やっぱりやっちまってるよな……」


一週間で兎を落としてしまった。

藤枝が血涙を流しながらこちらを見ている。


「萌斗……どうしてお前ばっかり……!」

「……ほんとごめん」


申し訳なさそうな顔をするがその腕には兎とカトラ。

藤枝は大泣きしてどこかへ走り去ってしまった。


「戸神先輩! 今日部活ないですから一緒に帰りましょうね!」

「あ、ああ……」

「萌斗、最近私ずっと一人で帰ってるんだけど」


悲しいなぁ……一緒に帰りたいなぁ……、とか言いながら美琴はおねだりの表情をする。

上目遣いとはこれまた萌斗には効く。


「ワタシもいますから、ほんとは二人デス!」

「……ちっ」

「ウソかよ!」


(女怖い……)


可愛いしぐさと共にさらっと嘘がつけるとは

萌斗は戦慄していた。


(二人って、加藤は一緒じゃないのか……?)




今日もまたいつものごとく一年生の教室に兎を迎えに行く。


「月城さん! 彼氏さん来たよ!」

「は~い、いま行きま~す!」


パタパタとこちらにやってくる兎。

まるでふわふわした字体の擬音が目に見えるようだ。


いや、ほんとに見えるな。どうやってんのそれ?


「さ、帰りましょ?」

「……なあ、この彼氏のフリっていつまでやるんだ?」


萌斗がそういうと兎の目がウルウルし始めた。

また、擬音が見えるぞ。ほんとに何それ?


「先輩は、私の彼氏嫌ですか……?」

「嫌っていうか、もう一週間もやってるしな……そろそろ頃合いかなと」

「……ちょっと他の教室に忘れ物したの思い出したので取りに行っていいですか?」


うつむいたと思ったら突拍子もないことを言い出した兎。

その意図はよくわからなかったが、萌斗はついていくことにした。


メインの大きい棟から離れた小さい建物の端の教室。

普段使われているかどうかも怪しいレベルだ。


(今の一年生はこんなとこまで来るのか?)


「……ここです。入ってください」

「あ、ああ」


言われたとおりに教室に入る。

ガチャリ、と鍵が閉まった音がした。


「すんなりとついて来ちゃうとかどんだけお人よしなんですか」

「え?」

「忘れ物だって嘘ですよ。というか普通ならこんなとこに来た時点で気づきます。」


すると兎は途端にワイシャツのボタンをはずし始めた。


「先輩ほんとはわかってたんじゃないですか?」

「な、何してんの!?」

「あの日、放課後なら藤枝先輩にもお願いできたって」


見てはならぬと萌斗は必至に目を隠す。

そして可愛い女の子とのかりそめの恋愛に興味を持っていたあの日の自分も隠す。


(まさかほんとにこんなことになるとは)


「最初はかっこいいなとか、タイプだな~くらいでしたけど」

「最初から割と好印象だなおい」

「一緒にいるうちに私、先輩との消えないつながりが欲しくなっちゃいました。」

「現在は愛の重さがフルスロットルかよ!」


そっと押し倒される萌斗、馬乗りになる兎。

ハアハアという荒い呼吸が耳元で聞こえる。


「じゃあ先輩、一緒に気持ちよくなりましょ……?」


刹那。


「戸神君、今日は一緒に帰ろ!」


ドアが開かれ、そこには詩織がいた。


「救世主!」

「ちょっ、なんでこんなとこに!?、っていうかカギは!?」

「これくらいの鍵なら簡単だよ」


(えっ、何その道具)


詩織の手には見たことない工具のようなものが。ピッキングでもしたの……?


「邪魔しないでください! 先輩と私はこれか……むぐっ」


そして流れるような動きで何かを兎の口に入れる詩織。

白くなって倒れ、動かなくなる兎。


「これは……まさか……」

「昨日の敵は今日の友ってね」


(悪魔だ……こんなことを平然とやってのけるなんて……)


だが萌斗は、目の前の敵が可愛いサキュバスから

真の悪魔にかわったとしても、今は感謝することにした。


「戸神君もこの子運ぶの手伝って?」

「あ、ああ、それくらいは任せろ。ってか良くここが分かったな。」

「ああ、それはね」


詩織は萌斗のワイシャツの胸ポケットに手を入れる。


「か、加藤さん!?」

「ほらこれ」


ポケットから出されたその手には何やら小型の機械のようなものが。


「位置情報これで見てたから」

「……え?」


萌斗は詩織が悪魔などではなく大魔王クラスであることを知り、

モテキの餌食のなかでも最もヤバいかもしれないことを悟った。






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