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金剛舞子は加速する

突然の襲来があった日から早一週間ほど。

今日も今日とて萌斗の周りでは昼食時の席争奪戦が始まっていた。


パンを買いに行く前にカトラが萌斗の近くに座れるよう準備していたにもかかわらず、

詩織はそれを無視して萌斗の隣に陣取る。


帰ってきたカトラが講義する。屁理屈で躱す詩織。

激闘の末、最後まで屁理屈を貫いた詩織が座り続けることになったのだが。


「戸神さん、お昼ご一緒したいですわ!」


突如として目の前に舞子が現れる。


「うわぁっ!? 金剛さんいつからそこに!?」

「私はいつでもそばにいますわ!」

「なにそれこわい」


エッヘンと胸を張る舞子に詩織が攻撃を仕掛ける。

萌斗の隣というポジションが彼女を大きく見せている。


「でも、戸神君の隣は私と米津さんで埋まっちゃったんだ」

「私はどこでも大丈夫ですわ、戸神さんのお顔が見れるのなら……」

「なっ!?」


うっとりとした表情で萌斗に向き直る舞子。

思わずドキッとしてしまう。


「あー!萌斗サンいま照れたデス!」

「いやいまのはグッときました」

「そんな……」

「裏目に出ましたわね、加藤詩織」


強い。意外にも強い金剛舞子。

しかし、その様子を見て観戦を決め込んでいた美琴が動く。


「ていうか、金剛さん男嫌いだったよね?」

「ええ、今でももちろん嫌いですわ」

「じゃあなんで萌斗に対しての態度がここまで変わってるわけ……?」

「戸神さんだけは特別なんですわ……」


再びうっとり顔の舞子。

それを聞いた美琴は流れるように萌斗を睨む。


「萌斗……また手出したの?」

「俺から手を出したこと一度もないんですが!?」

「ちっ……これだからモテキは……」

「え、これ俺謝った方がいいの……?」


そうはいっても、いい加減萌斗の体質にも慣れている初期三人は

もはや特に理由を聞かずとも、舞子が萌斗に惚れていることを受け止めているようであった。


……非常に嫌そうではあるが。






新たな参戦者を認めた昼休みが終わり、残りの授業も消化。

放課後である。


帰り支度を終えた萌斗が立ち上がるために椅子を引くと、

やつは現れた。


「戸神さん、一緒に帰りますわよ!」

「っだぁら!? びっくりしたな!?」

「うふふ、そんなに驚かなくてもいのではなくって?」

「普通びっくりすると思うよ……? 机の下から出てきたら……」


ホントにいつからそこにいたのだろうか。

萌斗の頭の中では、舞子が昼に言っていた言葉がよみがえっていた。


(いつでもそばにいる……)


ある時は飲み物を買いに自販機まで来ると、

その自販機の横に舞子。


「戸神さん、今日はコーラじゃないのですわね」

「……っ!? 心臓に悪いって……」


ある時は体育の授業中。


「あれ、俺のタオルどこ行った?」

「はい! 戸神さんこれですわ!」

「……金剛さん、君のクラスの授業はどうしたの?」


ある時は帰宅して間もなく。


「ただいま~」

「お帰りなさいですわ」

「……そんなことだろうとは思った。」

「萌斗この人何とかしてよ!」

「ほんとデス!」

「あれ!? カトラまでいる!?」

「私は美琴サンに招待されたのデス」

「……それなら美琴の家でいいよね? 隣だしさ」







いい加減そろそろ限度を超え始めていた舞子に

萌斗が何か言ってやらないと、と考えていたころだった。


珍しく一人で帰宅している萌斗に背後から忍び寄る影。

……まあ、もしかしなくても舞子なのだが。


「戸神さんごめんなさい!」

「んんっ!?」


突如として舞子によって口元に布が当てられる萌斗。

そして、たちまち眠りについた。


「……私もう、我慢できませんわぁ」


そういった舞子が手を数回たたくと、黒い高級車がすぐさま隣につける。

そして、いつしか見た黒服の男が萌斗を車に乗せた。




「うっ……ここは……?」

「あら、起きましたわね」

「……なにこのデジャブ」

「私の部屋に来るのは二回目でしたわね」


今回もまた、椅子に拘束されている萌斗。


「あの、金剛さん? これ解いてもらえないかな」

「え? ああ、そうでしたわね……」


さて、と舞子は




萌斗のズボンを脱がした。


「えぇぇぇ!? 何!? 何が起きたの!?」

「失礼いたしますわ、戸神さん。」

「何しようとしてんの!? 金剛さん!」

「そういえば説明がまだでしたわね」

「そういえば、で思い出さないでそれ! すっげぇ大事だから!」


しゃがんでいた舞子が立ち上がり、話し始める。


「ここ最近、私はいつでも戸神さんのおそばに居ましたわ」

「そりゃもう怖いくらいにな」

「これはもともと、多い回数会った人を好きになりやすい心理学を利用した作戦だったのですわ」

「えっ」

「しかし……まんまと策にはまったのは私でした。」

「そんな真剣に話すことじゃないよね? ただのアホだよね?」


そして、と舞子は目力強く言い放った。


「戸神さんとつなが……一つに……絆が欲しいと思うようになりましたの!」

「言い方難しかったな。生々しくなっちゃうもんな。」


すこし顔が赤くなっている舞子。

しかし、意外にも萌斗は冷静であった。


「で、俺今ズボン脱がされたわけね」

「な、なんでそこまで落ち着いていられますの……?」

「いや、まあほら……」


萌斗はいつしかの後輩の暴走を思い出していた。

というか、あの後輩には割と襲われかけている気がする。


そのせいでこういった状況にも割と慣れがあった。

が、さらに萌斗にはもう一つ安心できる材料があった。


「やっと見つけた」


ガチャリと音を立てて、舞子の部屋の大きな扉が開く。


「こういうときにな、いつも来てくれるやつがいるんだよ」

「……加藤、詩織」

「戸神君、私もはやマリオの気分なんだけど」

「俺がピーチ姫かよ」

「まあ、私のおかげでピーチというよりはチェリーなんだけど」

「……笑えねえよ……。」


そんなやり取りをした詩織は影のごとく動き、舞子に詰め寄った。

そして、うなじにいつもの手刀が入ると思われたとき。


舞子がそれをはじいた。


「やっぱり……一筋縄じゃいかないか」

「当たり前ですわ」

「……あれ、これバトルものになった?」


万年二位とは言え、何においても二位になれる実力。

詩織ともいい勝負に持っていく能力が舞子にはあった。


このままではお互い大怪我をしてしまうかもしれない。


それを考えてか、舞子はある提案をした。


「このままでは埒があきませんから、勝負の内容を変えましょう」

「いいけど、何にするの?」


すると舞子は二回ほど手をたたいた。

ドアが開き、黒服が入ってくる。


……しかし、さっき見た黒服よりかなり小さいが。

いや、とんでもなく小さいぞ?


「さて、始まりました。クイズ戸神萌斗。」

「……何してんの美琴」

「このクイズを制するのは加藤詩織か、それとも金剛舞子か!」

「……何やらされてんの美琴」

「問題は全十問です。それでは早速参りましょう」


デデン!と大きな音が部屋に響く。

いつの間にか回答者のセットまで用意されていた。


(用意周到すぎんだろ……。)


「第一問!萌斗の利き腕はどちらでしょう?」

「簡単だよ」

「楽勝ですわ」

「では答えをフリップにお書きください」


さらさらと迷うことなく書く二人。

そして同時に回答をだした。


「「右利き」」

「お見事両者正解!」

「……右利きが大半なんだし当たるだろ……。」


(ていうか俺パンツ丸出しで何見せられてんだろ)


その後続く問題も難なく正解していく二人。

既定の十問目まで全問正解していた。


「さて、十問すべて終わりましたが未だ決着つかず」

「やるじゃん金剛さん」

「さすが加藤詩織ですわ」

「……ねえなんで俺の歯ブラシの色とか風呂で最初に洗うとことか知ってんの?」

「追加の問題を行います。」


すると、萌斗の前にもフリップが用意された。


「今から萌斗に質問をし、その答えを二人には予想してもらいます。」

「俺いま拘束されてて手が出ないんですが」

「耳打ちしてくれたら代わりに書くわよ」

「……なぜ拘束を解くという選択肢がない?」


ごまかすようにデデン!と効果音が鳴る。


「萌斗が彼女にするならあの二人のどっち!?」

「え」

「こ、これは……!」

「気になりますわ……!」


(これどっち選んでも地獄が待ってそうなんですが)


考えに考えた結果、萌斗は美琴に耳打ちをした。

詩織と舞子も自身の回答を終える。


「では加藤詩織からどうぞ」


詩織が手元のフリップを見せる。

美しい字ででかでかと「加藤詩織」と書かれていた。


「もちろん”私”」

「ほほう」

「付き合いの長さと今の状況的に有利かなと」

「なるほどですね、では金剛さんどうぞ」


舞子も自分のフリップを見せる。

が、そこには予想外のことが書かれていた。


「……これは……なぜですか金剛さん」

「戸神さんは優しいのですわ、それこそ誰かが傷つくところは見たくないはず」

「それで”選べない”と……」


では正解の発表に参りましょう。と美琴がフリップを開けるとそこには


「……うそ」

「……そりゃここで決めろってのは無理があるよな」

「正解は”選べない”!」

「やった! やりましたわ!」

「よって勝者、金剛舞子!」


両手を上げて喜ぶ舞子、地べたに手をつく詩織。

この光景を見て萌斗はあることに気が付いた。


「もしかして、金剛さんは加藤に初めて勝ったのか?」

「え?」

「あ」

「……。」


舞子もその事実に気が付いたのか、涙を流し始めた。

詩織は終始面白くなさそうな顔をしていたが、これにて一件落着。


「とはいかないんでしょ?」

「どうした美琴」

「金剛さんが勝負に勝ったってことは、この後その……萌斗と……」

「……マジ?」

「守ってきた戸神君が……」


しかし、舞子の口からは意外にも


「ああ、それはとりあえず今はいらないですわ」

「えっ、なんで」

「……いらないって」

「戸神さんを近づいていた理由の半分はそこの加藤詩織ですし」


思わず全員がぽかんとする。


「も、もちろん本当に好意を持っていますわよ!?」

「お、おう……」

「ただ私が戸神さんの近くによる度、加藤詩織がよくない顔をするのが大変愉快でして」

「いい性格してるね、金剛さん」

「……いやあんたがそれ言う?」

「もし戸神さんとそういうことすれば、私の圧勝ではないかと少し大胆になってみただけですわ」

「大胆すぎでしょうが」

「まあ、結果としてその前に勝つことができましたので、今は遠慮しておきますわ」

「そ、そう……よかった……。」


そして誰にも聞こえないような小さい声で舞子はボソッとつぶやいた。


「そ、それに……まだ恥ずかしいですわ……。」






ようやく拘束を外してもらい、ズボンも履くことができた萌斗と

美琴、詩織は金剛邸の玄関にいた。


「それじゃあまた学校でな」

「またね」

「はい!ですわ」


先に外に出た美琴と萌斗。

詩織は少し遅れて靴を履き終える。


そして、立ち上がり背中を向けたまま舞子に宣戦布告をする。


「今回のことで金剛さんも侮れないことがよく分かった。」

「当たり前ですわ。私、金剛家の娘ですもの」

「でもほどほどにしてよね」

「何を言いますの、これからはもっとアプローチかけていきますわよ!」


そっか、と詩織は振り返り




「それでも負けないから」


「望むところですわ!」






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