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第六の刺客 金剛舞子

安らかなお昼の時間。学校に集う生徒たちは、束の間の休息を楽しむ。

とある教室を除いて、だが。


そこは萌斗たちのクラス。今日の昼休みはいつもよりも数段カオスとなっていた。

美しい黄金の長い髪を震わす、その金剛 舞子(こんごう まいこ)によって。






突然の襲来であった。

いつものごとく、萌斗は女子に囲まれた何とも羨ましい昼食を取ろうとしていた。

その実態は心休まることのない戦場のようなのだが。


しかし、いざ恒例の萌斗の隣争いが勃発したときにそれは現れた。


「加藤詩織! ここにいるのでしょう!」


どでかい声が教室に響き、生徒たちはその音源に視線を送る。


「やはり居ましたわね。今日という今日は許しませんわ!」


ツカツカとこちらに向かってくる女子生徒。

凄まじい目力で詩織を見ている。


「……誰だ? 加藤、知り合いか?」

「……いや? 知らない人だけど」

「なっ! この私を知らないといいますの!?」

「ご、ごめんなさい」


詩織の言葉を聞くや否や凄い迫力で驚く。

あの詩織でさえ、たじろいでいる。


「まあ、いいですわ。名前を聞けばわかるでしょうし」

「んで君の名前は?」

「……」


(あれ? 無視されてる?)


萌斗の言葉には一切反応しない。

萌斗は涙目で詩織に名前を聞くよう頼んだ。


「あなた、名前は?」

「よくぞ聞きましたわ!」


女子生徒は詩織が話しかけると嬉しそうに笑顔になり、

コホンと一つ咳ばらいをしたのち、大きく胸を張った。


「私こそ! あの金剛グループの令嬢! 金剛舞子ですわ!」


オーッホッホ!といかにもな笑い方をする女子生徒、もとい舞子。

しかし、意外にもその名前に反応したのは美琴だった。


「えっ、金剛グループってめちゃくちゃ有名な企業じゃない!」

「そこのお嬢さんはよくわかってるわね」

「すごい人デス?」


もぐもぐとパンを食べながらカトラが会話に参加する。


「そりゃもう、様々な事業で成功してる大企業よ」

「お金持ちのひとデス?」

「どえらい金持ちね……」

「おお~、お友達になりたいデス……」

「企業のご令嬢が隣クラスにいるとは噂で聞いてたけど、ここまでとはね……」


戦慄する美琴。咀嚼するカトラ。

フフンと自慢げにしている舞子。


「……で加藤は何か思い出したか?」

「ん~、どっかで聞いたことある気がする名前なんだけどな……」

「まっ、まだ思い出せないんですの!?」


肝心の詩織が未だ鈍い反応を示し、がっくりと膝から崩れ落ちる舞子。

するとそんな舞子を見て詩織が何かを思い出した。


「あ! もしかして万年二位の金剛舞子!」

「何その不名誉!?」

「なんでそれで思い出しますの!?」


詩織の口から出たのはあまりにも可哀そうな称号だった。


「いやぁ、今の地べたに手をついてる感じがね」

「屈辱ですわ……!」

「加藤……この人にどんな印象持ってんの……」







「で、万年二位さんが私に何の御用で?」

「……許しませんわ……許しませんわ……!」

「加藤、少し失礼すぎるんじゃないのか?」

「……戸神君がそういうなら気を付けるけど」


気を取り直して舞子が話し始める。


「この私、運動神経バツグン、成績優秀、そのうえこの美貌!」

「……すごい自信」

「なのに! この加藤詩織だけには何においても勝てませんの!」


悔しそうにそう語る舞子を眺めてほくそ笑む詩織。


「この間のテストだって、僅差とはいえまた負けましたわ!」

「二位でも十分すごいと思うけどな」

「しかもあろうことかこの女、毎回煽ってくるんですわ!」

「煽ってんのに存在忘れてたのかよ!」

「最低じゃない」

「やっぱり詩織サンは悪魔デス」

「……てへっ」


(まさかワザと忘れたふりして遊んでたんじゃないだろうな……)


「なので、今日という今日は勝ちに来ましたの!」


そういって舞子はあるものを机の上に置いた。


「このポーカーで!」

「……やめた方がいいんじゃないのか」

「さあ勝負ですわ! 加藤詩織!」

「いいね、せっかくならみんなでやろうよ」

「分かりましたわ」


舞子はトランプをシャッフルし、みんなに配る。

皆に。萌斗を除いた。


「えっなに? 俺すでに嫌われてるの?」


すると舞子は大きく息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。


「私、お父様以外の男性は嫌いですの」

「えっ」

「両親にはその汚らわしさに気を付けるように言われてますし」

「汚らわしさって……」

「なんにせよ、これまでもこれからも関わり合いにはなりたくありませんわ」


それだけ言うと舞子は再び手札に視線を戻した。




「……どうして……ですの」

「ごめん、また勝っちゃった」


恐ろしかった。何回やっても一位を取り続ける詩織もそうだが、

毎回二位に相当する役をそろえる舞子もだ。


「あんたらどうなってんのよ……」

「つ、強すぎデス」

「よし、これで戸神君は一週間私の彼氏だね」

「なにそれ聞いてないんだけど!?」

「勝手にルール作るな!」

「しかも二度づけデス! 二度づけ禁止デス!」

「……カトラ……後付け、な」


そのやり取りを聞いていた舞子は

ポカンとした表情で詩織に聞いた。


「加藤詩織、あなた……この男のことが好き、なんですの?」

「え? うん、そうだけど。」

「は、恥ずかしげもなくよく言えますわね……」

「当たり前でしょ、本気で好きなんだから」

「そう……ですの」


詩織が真っすぐにそう答えたとき、

うつむいていた舞子は何やら考え込む顔をしていた。






休日。

萌斗は家のリモコンの電池を買うべく、出かけていた。

その帰り。


萌斗の横に黒い高級車が止まった。

窓が開き、中には舞子が乗っていた。


「戸神さん……でしたわよね?」

「あれ、金剛さん。俺に話しかけていいの?」

「今はそんなこと言ってられませんわ」

「……どういうこと?」

「あなたたち、やってください」


舞子が何やら声をかけると、どこからともなく黒い服の男たちが現れる。

そして、瞬く間に萌斗の身柄を拘束し、車に乗せた。


「~~!~~!」

「何言ってるか分かりませんわ」


口をテープでふさがれているため、声が出ない。

助けを求めることもできずに、車は発進した。






しばらくすると車が止まり、萌斗は引きずりおろされた。

男たちに担がれどこかに連れていかれているようである。


それも、目隠しをさせられているせいでどこだかわからない。


やがて建物の中に連れてこられたようで、椅子に座らされた後

目かくしとテープが外された。


「……どこ?ここ」

「私の部屋ですわ」


目の前には大きなベッドに腰掛ける舞子。

お姫様とかが使うような豪華なベッドである。


「……誘拐では?」

「失礼ですわね、招待ですわ」

「随分と乱暴で一方的な招待だったなあ……」


さて、と舞子は萌斗に尋ねる。


「あなた、加藤詩織とはすでにキスしましたの?」

「えええぇっ!? なんすかいきなり!? し、してないですけどっ!」

「ならよかったですわ」


取り乱した萌斗に舞子は顔を近づける。


「ちょ、ちょっと、金剛さん? 近い……」

「当然ですわ、これからキスするんですもの」

「……はぁ!?」

「そうすれば、あの加藤詩織に勝ったことになりますわよね」


舞子の発言にさらに動揺する萌斗。

しかし、身動きの取れない萌斗は抵抗することもできない。


どんどん顔は近づいていき、もうキスしてしまうというところで

舞子は止まった。


体が震えている。


「金剛さん……? やっぱり……」

「うるさいですわ! す、すこし待っててください!」


萌斗から離れ、体の震えを止めようとしている。

男性嫌いのせいで、ほとんど免疫のない舞子にとってキスは恐怖でしかなかった。


「どうして、そこまでするんだ?」

「……私は、金剛家の娘。負けたままではいられませんわ」

「それ、親にそう言われてるのか?」

「そうでは、ありませんわ……私がそう思っているだけ……」

「だったらなおさらこんな無茶する必要ないんじゃないかな!」

「……でも」

「金剛さんが金剛さんらしく勝てるのことがいいと思うな!」

「わ、わたくしらしく……ですか……?」

「俺でよかったら、それを一緒に探すしさ!」


……萌斗は畳みかけるようにそう語った。

実は内心すでにヘタレてしまっていたからである。


良い話の雰囲気ではあるが、先ほどからやや食い気味に話す萌斗。

その様子がなお、ヘタレさ加減を露にしていた。


しかし、舞子には割と響いたようで


「そう、ですわよね。こんなやり方、私らしくないですわよね!」

「そ、そうだよ! じゃあ俺もう帰っていいかな?」

「はい! それでしたら拘束具外しますわね!」


舞子が萌斗の拘束を解く。

ようやく解放されるのか……。と思た矢先だった。


「でも、加藤詩織がなぜあなたを好いているのか少しわかった気がしますわ」

「え」

「出会って間もない私のことを真剣に考えてくださいましたし……」


(ヘタレて言い訳してただけなんですけど)


「い、一緒に一位になれることを探すとまで言ってくださいましたし」

「も、もちろんだよ」


(それでこの拘束から解放されるなら)


「戸神さんとなら、私、男性でも仲良くしたいと思えますわ」

「それは……うれしいな……はは……」


(そっか、男性の免疫ないせいでこの子……)


ちょろいのか。






ヘタレ適当発言でさえ、

萌斗のモテキと舞子のちょろさによって


また1人恋愛の犠牲者を出すことになってしまったのだった。


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