09.本来なら、レンタル不可ですよ?
「あんこを炊いたので、こちら、ご希望のあんまんです」
「やった!」
「モチ米もあったので、おはぎ?いや、ぼたもち?(どっちでもいいか)も、ございます。こしあん、つぶあん、お好きな方で」
作ってきた私が言うのもなんだが、ランチの初っ端からあんこ始まり。
リーファイ様は意外と甘いものもいける口らしい。
幸せそうに、あんまんをほおばっている。
「こっちのお重は?」
「今日は、おにぎりを作ってきました。マグロをフレークにしてツナマヨ。焼きサーモンで鮭。鰹節や昆布があったのでおかかにこんぶ。調味料に梅干しが交じっていたので、梅干しおにぎりもあります」
明太子やたらこがなかったのが残念。
とりあえず、おにぎりは王道な中身で作ってみた。
おかずは最下段に詰めてある。
昨日の約束通り、今日は高位貴族御用達の鍵付きプライベートルームでランチだ。
今朝、玄関を出たところでヤクザ――もとい、ヤンさんが出待ちしていて、朝から腰抜かしそうになった。どうやらこのプライベートルーム用の招待状を持ってきたとのこと。
それはありがたい。
ありがたいが、どうしてこう、玄関先でのドッキリを敢行する?
家の出入りそのものがトラウマになりそうだ。
「そうだ、この部屋ってお湯ありますよね?」
二人だけだとかなり広めの部屋の真ん中で、キョロキョロと辺りを見回す。
プライベートルームは、お茶会などの使用目的もあるので、お湯なら用意できるはず。と探したら、部屋から見えにくい場所に魔導コンロとやかん発見。電気の替わりに魔石に魔導具。便利でよかった異世界。
「お弁当だと、汁物用意できなかったんで。こちらどうぞ」
味噌を出汁で伸ばした味噌玉をカップに入れ、お湯を注いで簡易味噌汁の完成。
一口飲んで、目を見開いたリーファイ様は瞳がちょっとウルウルしている。
言葉よりも雄弁で、そんなに喜んでくれたならこちらとしてもうれしい限り。
「本当は煮魚や煮物、鍋物なんかも用意したいところなんですけどねぇ。お弁当に汁物はちょっと」
「頼む!!」
今季二度目の土下座。
しかし、今回は周りに誰もいないと確信できるので、今日の私はちょっと余裕が持てた。リーファイ様をそれとなく促して立たせながら、その真意を問いただした。
「何でしょう?」
「キミの家の料理人を一日でもいいから貸してくれないだろうか?ぜひ、父や兄たちにも故郷の味を食べさせたいんだ!」
『遠国料理を作れる料理人』を公爵家へ派遣できれば、それも可能な話だ。
「あの、申し訳ないのですけれど」
「もちろん、その間の穴埋め人員も礼金も十分に用意させてもらう。他にも不都合があるなら、できるだけ善処する!」
あ、これダメなやつだ。
っていうか、こんなに必死なリーファイ様の頼みを無碍に断ることなどできない。
「実はこの料理なんですが――我が家の料理人ではなく、私が作ったんです」
「え、キミが?」
私は観念して、告白した。
貴族令嬢なら、『普通は』厨房などに立ち入らない。もちろん、料理なんてしない。
遠国出身のリーファイ様の母上が厨房に立っていた、という話の方が珍しいのだ。
しかし、きょとん顔のリーファイ様が尊い。
え、なに、三白眼で目つき悪いはずなのに、かわいいっておかしい。
いや、おかしいのは私の頭ですからぁぁぁぁ!!
「貴族令嬢である、キミが?!いや――待てよ。最初から、キミの言葉に微かな違和感があったんだ。確かに、キミは『料理経験者』として語っていた」
「最初は父母もいい顔はしなかったのですが、今ではすっかり私の作る遠国料理にはまっているくらいです」
「そう、か。そういうことなら、仕方ない、な」
明らかに気落ちしたリーファイ様。
あああ、彼にこんな顔させたいわけじゃない。
「あの、リーファイ様さえよろしければ」
やめろ私、それ以上は口を閉じるべきだ!
理性が押しとどめようとするけど、私の口は止まらない。
「私が料理を作りに行きましょうか?」
「い、いいのか?」
「あ、公爵家の厨房を使うということでしたら、まずは公爵様のお許しが必要ですが」
「ありがとう!!絶対うん、と言わせてみる!許しをもぎ取って来るから!!」
きゃあああぁぁぁっ!
満面の笑み、いただきましたぁ!!