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07.噂の第二王子と側近たち

 翌朝、そのリーファイ様を見かけた。

 見事な黒髪だから、間違えようがない。お隣の遠目にキラキラ光る金髪が第二王子殿下だ。他にも二人ほど、第二王子殿下の側近がいた。さらにその四人を、令嬢という名の肉壁が囲んでいる。彼らが進むたびにその肉壁も移動する。

 あの中に入っていける気がしないし、行く気もない。


「そういえば、リーファイ様って第二王子殿下の側近だったわ……」


 一学年上の第二王子殿下には、公爵家のリーファイ様を始め、侯爵家、辺境伯家子息たちである側近がいる。

 ザグデン公爵家は遠国との貿易関係を一手に引き受け、諸外国の外交と貿易に特化している。侯爵家は代々宰相を輩出している名門。辺境伯家は武家の一族。嫡男ではないが、いずれも優秀な人材だと聞く。

 遠くに見えるリーファイ様は、つまらなそうな顔をしていた。


 やだー、その不機嫌そうな顔も素敵。

 好みの顔ならどんな表情でも愛せる不思議。




 十五歳から十八歳までの貴族子女は、王立学園に通うことが義務付けられている。

 入学前にはデビュタントも済んでおり、基本的に勉学は自宅学習で済んでいるのが前提だ。ならばなぜ、わざわざ学園に来るのか。それは、いわば本格的な社交の前、プレ社交界の場であるからだ。交友を広めるもよし、後ろ盾を見つけるもよし。すでに婚約者がいる状態で入学する者もいれば、私のように学園で相手を探そうとする者もいる。


 第二王子殿下は今現在フリーだ。

 王子妃の座を狙って、下位貴族の令嬢たちが群がっているようだ。

 いや、待てよ。

 もしかしたら、最初から愛妾狙いかもしれない。

 前世の記憶がある私からすれば、そんな男は願い下げである。しかし、この世界では表立って推奨されることはないとはいえ、愛妾を持つことが男の甲斐性とかいうふざけた価値観がまかり通っているのだ。いつの時代だ。


 だから、私は自分が尻に敷けるであろう、婿を取ろうと思っていたのに。

 そもそも、あんまりキラキラしいイケメンは好きじゃない。

 チャラ男なんてもってのほか。


 そういえば、リーファイ様も公爵家子息ではあるが、まだ婚約者はいらっしゃらない。身分は王族を除けば最高位、第二王子殿下の覚えもめでたく将来性もあり、見た目も悪くない。

 ただ、一点のみ。

 お母上が遠国の生まれ、というだけ。

 リーファイ様はお母上の血を濃く継いだようで、その色合いはこの国では異質に見えるようだ。ある意味、その整った顔を眺めるだけならいいが、結婚となると話は別、らしい。私としては、黒髪メガネで好みど真ん中だ。そこは生まれ変わっても譲れなかったらしい。ある意味深い業である。


 本来なら、リーファイ様だって気軽に側に寄れるような身分ではない。囲んでいるあの令嬢方は……まぁ、学園が自由な校風を謳っているとはいえ、その自由をはき違えた方たちだ。高位貴族の胸先三寸で、お家ごと取り潰しがあるような世界だ。大胆なのか馬鹿なのか、はたまた何も考えてないのか。


 せっかく見つけた超好みのイケメガネ。

 今までだって、滅多に見れない黒髪メガネを憧れの存在として遠くから見てきた。

 まぁ、あちらは有象無象の一人、おそらく認識すらされてなかったに違いないが。


 作ってきたお弁当をリーファイ様と一緒に食べるのは避けた方がいいかもしれない。

 こちらは仮に、とはいえ王族との顔合わせを控えている身でもある。

 例の三段重をお渡するだけでいいかな。中の物も悪くならないし、大丈夫だろう、うん。


 ふと、リーファイ様がこちらを振り向いたので、バッチリと視線が合った。


 ええ、お約束のものですね。

 ちゃんと持ってきてますよ。


 との意味を込め、手に持っていたお重を包んだ風呂敷ごと軽く持ち上げた。

 リーファイ様も気づいたのか、目を丸くして風呂敷を凝視していた。私はぺこりと一礼すると、さっさとその場から退散した。あの一団と関わり合いになりたくなかったのだ。


 その後、人前では仏頂面がデフォだった公爵子息の口元が綻んだ瞬間を見た令嬢たちがうれしい悲鳴を上げ、第二王子殿下たちも珍しいものを見た、と驚愕されたらしい。


 まぁ、その場にいなかった私には与り知らぬことではあるんですけどね。

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