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06.死…っ、死ぬかと思ったぁ!!

 玄関開けたら、長ドスを持ったヤクザがいた。


 何を言ってるのかわからないと思うが、私だって分からない。


 我が伯爵家はそれほど金持ちではない。

 いや、前世の感覚で言うなら、そこそこの豪邸。使用人だって過不足なく雇えるくらいだし、貴族としてはよくやってるほうか。

 でも、誰かから恨みを買うようなことをした覚えはない。

 ――たぶん。


 そんなことを思っていたら、右ほおに見事な向こう傷、鋭い目つきの男が得物を手にして凄みのある笑みを浮かべた。

 死を覚悟した瞬間だ。


「おかえりなさいませ、ご令嬢!今、一番いいところをご用意させていただきます!!」

「お姉さまぁ!これから、マグロの解体ショーしてくださるんですって!」

「はぁっ?!」


 長ドスと男しか目に入ってなかったが、なぜか我が家の玄関ホールに簡易的な調理台が設置されていた。

 その上には立派なマグロ。

 かぶりつきで調理台の前に陣取ったチェルシーが、目をキラキラさせて手を振っていた。

 冷静になって見てみれば、男の得物はマグロ切包丁のようだった。

 

 ですよねぇ、マグロの解体ショーですもの。


 じゃなくって!


「ザグデンの坊ちゃん――リーファイ様から遠国の調味料や食材をこちらに届けるよう、頼まれました。こちらには遠国料理を作れる料理人がいるらしいですね?私は魚は下ろせるんですが、料理の方はてんでだめで……よろしかったら、こちらのお味見どうぞ!」


 マグロの刺身が乗った皿にワサビと醬油を添えて、箸と共に手渡された。


「この大トロ、最高ですね、お姉さま!」


 我が妹は鉄の心臓を持っているらしい。


 ここでようやく理解が追い付いて来た。

 そもそもの原因は、リーファイ様のようだが、こんな帰宅即ビックリいらない。

 リーファイ様の、というかザグデン公爵家のフットワークの軽さよ。


「生物は、たまたま水揚げされたこのマグロくらいしかないので申し訳ないのですが、この下の木箱に食材や調味料など、必要と思われる物が入っております」


 マグロを置く台だと思っていたのは、中にぎっしり食材その他が詰まっている木箱だった。

 醤油や味噌は言うに及ばず、米、もち米、鰹節、もちろん小豆や大豆などなど。日持ちできる物が多かった。

 マグロ一本だけでも申し訳なんて全然ない。おつりがくるくらいだ。


「こ、こんなにいただいちゃっていいのですか?!」


 よだれをたらしそうな勢いで品々を確認していると、ヤクザ顔の方が相好を崩した。

 あ、笑うとこの人、怖さが和らぐ。


「もちろんです。できましたら、これらの材料を使って、明日のお弁当を作っていただきたいとのことです」

「そのくらい、お安い御用です!」


 私は二つ返事で快諾した。

 どうせ自分用にお弁当を作っているし、量が増えたところで大した手間ではない。


「ありがとうございます。でしたらこちら、時間停止の魔導具となっておりますので、よろしければお弁当箱としてお使いください」


 そう言って、差し出されたのは見事な螺鈿細工と蒔絵に彩られた三段重。

 恐る恐る受け取れば、手に吸い付くような滑らかな感触に冷や汗が吹き出た。


「ザグデン家の奥方が嫁入り道具にお持ちになった逸品です。坊が、いや、リーファイ様が是非に、と」


 あほかぁ!!

 もしかしなくても、これって国宝級のお宝じゃないですか?!

 しかも、亡き奥方の嫁入り道具って!!

 もし破損などしたら、我が伯爵家潰れない? 


「お、畏れ多いのですが……」

「割と頑丈ですので、お気になさらず」

「ひぃっ!」


 何を思ったのか、その三段重の蓋を、ガンッと勢いよく小突いてくれた。慌てて取り落としそうになったそれを、私は両腕で抱え込んだ。


「これこのように、丈夫ですので。多少手荒に扱っても、平気です」


 いい笑顔で言われたけど、私はお重を抱きかかえ涙目でうなずくしかなかった。

 やり方が直接的すぎるし、心臓に良くないと思います!


 お礼は言わせてもらいたいが、それはそれ、これはこれ。

 絶対、この件含めて明日は文句の一つは言わせてもらおう!

 覚悟しておいてくださいね、リーファイ様!!

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