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47.番外編ーフィリップ視点01ー

今夜から5日連続、20時更新予定です。

お付き合いよろしくお願いします。

「こっ、子供がいた!」

「この土砂の中、生き埋めになったのに息があるぞっ」

「き、奇跡だ!おい、大丈夫か?!」


 胸一杯に空気を吸い込んだ。

 圧迫されて折れた肋骨が軋んで、鋭い痛みが走った。


 土砂の重さ。

 怪我の痛みと倦怠感。

 口内に感じる「美味しくない」鉄交じりの土の味。


 久しぶりに感じたわずらわしさだ。

 いつ以来だったか忘れたが、これらは肉体を持ったが故の感覚だ。


「ごほっ」


 口から泥と共に、赤い血が吐き出された。

 せっかく人間として生き返ったのに、体中に重大な損傷を負っているようだ。

 このままではすぐ死んでしまう、と直感した。


 忌々しさに舌打ちした。

 転生先の身体の状態としては最悪だが、精霊としての力はちゃんと残っていたのは幸いだった。

 その日、生き埋めから生還した少年は、助け出された時には擦り傷一つ負ってなかった。奇跡の少年、として彼の噂はあっという間に広まった。




「お迎えに上がりました」


 恭しく下げられた数個の頭。

 白い装束を纏った一団が、目の前で深々と首を垂れた。


「予想よりも遅かったな」


 尊大に鼻を鳴らしたのは、その一団の正面にいた奇跡の少年――僕だ。

 あの生還時から数か月が過ぎていた。

 今の僕は、フィリップという名の少年として生活していた。


 本来なら、フィリップは土砂崩れで両親ともに死亡していたところだが、精霊力が多少あったおかげで、精霊フィーリーの器として適合したようだ。フィリップの魂が消滅したところへ、あの転生神がフィーリーの魂をねじ込んだ。精霊としての力がなかったら、そのままもう一度死を迎えていたところだ。

 あいつ、次に会ったら許さない。


「まぁ、いい。それで、僕は次代として合格なんだろう?」

「もちろんでございます。貴方様こそ、次代のハートレイ家当主でございます」


 この国は王政だが、その対極に国教である精霊教会がある。

 互いに干渉はせず、尊重するという大前提はあるが、立場的には王家とハートレイ家当主の立場は同等である。両家の違いは王は血筋により継承されるが、ハートレイ家当主が身分問わず、その時代で一番の精霊力のある者として国教会教主となる。

 そして今代はまさに精霊の生まれ変わり、僕がそうなるのが必然だった。

 実は初代ハートレイ家を立ち上げたのも僕なら、初代教主も僕だったんだけどね。


 事故によりこの身は孤児となった僕だが、やっとそのハートレイ家からの迎えも来たようだ。

 これで王族並みの地位も手に入った。

 やっと、チェルに会いに行ける準備が整った。




 お茶会の場で、彼女の周りだけが色づいているかのようだった。

 波打つような艶やかな金糸の髪、白い肌に煌めく翠玉の瞳。今の君はもう十一歳の少女としての記憶しかないけれども、その人格形成にはもちろん、前世での記憶や性格も加味されていることだろう。

 つまり、君は変わっていない。


「わたし、マグロを上手に捌ける人が理想ですの」


 ほらね。

 その艶やかな微笑みも、他を圧倒する挑戦的な目の輝きも、食の好みも。

 前世の記憶を失っても、僕が知ってた君は失われていない。


「僕もマグロ大好きだよ」


 君と二度目の初めましての瞬間、僕の声は震えていなかっただろうか。

 精霊の時には感じなかった、感情という不可解な心の動き。

 君に再び会えてうれしいという気持ちが大半で。

 君に拒絶されたら、という恐さも少し。


 だけど、君は微笑んで僕の手を取ってくれた。

 微笑みを返しながらも、僕の視界がぼやけた。

 うれしい時にも涙が出るってことを教えてくれたのも、君だった。

 君とのこと、君が教えてくれたこと、僕は全部覚えてるよ。

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