41.秘密暴露は突然に
学院に進学したわたしは、ますます勉学にのめり込んだ。
おかげですっかり視力が落ちてしまい、今ではメガネを愛用している。
なぜかお姉様が喜んで、大量のメガネを贈ってくれた。そんなにいらない。
ユアン様は第二王子殿下を説得し、最終的に二年の学習延長を勝ち取った。
去年、王太子が正式に即位され、王太子と王太子妃の間に生まれた第一王子が立太子された。それに伴い、第二王子殿下は王弟となり、大公となった。
学院卒業と共に式を挙げられるので、ユアン様は学業と共に大公妃としての勉強も並行してなさっているらしい。
フィリップ様もまた、学院へと進学した。
学園卒業とともにハートレイの正式な当主となった。当主としての勉強は終わってるらしく、やはり彼も当主の仕事を並行しているらしいが、全然忙しそうに見えない。有能なだけなのか、要領がいいのか――ちなみにわたしは今まで一度も試験で彼に勝てたことはない。
「最後の最後まで勝てなかった」
わたしは最終試験結果を思い出し、悔し涙を流した。
学院の二年時の最後の試験、満を持して臨んだのだが、フィリップ様との差はわずか一点。結局わたしは次席に甘んじた。ユアン様にも肉薄されたが、辛くもその座だけは守り切った。
すでに二人は仕事まで持っていて、わたしは勉強にだけ全力投球できたというのに、情けない。
「それでも一矢報いましたわ、私たち!成績上位者に女性二人が入るなんて、史上初ですって。誇りましょうよ、チェル様!!」
「ユアン様……」
ユアン様の励ましに、悔し涙を無理やり引っ込ませた。
そもそも、今まで院に進んだ女性の数が圧倒的に少ない。
なぜなら女性の結婚適齢期は二十歳前まで。二十歳を過ぎれば行き遅れと言われるからである。それでも勉学の道へと進んだ女性もいなくはなかったが、少数派だ。
まぁ、結婚する気もないわたしにとっては、関係ないことだった。
それを許してくれた両親には感謝している。だからこそ、主席を取れなかったことが申し訳なかったのだ。
「ねぇ、チェル様」
いつのころからか、ユアン様には愛称で呼ばれるようになっていた。
今日はユアン様のお宅、大公殿下のお屋敷にお邪魔していた。お二人は同じ邸に住んではいるが、卒院を機に式を挙げるとのことでまだご結婚前だ。
「やっぱりご結婚はなさらないの?もしかして、そのまま院に残るおつもりでしょうか」
「はい。できればこのまま在籍して研究職に進もうと思ってます」
わたしも今年で二十歳だ。幸いにも両親にも姉夫婦にも結婚をせっつかれないこともあり、わたしは独身を貫き、研究にこの身を捧げようと思っていた。
「そう、なんですか。本当は私ももう少し勉強していたかったのですが、さすがにこれ以上大公様をお待たせするわけにはいきませんものね。そろそろ二十四になりますし」
「……え?」
ほおに手を当て、小首をかしげたユアン様がキョトンとこちらを見返している。
しばしの沈黙。
それを打ち破るように両手を打ち鳴らしたユアン様に、わたしの硬直が解けた。
「ああ、そういえば、まだお教えしてませんでしたわ。私、本当はチェル様の四つ上ですの」
「え?」
「遠国の者は幼く見えるということでしたけど、案外バレませんでしたわね。下手すると、もっと若く見積もられることもありましたし」
「ええっ?!」
わたしの悲鳴にかぶせて、ユアン様がさもおかしそうに鈴を転がすような声で笑った。
「とりあえず、ウェディングドレスの感想を聞きたいんですけど――よろしいかしら?」
「もっもちろんです!今日はそのためにお伺いさせていただいたんですから!いえ、でも、まさかユアン様のご年齢……」
「年上だからって、いまさら何が変わるというのです?あなたは私の同級生で、そして良き友に変わりありませんことよ?」
ユアン様の強引な説はともかく、年齢以外にも大公妃殿下と伯爵家令嬢というれっきとした立ち位置が、とかいろいろ悩んでるわたしの方がおかしいのだろうか。
今回のお招きは、結婚式で着るウェディングドレスをぜひ見てもらいたい、とのことだった。
自分に結婚もウェディングドレスを着る予定もないが、単純に乙女として心躍る。
そんなわけで、喜んでお伺いさせていただいた。
もちろん本番当日、ユアン様の式にも参列予定で、今から指折り数えて楽しみにしている。どれほど綺麗な新婦姿を見せてもらえるのだろうか。




