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30.Change fate

「『フィリエール・フィバルト・フィランディア』」


 精霊の真名を呼ぶと、再びその姿をわたしたちの目の前に現した。


「彼の記憶を消して」

「チェル。本当に、それでいいの?」

「ええ。そして、フューリー。あなたを縛る全てのものからの解放と自由を『命令』するわ」

「え?」

「今までありがとう」


 最後はやっぱり誰もがみんなハッピーエンドでなきゃ。

 おとぎ話を見るたびに思っていたこと。

 これでわたしも、安心して消えることができる。


「もし、あなたの気が向いたのなら、私の大事な人たちに祝福を。それが、わたしから最後の『お願い』よ」

「チェルシー嬢?君は……」


 第二王子の困惑した声音に、わたしは改めて彼に向き合った。


「貴方には、もう必要のない過去の記憶を消すわ」

「しかし、罪が消えるわけではっ」

「ええ。貴方の罪は、わたしが覚えている。自らが犯した罪と共に」


 だから。


「これからは過ちを振り返らず、未来を生きて」


 何かを察したのか、第二王子がわたしの手首をつかもうと手を伸ばした。

 しかし、そこにわたしの身体はなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



「殿下!」


 すっきりしない頭を振るい、額に手を置くと、護衛騎士のブライアンと侍女のサナリアが心配そうに傍に侍っていた。今まで何をしてたのか、誰といたのかも曖昧で、まるで指の間からこぼれ落ちる砂のように記憶がなくなっていくような違和感を覚えた。


「――何を、していたんだっけ?」

「お一人で、しばらくこの場に佇んでおられました」

「一人で?誰か一緒ではなかったか?」

「いえ、最初からお一人で、こちらに休憩しに参られましたが……」


 思い出せそうで思い出せない苛立ちが声に出てしまったが、ブライアンは気づかなかったようだ。


「ご気分でもお悪くなりましたか?」


 サナリアも心配そうにこちらの顔色を窺っている。

 

 そうだ。

 この空中庭園へ休憩という名目で、この二人だけを連れて来ていたのだ。

 そもそもこの二人は、やっと婚約したというのに仕事ばかりでゆっくり二人になろうともしない。


「どうだ。少しは二人きりでゆっくり過ごせたか?」

「まさか、殿下の御身をお守りするために、気を抜くことなどありません!」

「そっ、そうです!そんなことにうつつを抜かしてなどおりません!!」


 なんだ。せっかくこちらが気を利かせたというのに、つまらないやつらだ。


「では、明日は強制的に二人に休みを申し渡す。そして、城下町で噂の菓子を休日明けには持参するように。いいか、これは『命令』だ」


 『命令』という言葉に、なぜか不思議な既視感を覚えたが、赤くなったり青くなったりしている二人を見ているうちに、それが何だったのか忘れてしまった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



「後悔してない?」

「後悔?してないっていったら、嘘になるわね。でも、すべてやり切って死ねる人がどれだけいるかしら?」


 わたしはまた、何もないただ真っ白な空間にいた。

 目の前には懐かしい、自称神、もとい光の珠が浮かんでいる。


「どんな願いでもかなえられたのに、結局、君は他人のためだけに精霊の力を使ったね」

「最後に、ちょっといい人になりたかっただけよ」

「やっぱり、おかしな子だね。いいかい、これで君は本当に『消えて』しまうんだよ?」

「どうせ一度死んでるんだもの。一度も二度も一緒よ」


 できるなら、グタグタ言わずにさっさと消してほしい。

 わたしの決心が鈍る前に。


 永遠の時を生き続ける精霊にとって、人間の寿命などほんのわずか。その長く退屈な時間の暇つぶしとして、人間と『契約』という遊びをする。

 『契約』とは精霊を真名で縛ることで強制的に使役すること。ちなみに精霊の力とは、世界の理すら超えることすらできるという。ある意味魔法よりもたちが悪い。


 あの時のわたしには、人知を超えるその力が必要だと思った。

 なので、自称神から精霊の真名を教えてもらい、フューリーと『契約』するに至った。


「ああ、最後にフューリーに、お礼を言うのを忘れてたわ」


 唇からたった一つ、後悔の言葉が滑り落ちた。

 そういえば、フューリーに別れの言葉を告げられなかったのは心残りだ。

 最後の会話が『命令』と『お願い』って、長く一緒にいたのに、それはなかったわね。

 

 『私の大事な人たち全てに祝福を』


 その、大事な人の中にはフューリーも入っているから。

 だから、あなたも幸せになってね。

 わたしはそっと、目を閉じた。

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