19.異世界チェンジリング下
「ちょ、ちょっと、私の意見も……」
私がオロオロとしているうちに、自称神と妹の話は着々と進んでいってた。
「ふむふむ、このスマホとやらに入っているゲームをベースにすればいいんだな?人間は面白いことを考えるなぁ」
「そうそう、百聞は一見に如かず、よね!あ~、夢に見た乙女ゲーム転生、楽しみだわぁ!!」
ひぃぃっ!なんかもう決定してるぅ!!
「待って!私の意見も取り入れてちょうだい」
「ああ、はいはい。もちろん、君の意見も聞くよ。どんな希望がある?」
「まずは、そのベースになるゲームの世界観や設定を見せて」
スマホを借りて、私は軽くゲームを始めた。
妹の希望通り、たくさんのイケメンが出て来る。
舞台は似非中世で、文化水準はほぼ日本というちぐはぐさだけど、生活環境はきっちり整っている。電気の替わりに魔法をエネルギーとした便利な魔導具と呼ばれる道具のある平和な世界だった。
「ファンタジーぽいけど、魔法はないのね?」
「魔法はないけど、精霊はいるよ。超常的な存在、畏怖の存在は必要だからね」
「そう。精霊って、私の味方になってもらえるかしら?」
光の珠はチカッとひときわ大きく瞬いた。
「すごいところに目をつけるね、君」
「だって、また『間違い』が起こらないよう、『力』はないよりあった方が安心だわ」
「その懸念もわかるし、仕方ないな。特別に精霊との『契約』の仕方を教えておくよ。あくまでもその力を手に入れられるかどうかは、君次第だけど」
「それでいいわ。できたら転生後の世界がどんなとこなのか、情報収集を手伝って欲しいのよね」
「妹と違って、君は慎重だね」
「知らなかった?長子は臆病なのよ。なんでも最初にやらないといけないから、見本がない。それ故、失敗しないようにと何事にも慎重になるの。その点、下は上の失敗を見てるから大胆に行けるし、要領もいいのよね。ちゃっかりしてて、誰にでも可愛がられる妹がうらやましかったわ」
気になることはとことん突き詰めないと気になるのも、長子の性格かしら。
それとも、これは私の個性?
「ねぇ、私たちをころ、一緒に死んだ人って、どうなったの?」
「ああ、どうしようかなぁ、って悩んでいるところ。そもそも彼は君たちを――その、巻き込むつもりはなかったはずなんだ」
「では、彼もまた同じ世界に転生させるということは可能かしら?」
「えっ?!」
光の珠は、まぶしくて目が明けられないくらい強烈に発光した。
どうやら、かなり驚いたらしい。
「貴方の手違いとはいえ、私たちは彼のせいで死んだ。罪悪感も何も感じる前に、彼もまた死んでしまったのでしょう?」
「それはそう、だけど」
「だから、新たな命として生きて欲しい。私たちの命を奪ったという、罪悪感を抱えたまま。できないというなら、無理にとはいわないけれど」
「できなくはないよ?」
「もし新しい世界で出会えたのなら、今度は私が彼をどうしようと構わないわよね?」
「君――君は、思っていたより、恐ろしい人だね」
そのくらいしても罰は当たらないと思うわ、と微笑めば、光の珠の輝きは弱弱しくなった。
「それから、私の記憶はなくさないで。でも、妹には幸せだったころの残滓だけ残して、余計な記憶は失くしてちょうだい。そうそう、また姉妹に、って希望は聞いてもらえるかしら?」
「え、それなら、君も早く転生しなきゃ」
「どういうこと?」
「君の妹は、もうとっくに転生しちゃったからだよ。今はもう四歳かな。君の妹が姉に、君が妹になるしかないけどいいよね?」
「なんですって?そういえばあの子、せっかちだったわ!そういうことは早く言ってよ!!」
「今度は憧れの妹の立場になれるとでも思ってよ」
「じゃあ、契約内容をきちんと決めて、急がないと!」
私はいくつかの条件を自称神に飲ませた。
ほぼ、願いはかなえられそうだ。ほっと一息ついたところで、いつか君が幸せになれるよう祈ってるよ、という声と共に、光の珠がもの凄い速さで遠ざかっていった。
いや、私が光の珠から遠ざかっているのか。
いつしか意識は暗転し、次に目覚めたら、ぼんやりとした光だけを認識できた。
そういえば、赤ちゃんの視力ってかなり悪いのよね。
体も自由に動かないし、さすがに生まれた時から前世の記憶はいらなかったかなぁ、とちょっぴり後悔した。
「おかあさま!チェルシーがおひるねからおきたわ!!」
すぐそばで誰かが叫んだ。
ビクリを体を震わせると、小さな柔らかい手が、ほおを撫でる感触がした。
「大丈夫よ、泣かないで。おねえさまが側にいるわ。おかあさまもすぐ来てくれるからね」
別の意味で泣きたくなった。
ああ、立場は変わってしまったけれど、私たちはまた姉妹になれたのね。
今度こそ、この世界で幸せになろうね、『おねえさま』。