レイヴァンとわたし(2)
「クリス。」
「はい。」
「あの男、知ってるのよね?」
馬車の窓からそとを眺めながら聞くと、クリスが戸惑ったのが動作で分かった。
「教えて。誰なのか。」
先程から気まずそうにしていたクリスは、唇を噛んで頭をさげた。
「もうしわけ、ございません。」
言えない、と、そういうことだ。
そう、とだけ言ってから、まだ鮮明に記憶に残るレイヴァンの姿を思い浮かべる。
彼の服装までは暗かったし、さほど注目していなかったから分からないけど、あのパーティーにいたってことは、貴族か、騎士か、どちらにせよ、この王国の貴族社会に関わりがあるということは変わらない。
気が重くなる。
レイヴァンが貴族社会に関わっているということが、私は嫌なのかな。
私は皇太子と婚約したくない。だから皇室に近付きたくないし、いずれやってくる政略結婚というものも正直気が乗らない。
オーブリーであることを隠さなきゃならない。ベドフォード家の人間だから上手く振る舞わなきゃいけない。
この窮屈な社会に何の関係もなく生きて、自分の強さを磨いて、あんな目をして私をみるレイヴァンに、興味を持っていたのかもしれない。
私は、レイヴァンに興味を持っていたのではなくて、ただ自由であることが綺麗だと思っただけなんじゃないだろうか。
この世界のなかで私が知った社会は窮屈なものだけで、自由なものはまだしらなかったから。
だけどレイヴァンは、自由な世界の人じゃなかった。
ならなぜあんな路地裏で戦っていたのだろうか。あの時は身なりも豪華なものではなかった。貴族ならまずあんなところへは行かないし、あんなに腕がたったりしない。
なら騎士なのだろうか。騎士ならあの強さでも不思議ではない。
剣術大会の時だって………………。
剣術大会の時のレイヴァンを思い出し、考えてみると、あの日の出来事のなかに不自然なことがあるのに、今更ながら疑問を抱く。
そして、その疑問が一本の線のようにつながった。
「………………あ………。」
自分が気づいた事実に体が硬直した。信じられない思いでクリスに顔をむける。クリスは私が気づいたことを知り、真剣な顔をして私を見つめ返した。その表情から、自分の考えが正解なのではないかと恐怖を抱く。
思い出したのは、剣術大会で、レイヴァンと一緒にいた、あの男。
確か、背はレイヴァンと同じくらいで………………。
「………………っ。」
考えるほど、どれもこれも、当てはまってしまう。
レイヴァンが一緒にいたあの男は、自分より小さな女の子に対しても偉そうで、高圧的で、不審に思ったのを覚えている。不審というのは、偉そう、高圧的、に当てはまるのは、貴族が多いということ。
だからあのときも、まさか貴族なんじゃないかとおもったんだ。
レイヴァンが私と対戦しているときも眺めているだけだった。つまり、剣術大会に参加できない理由があった。それが、怪我してはいけない、目立ってはいけない、だとしたら………?
仮面で顔を隠している、恐らくレイヴァンと同じぐらいの歳。
まさかあの男が………………?
………だとしたら、レイヴァンは…………………………。
「まさか、ね………。」
クリスがそう呟いた私を見つめている。私は横をむいているからその表情は分からないけれど、クリスが頑なに私に彼について教えてくれないところも、あの男の正体が私の予想通りなら説明がついてしまう。
………まさかよね。クリス。
わたしの、考えすぎだよね?
ねえ、そうだと言って。




