オーブリーなのに魔法が上手じゃなくていいですか?(2)
「そう。そのまま」
ライお兄様に言われたとおり、手を高らかと上げ、振り下ろした。
ドオオオオオォンッッ!!!
光の球が爆音とともに砂ぼこりが舞い上がる。それをお兄様が水のバリアで防いでくれた。
「練習したね。いいんじゃないか?」
息を切らす私にお兄様が歩み寄る。私は思い切り首を降った。
「全然だめ。こんなの。」
そういう私を、お兄様は困ったように私を霧でつつんだ。汗をかいているから、冷やそうとしてくれてるんだ。
「今ので十分だよ。」
「お兄様、私、今本気でやったの。本気でやって…………」
砂ぼこりが晴れた向こうを見る。やっぱり、さほど穴は空いていなかった。お兄様たちなら、本気でやったら庭を壊しかねない程だって言うのに、私は………。
「リリー。一度やすもう。その年でここまでできたらすごいよ。」
お兄様の言葉に唇を噛む。普通の子供なら基本魔法もできない頃だろう。生を受けてから十年とたっていないんだから。でも………
「でもわたしはっ オーブリーなのに………っ」
地面を睨み付けてぎゅっと手を握りしめる。
どうして?どうして私はこんなに弱いの?
最初はよかった。基本魔法は学ばなくてもいくらでも使えたし、光属性が使えるとわかったときは、これからきっと他の属性も出てくる。そう思ったのに。
「どうして私は、こんなにも弱いの………っ」
さけんだ私を、ライお兄様は悲痛な面持ちで見つめていた。
「お父様。リリーはかなり自分を追い詰めています。」
「………どれくらいだ?」
魔法の天才である息子にたずねる。
「この間は四時間休憩無しで………。」
そうか、と頷いてベドフォード家当主はため息をついた。
魔法の才があってもなくても、自分はベドフォード家の大切な宝物なのだと、どうして娘は分かってくれないのか。
「やはり、王の返答が原因か………。」
「そのようです。」
私の呟きへの答えに、頭を抱えたい気分だった。
先日、王に娘の話をした。オーブリーであること、献上する気はないこと。幸いながら、今上は聖君だ。今の王の時代は比較的安定している。だが、王の返事は、
要検討、だった。
なんの考えも無しにただ利益を追う方ではない。だが何を考えての事なのか、その理由を聞くことはかなわなかった。
それを伝えたときのリリーの顔が、まだ眼裏に焼き付いている。
「どうにかできないものか。このままでは本当に体を壊してしまう。通常の勉学も五時間でやっているのだろう?それに加えてその量の魔法練習とは………」
「いえ………」
「? さすがに勉強時間は減らしたか。」
「増えているんです。酷いときは七時間………。」
「………っ。」
眉をしかめて手を机に叩きつけた。オーブリーに生まれてしまったがために、あんな辛い目にあってしまっている。
リリーがオーブリーであることを恥だとは思わない。リリーはリリーだ。私とアンナの愛する娘。なのに、守ってやれない、救ってやれない自分が情けない。
ベドフォード家の力を使って王を脅すことも出来ないわけではない。ベドフォード家はその気になれば王国を乗っとることもできる、そういう家だ。だがそんなことをしても、結局はリリーが苦しむことになる。
「どうしたら救ってやれる………?」