公爵家の跡継ぎは精霊に愛されていました(2)
「お分かりになっているとおり、私はオーブリーです。ですが、訳あって来るときまで秘密にしておきたいのです。ですからこの事は」
「うん。大丈夫。分かってるよ。」
わたしの言葉を遮って言われた。自分より位が上の人に頼みごとをする時には、どんなことでも対価を支払う必要がある。先方がそれを断ったら例外だけれど。
クララック様はそもそも私のお願いをすべて聞く前に答えを出すことで、その関係を成立させないようにしたんだ。
本当優しいひと。
「ありがとうございます………。ところでここは?使用人などはいらっしゃらないのですか?」
「ああ、うん………。」
初めてクララック様が視線を落とした。
………聞かれたくないことだったみたい。
「申し訳」
「ううん、いいんだ。どっちにせよ言おうとしてたしね。」
ふう。と軽くため息をついている。
「実は、僕は跡継ぎだけど父には毛嫌いされていてね、」
え?
「だからここは本邸から離れた別邸なんだ。信頼できる使用人しかおいていないから、ここに勝手に入ってくることはないよ。安心して欲しい。」
公爵家の跡継ぎなのにそんな扱いを………。普通なら本邸に縛り付けて勉強漬けにさせてもおかしくない。それほど跡継ぎと言うのは厳しく育てられる。こんな扱いかたをするということは、跡を継がせるつもりはないんじゃないだろうか。
「跡を継がせるつもりはあるみたいだよ?ただ………」
心を読み取ったかのようにそう言って、後ろを降り返った。途端に精霊たちが彼のまわりに集まる。小人精霊が数人。精霊に一人会えるだけでも稀なことだから、クララック様がどれだけ精霊に愛されているかが分かる。
「精霊たちと触れあうのをあまり快く思わないようでね。」
精霊たちと触れあうのを?
この国で精霊は貴いものとされている。息子が精霊と触れあうのを快く思わないって………どういうこと?
クララック様なら私が疑問に思っていることを察知していそうだけど、これ以上は言いたくないのだろう。口を閉ざした。それでも初対面で、しかも空からいきなり降ってきた幼い少女にここまで話すのならいきすぎたくらいだ。
ここまで話したということは何か私に伝えたいことがあるはず。実際にさっきの「どっちにせよ言おうとしてた。」という言葉。ここに使用人は来ないということをはじめから伝えるつもりだった、つまり、使用人に見られてはいけない何かを………。
「聡いね。もう分かってるという顔をしている。」
………さっきからなんなんだろう。心を読まれている感じがする。
クララック様は洞察力が半端じゃない。
「実は君に頼みたいことがあるんだ」
はぁ………?
わたしが訝しげな顔をしたのは簡単に伝わり、クララック様が頭を下げた。
「本当に申し訳ないんだけど………。勝手に連れてきておいて初対面の自分より年下の子に頼みごとをするとか本当に申し訳ないんだけど………。」
ちゃんと分かっている。
「………ある精霊を、探して欲しいんだ。」