公爵家の跡継ぎにばれてしまいました(2)
「ま、まって!」
後ろから彼の声が聞こえるが、走り続ける。このまま何か障害物でもない限り走り続ける。そう決意した。
………………障害物さえなければ。
「そっちは………!」
え?
ドスンッッ!!
「むっ!」
何か大きなものにぶつかって自分の手で自分の口を塞いでしまい、なんともまぬけな声が出た。
いったぁ。こんどはなに!?
鼻を押さえながらその巨体を見て硬直する。目を大きく見開いた。
と、とっ、とっ、
虎ぁっ!?
夢じゃない。確かに目の前に虎がいる。それも真っ白な毛並みをした。
え、虎?ほんとに虎?こんなとこに虎!?
私に追い付いてきて肩に手をかけた彼に、震える指でそれを指す。驚きのあまり声を出せなかったが彼は理解したようで、ああ、と頷いた。
「僕の契約精霊なんだ。貴族精霊のルアンだよ。」
「けっ契約………。貴族精霊ですって!?」
思わず敬語もなにもすっ飛ばして叫んだ。当のルアン様は大きなあくびをした。
契約精霊というのはその名のとおり、ある固定の主を作る精霊の事。この国では16歳になると必ず洗礼祭といって、精霊王を祀る大神殿に集められ精霊と契約を結ぶ儀式がある。
精霊にもいくつか種類があって、まず人間型と動物型に分かれる。
この 型 には特にどちらが強い力をもつなどはないが、まず人間と契約してくれるのは動物型が大半。人間型は特に序列はないが、動物型はこれがきびしい。
はじめに下級精霊が一番下の位。この精霊たちは人間の言葉を話すことができず、大半の人間はこの下級精霊と契約する。私がいつも遊んでいるのはこの下級精霊と人間型精霊。
そのつぎに中級精霊、上級精霊とあり、この精霊たちと契約を結べるのは相当魔法の才能がある人か、代々上級精霊と契約を結ぶ家に産まれた人ぐらい。
そのさらに上をいくのが貴族精霊。貴族精霊には人間社会と同じように男爵級~公爵級があって、貴族精霊たちは人間の言葉を話すことができる。どの精霊が降りてきてくれるかはその人の魔力の大きさによって決まるから、こんな上位精霊と契約できるのは20年に一人もいない。
………まあ。皇太子はこれのさらに上の五大精霊と契約するわけだけど。
「うん。階級は伯爵級。今年の洗礼祭で契約してくれたんだ。」
は、伯爵級………。
言葉を失ってルアン様をみあげる。と、目があった。
"おお!?これは驚いた。オーブリー!!"
~~~~~!!!!??
"出会えるのは何百年ぶりだろうか!どうりでさっきから気分がいいわけだ!なんとも愛らしい顔立ちをしているな!"
ルアン様が首を下げて私の頭の横に耳をすり付けてきた。
きゃぁぁぁぁっっ!
思いっきりいっちゃってます、ルアン様!
ああ、でもふわふわ………………。
前世からふわふわに目がなかった私は、一瞬ルアン様の毛並みの心地よさに意識を飛ばせた。
それも一瞬にして引き戻されるのだが。
「やっぱり………オーブリーなんだね。」
………………………はっ!………。