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32話 「愛して」







「ほんと悪いけど、勘弁してください……」


 気持ちは嬉しいけど。

 いややっぱり気持ちも嬉しくないわ、と呟きながらにじり寄るフィストと距離を取る。

 じりじりと目を輝かせて迫る女の姿は肉食獣そっくりだ。

 捕食間際の獲物の心境。冷や汗が止まらず、命の危険以上の悪寒で身体が震える。


(どうしてこうなるんだか……)


 戦わずに済むかもしれないと思った自分が甘かった。

 方向性が他と比べてぶっとんでいるだけで、間違いなく彼女はハルの命を凌辱しようと迫る敵なのだ。

 気持ちを入れ直し、ふと場の空気が変わったことに気付く。


(狙撃が止んだ……ルシカたちはうまく銃身バレルを引き付けてくれた、でいいんだよな?)


 自信はない。そう信じるしかない。

 事前の作戦通りならば、いま銃身バレルはルシカたちの対処に回ったはずだ。


(あいつら、ちゃんと協力し合うんだろうな……?)


 彼女たちに何らかの確執があるのは鈍感なハルでも分かる。

 あの場に流れた殺し合いでもしそうな空気は、いま思い返しても背筋が寒くなるほどで。二人きりになることで表面化してしまわないだろうか。


(いや……あの二人なら大丈夫。人の心配してる場合かよ)


 最高峰の剣士と悪党が肩を並べているのだ。

 不覚を取るかも、なんて凡人の自分などが心配するべきではない。

 息を吐き、気合を入れなおして木陰から出る。

 これまで逃げることに徹してきたハルの変動にフィストの眉が怪訝そうに曲がる。


「もう逃げないの?」


「……そうだ。アンタとはここで決着ケリをつける。狸亭の分までぶん殴るつもりだから、覚悟してもらうぞ」


「くひひ。殴るだけなんて変なオーガだね、あなた。ヒトを食べる怪物なのに変だね、変だ」


 フィストが無防備な足取りで近寄る。

 駆け引きもなければ恐怖も緊張もない。

 まるで親しい友人に笑いかけるような気軽さで女は言う。


「私も殺したヒトはできるだけ食べるようにしてるんだ。肉は食べられないから血を飲むの。飲んで、浴びて、お行儀よくご馳走様でした、ってするの」


「……」


「貴方もそうでしょ? 食べるんでしょ? 倒した相手をころしてころしてころして。そうして食べるなら私たちって一緒じゃない。一緒だよ。一緒じゃなきゃだめだ」


 声には縋るような、憐れむような色が混ざった。

 不用意な足取りで歩み寄ってくるフィストに対し、ハルは返答代わりに足を振りあげ、地面めがけて叩き付けた。


 ――ほんの少しだけ、異形の力を引き出す。


 破城槌で門を叩くような衝撃で大地を揺らし、めくれ上がった地面を爪先で拾い上げて蹴り上げる。

 土塊が弾丸と化してフィストの顔面に命中。


「ぷえっ!?」


「一緒なんかじゃねえよ!!」


 驚きに怯んだその隙に距離を詰め、彼女の腹部を蹴り飛ばす。

 今までの牽制に比べて腰を入れた、大地を割るほどの蹴撃を腹部にめり込ませ――しかし、フィストの体幹が崩れない。


「重っ……!?」


 蹴り飛ばすには至らず、再び距離を取る。

 その間にフィストは汚れた顔を袖で拭って、再び臨戦態勢を整えた。


「いきなりひどいよぉ、オーガ……びっくりしちゃうじゃない!」


(やっぱてえ……でも)


 これでいいはずだ。

 奇襲で痛痒を与えたとは言い難いが、これを積み重ねていくしか手段がない。

 本命は一番最後に。

 指でくいっ、と挑発すると、フィストが嬉しそうに寄ってくる。


「いま行くねえ!!」


『ハル。次はフィストの攻略法だ』


 脳裏によぎるルシカの助言を反芻させながら、大振りな女の一撃を後退して躱す。

 十分に距離を取って、拳脚を傷めない程度の力でフィストの腰を、脇を、腹部を突く。ダメージを期待してのものではなく、フィストの冷静さを剥ぎ取るために打つ。


「ぎひっ!」


 悪さをするハルの腕を掴もうと手が伸びる。

 付き合わず手刀で打ち払い、足首を払って体勢を崩したところに回し蹴り。

 続けて身体を一回転させ、独楽の要領での裏拳。

 どちらも面白いようにフィストに命中し、鋼を打つような手応えが返る。平時ならこの時点で崩れ落ちてくれるはずだか、彼女は膝を突く素振りさえない。


(それでいい……! 今は威力よりも、手数!)


 撃つ。撃つ。撃つ。

 息も尽かさず拳を、脚を振りぬき――やがて、その時が来た。


「ぎひっ――オーガァアッ!!」


 フィストが両腕を広げて飛びついてくる。

 反撃と言うには稚拙で、抱擁と言うには乱暴な行為。シャ、と刃が奔る音を耳にしたハルが、残しておいた余力と意識を全力で割いて、大げさなぐらいに距離を取った。

 べしゃりっ、と勢いよくフィストの体が地面に倒れ込んで、愕然とした表情の顔が上がる。


「あれ……なんで?」


 フィストの手甲から銀色の刃物が飛び出していた。

 鋭利な輝きが月明かりに照らされて不気味に光る。既に誰かの血を啜った後――恐らくはザジの血を染み込ませた凶器が虚しく空を切ったことに、フィストは困惑した。


フィストの名前に騙されるな』


 すう、と息を吐いてハルが再び腰を落とす。

 立ち上がったフィストの表情から笑顔が消えた。能面のような無表情で距離を詰め、雑に拳を振り下ろす。射程を理解しながら打ち払うと、今度は女の膝が浮いた。


「……なんの!!」


 ハルを腹部を撃ち抜く軌道は緩慢だが、受け止めはしない。

 腰を捻り、体勢を崩して地面を転がりながらの緊急回避。即座に顔をあげれば、今度は女の膝から銀色の鎌が生えて、ハルの横腹を掠めていた。


『拳使いなんてとんでもない。彼女の本命は全身に仕込んだ刃……暗器使いだと、そう考えるんだ』


「でやっ!」


 距離を詰めて、牽制代わりに腹部を蹴る。

 右から飛んできた仕込み刃の付いた拳を払いのけると、今度はフィストの爪先がハルの足首へと向かった。刃物が空気を裂く音を跳躍して躱すと、顔面に向けて飛び蹴りを放つ。


「ぶぎゃっ!!」


 溜まらず両手両足を投げ出して倒れるフィスト

 深入りはせず起き上がるのを待つ。 

 彼女はジタバタと腕を振るいながら身を起こし、そして眦を吊り上げた。


「どうして! どうして知ってるの!! ずるい!」


 いつもなら仕込み刃で腕を斬り落とし、腹を掻っ捌いて勝負を決めていたのだろう。

 思い通りにならず憤る姿を見下ろしながら、ハルは息を吸った。


『距離を見誤らず、常に攻撃範囲の広さを意識しろ。初見殺しの機構兵装だが、タネさえ分かれば君の方が優位に立てる。一座の中で唯一、君の強みを一方的に押し付けられるはず』


 ハルに格闘のセンスがあるわけではない。

 それ以上にフィストの動きが鈍すぎるのだ。

 耐久力と不意打ちに特化してる半面、その技術は素人と何ら変わりがない。


 ハルにとっては短剣ダガーのような素早い手合いより、不意打ちを封じられた頑丈なだけのフィストのほうが与しやすい。


『何度も避けてやれば、精神的に未熟な彼女のことだ』


「私の取っておき、今まで一度も避けられたことないのに……! どうして、なんで、おかしい、このおっ……!」


『自分の頑丈さに胡坐を掻いて、これまで以上に雑になる』


 好機は突然訪れた。

 両腕両膝両足に仕込んだ刃を振りかざしながら、ハルへの吶喊とっかんを繰り出そうとしたフィストの動きが突如、急停止した。


「あっ……!?」


 彼女の右足から生えた刃が、転がった枝と絡まっていた。

 突然足を引っ張られフィストの視線が下へとずれて。


「今っ……!!」


 その隙を逃さずハルは彼女の懐へと飛び込んだ。

 対するフィストは、胴体から仕込み刃を生やして迎え撃つ。

 一向に捕まらないハルを迎撃するために見せた、カウンターの構え――それが、幾度となく繰り返して刷り込んだ布石だと、フィストは気付かない。


 ――ハルの本命は、無防備になった彼女の細い顎だ。


『そこに、君が持つ手段で最高の攻撃力を叩き付けてやれ』


「だっ、ぁあああっ!!」


 懐にもぐりこんでの振り上げ攻撃アッパーカット

 地面を蹴り上げ、体全体をバネにして跳躍し全身全霊を込めて拳を叩き付けた。


「べっ、ぎゃ……!?」


 体がどんなに頑丈でも内臓や脳といった器官は別だ。

 たとえ機人族マキナの中身が普通の人間と違うとしても基本原理は変わらない。


 心臓に相当する部分が停止すれば死ぬし、脳に相当する部分が揺れれば意識が飛ぶ――その目的に沿う会心の一撃に、フィストが白目を剥いて宙を舞う。


(まだ足りない――もう一撃!!)


 フィストの体が地面に横たわる前にハルも地を蹴る。

 左腕の準備は整っていた。

 強く堅く握り締めた左拳が唸りをあげて空を舞うフィストの顔面に、ダメ押しの一撃を重ねるため振りかぶる。


 これで決める。これで終わりだ。

 心の中に余裕が生じた。

 慢心ではない。闘争に対する愉悦が生じたのだ。



 それが引き金になった。




【血の衝動に】




 ――おい。冗談だろ。




【血の衝動に身を捧げよ。闘争に酔いしれよ】




 鬼の呼び声が耳をなぶった。

 体内に流れる血という血を媒介にして無限の高揚感が迸っていく。

 頭の中に黒い泥が生じて脳を侵していく。

 あらゆる禁忌を許そうと悪を囁く。


【鬼の血に酔え】


【欲望のまま狂え】


【我慢しなくていい】


【本気で殴っても誰も責めない】


【仲間を殺した女だ】


【飽き足らずお前も殺そうとしている】


【何度殴っても傷付かなかった極上の女だ】


【破壊したらさぞ気持ちいいんだろうな】


【快感を知ったら病みつきになるぞ】


【お前にはそれが許されている】


【ヒトを壊す愉悦に酔いたま――、うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさい!!!】



「――ァァァァァア!!!」


 唇を噛み締めて意識の主導権を取り戻す。

 見れば振り上げた左腕があかく染まり肥大化していた。


(あんの……クソ鬼ッ……!!)


 キーファの獣化に近い姿だ。

 左腕以外がどうなっているのかは考えたくない。

 腕はフィストの顔面に向かって真っすぐ放たれている最中で、込められた膂力は今までハルが発揮してきた怪力など比べ物にならない。


 左腕の軌道を強引に逸らす。

 顔面に入れば脳震盪や失神ではすまない。

 たとえ悪縁しかないフィストでも、その命を奪ってしまえば理性が飛ぶ。


 理性と良心はハルという人格を形成する重要な要素だ。それを命を潰す快感で塗りつぶしてしまえば、きっと。


(思い通りに――なって、たまるかッ……!!)


 歯を噛み締めて狙いを定め直す。

 着弾点をフィストが数多くの仕込み刃で防御を固めた胴体に決め、刃を殴る痛みを覚悟して目を瞑った。


 耳をつんざく刃の断末魔が響き渡った。


「ばっ、ぁあげぁっ!!?」


 赫色の怪腕は折り重なった刃の壁をあっけなく突破した。

 赫腕は腹部に突き刺さると骨や内臓に相当する器官を粉々に砕き、それにも飽き足らず衝撃が腹部から全身へと渡り破壊の限りを尽くしていく。


 フィストは頭から地面に激突することなった。

 そのまま勢いを殺すことなく身体を地面に何度も叩きつけ転がっていく。


 壊れた人形のように手足がだらりと投げ出され、赫腕の暴力を逃れた仕込み刃も圧し折れてフィスト自身に突き刺さり、その身体が五度ほど地面を跳ねた辺りでようやく停止した。


「がはっ……ァ」


 女の口から血の塊が吐き出された。

 無傷を誇った最硬の称号が呆気なく砕け散った瞬間だった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「はぁぁぁ、はぁぁ、はぁー……!」


 目を閉じて膨れ上がった左腕を右手で必死に抑える。

 乱れた呼吸を整え、内側で膨れ上がる殺傷への高揚感を押し留める。

 衝動が鎮静化し、頭で鳴り響く黒い声が残念そうに心の奥底へと帰っていく。


「は、はっ……はぁ」


 恐る恐る目を開けた。

 元通りの自分の身体がそこにあった。赫色の左腕は元の人間の腕に再び戻り、傷一つなくそこにあった。


「戻った……くそ、こんなに酷い侵食は初めてだぞ……」


 思えば、機人族かれらとの争いは丸二日に及んでいる。

 仲間の死や激戦で精神に負担を強いてきた。普段は夢の中でちょっかいを掛けてくる程度だった黒い声に付け込まれる隙があったのかもしれない。


 もっと心を強く律しなければならない。

 その一端でも使った結果が、この有様なのだから。


「あぁ……ちくしょう、絶対やりすぎた……し、死んでない、か……?」


 恐る恐るフィストの顔を覗き込むため近寄った。

 彼女は血まみれの状態で大の字に倒れており、初めは死体にしか見えなかった。しかしその身体が小刻みに震え、浅い呼吸を繰り返していることに気付くと心から安堵する。


「よ、かった……」


 思わずふらふらと遠ざかり、ついにはへたり込む。

 生きていた。

 殺してはいなかった。

 その喜びが偽善と呼ぶのも厚かましい身勝手なものだと分かってはいるのだが、力が抜けるのを我慢しきれない。


 生きているとはいえフィストの状態は酷い。


 最後の一撃は彼女の胸部を陥没させていた。

 破壊の爪痕は中に内蔵されていた暗器にも及び、機人族マキナの心臓部分に当たるだろう器官が露出している。

 少し目測を誤っていれば基幹しんぞうも無事では済まなかっただろうが、幸いにも破壊を免れていた。


「良かった……」


 弛緩する足に力を込め、どうにか立ち上がる。

 脳震盪で失神したフィストがもし目覚めても、もう立ち上がれないだろう。

 基幹しんぞうが無事であるなら放置しても死にはしないはず。

 腕の良い鍛冶族ドワーフ修繕作業メンテナンスを施されない限り、身を起こすこともままならない。心苦しいが、ここに置いておこうと決めて踵を返す。



 決着はついた。

 あれで立ち上がれるはずがない。



「ょ……か……ったって、なに……? き、ひひ」



 立ち上がれるはずが、ないのに。


「――嘘だろ、おい」


 振り向いた先で大の字で倒れたフィストの体躯が震えていた。

 ごりごり、と骨が外れる音を奏でながら女の半身が起き上がり、ハルの喉が引き攣った。


「……ひど、ぃよぉ、おーがぁ……ぁ、でも……、てきぃ」


 それは狂人だ。

 よだれを垂らし、息を荒くしながら目を見開く。

 奇妙な方向に曲がった首がごきり、と鳴って正常な位置に戻る。

 陥没した胴体が心臓の鼓動のようにベコッ、ベコッと一定の間隔で伸縮を繰り返している。


「すてきぃ」


「ぐっ……」


「素敵ぃ、ステキ、ステキ。凄く。スゴク、スゴク。嬉しい。ウレシイ、ウレシイ! 痛い。イタイ、イタイ、痛みだっ、こういうのハジメテ。痛い。痛イ! イタイ! くふっ、くふふふ! あはははははははっ!!」


 致命的な損傷を被っているはずなのだ。

 その傷を再生するべく関節の節々を無理やりに動かし、耳障りな破砕音が断続的に響いている。


(……い、や、あれは本当に治癒行為か……?)


 骨が砕ける音が鳴る。

 その度にフィストの顔が苦痛に歪み、次の瞬間には恍惚の表情に変わっていく。


「でたらめだ……」


 機人族マキナの身体はそのように治すものじゃない。

 専門の鍛冶族ドワーフによる極めて精密な修繕作業メンテナンスによって、数日がかりで行われるもののはずだ。

 いまの彼女は自己回復を試みているのではない。

 あれは自傷行為に勤しんでいるだけだ。


「おい、立つな。やめろ! 死んじまうぞ!?」


「私、イタイって忘れてた! 叩かれると、蹴られると、こんなに痛いんだ! 思い出した! 思い出した、あははははっ!」


 ハルの案ずる声も遠い。じぶんには関係ない。

 頭の中で危険信号エラーが鳴り響いていようと意味はない。

 後でどんな後遺症が残ろうと構わない。後で身体がバラバラになろうと後悔しない。


「ありがとう、ありがとうオーガ! 思い出させてくれて!」


 いま、この瞬間だけ立ち上がれればいい。


「ずっと辛かった! 痛みを感じなくて! ヒトはみんな痛いことをされたら痛いっていうのに! でも、でも私も、ちゃんとヒトだった! ちゃんと痛みを感じられるヒトだった! 愛、愛して、愛してるオーガぁぁぁ……!」


「聞こえないのか!? このままじゃ死んじまうって――!」


「――けどさぁ」


 ヒュ、とハルの呼吸がそれきり止まった。

 突然、喉に刃物を差し込まれたような悪寒が奔り、その意味を介する間もなくフィストの強い眼光が困惑するハルを射抜いていた。


「もっと、ちゃんと、ころしてよ」


 気付けば恍惚に満ちた声音が切り替わっていた。

 狂人を思わせる下品な笑い声が消えた。

 飛び出すほど見開いた目に、理性の光が灯っていた。

 ハルを見る彼女の瞳が、縋るように揺れている。


「『良かった』なんて、ひどいよ、私は、本気で、ちゃんと、壊してくれるって、なんで、そうじゃない、本気で、貴方に、本気で、愛して……」


 取り留めのない声、声、声。

 壊れた録音機が意味のない音を垂れ流すような、そんな呟きの真意を問いかける暇もなく。

 

「やっと私をこわせる、人なのに、ひどいよ、オーガ」


 フィストの体ががくがくと震えだした。

 機能停止する前触れではない。

 歯車が限界を越えて駆動し、体内に蠢く機構兵装が吼えているのだ。

 壊れた箇所は更に壊して空洞を作り、そこに新しい武装を入れなおし、継ぎ接ぎ、継ぎ接ぎ、自身を作り変えていく。


「う、げ……!?」


 ハルの顔が嫌悪感と恐怖で引きつった。

 もはやフィストという名で呼んでいいものか分からない怪物がそこにいた。

 右の拳は先端を尖らせて削岩機ドリルとなり、左腕は三つに千切れてそれぞれが三本の長剣に姿を変え、胴体は余すことなく仕込み刃を生やしたその姿は、足の生えた剣山だ。


「でも、いいの、代わりに、私が、こわして、あげる。あのね、オーガ。私ね、ワタシィ……」


 もう人の姿じゃない。

 ギュルギュルと怖気のする稼働音を奏でながら『それ』は言う。


「アナタのこと抱きしめたくてタマラナイノォォォォォォォ!!!!」


「冗談だろぉ!!?」


 自らの血を撒き散らしながら怪物が迫る。

 一の二もなく逃げ出した。

 足をもつれさせ、呼吸を整える余裕もなく、後ろを振り返る勇気すら湧かずに必死で足を動かした。


 泡を食うハルの脳裏にルシカの声がよぎる。


『もし、それでもまだ立ち上がってきたなら……』


 記憶の中の彼女は、目を伏せて気の毒そうに。



『脇目もふらず逃げろ。もう彼女には誰も触れられない』







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[良い点] 更新ありがとうございます! 拳ちゃんはヤンデレちゃんだった!? 拳ちゃんの抱擁(最硬+暗器付き)を受け止められるのは全身オーガ化したハルだけ!! でもその時はオーガに衝動的に殴りつけら…
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