表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/83

12話 「欲深きものども」






 ハルとルシカ。

 謎多き二人の若者は一体、何者なのだろう。

 凡人冒険家ピーターの頭に、まず浮かんできたのはそんな疑問だった。


 状況を推理する材料はそろっているはずだ。

 巻き込まれた状況を、自分が立ち向かうべき『敵』を、ここまでピーターを導いてきた二人のことを知らなければならない。


(大前提の結論として――これは一介の冒険家の手に負える事件じゃない。けれどあの二人の動きは、どこかこの展開の全てを見通したような動きだった)


 常に先手先手を意識した行動。

 破天荒だった彼らの決断、一つ一つが全ての動きを見通したうえで予測を立て、最適な行動を取捨選択してきたという予感がある。

 ならばあの二人組の立ち位置は?

 彼らと『敵』を敢えて繋げて考えるなら、その正体は?


「悪の組織と……それを追う二人組のエージェント?」


 言葉にすると三文小説の筋書きのようだ。

 敢えてその例えになぞらえるなら、ピーターは二人組の協力者といったところか。

 中盤には死んでそうな役回りだな、と笑えてきた。

 あんまり笑えなかった。


「いかん、まだ混乱してるぞ……」


 現実逃避しそうな頭を小突く。

 飛躍した発想を捨て、事実だけを積み上げて推理しなければ。


(少なくともホウロン村を取り巻く全ての事情は引っくり返った)


 魔獣の巣窟と思しき場所は人の手が入った工場だった。

 元凶であったはずのゴブリンは虜囚の身で、飼育とも養殖とも言えない環境の中で生きて、死んでいくだけの存在だった。

 ふと道中の黒尽くめの少女の言葉が蘇る。

 

『何故、災禍の小鬼なんて御伽噺が生まれたのか』


 この意味を、考えなければならない。


 何故?

 御伽噺はいつだって、誰かの口伝から生まれたものだ。

 事実とはまるで違う噂話が広がったのは何故か――それは、それが広まることによって得をする『誰か』が積極的に流しているからに他ならない。


 情報が孤立しがちな村へと本を配る。

 これ見よがしに挿絵付きで、ゴブリンの脅威を知らしめるために。

 村から街へ、街から国へ『災禍の小鬼』という御伽噺が、本来の事実を塗り替えるだけの説得力を得るまで。


「だったら後は……事実を並べるだけ」


 ゴブリンは女性を攫わない。

 なのに村では何人もの女性が行方知れずになっている。

 災禍の小鬼のうわさ話を知る者は自分を含めた誰もがゴブリンの仕業だと信じた。

 だが、そうでないと言うなら何故女性は行方不明になるのか。


「――ああ。簡単な話だ」


 気付いてしまえば、当たり前の話だった。


「ゴブリン伝承を隠れ蓑に、女性を誘拐する組織があるんだ」


 そうだ、組織だ。

 個人による犯行では有り得ない。

 何十人という人員がいなければ、うわさ話の扇動にも娘の誘拐もゴブリンの管理もままならないはず。


「いや、それどころじゃない。ナナシノ、ハリュウ、ヌエマ……三つの村が全滅の憂き目にあっているんだ」


 全滅とはつまり、皆殺しだ。


 小さな集落とはいえ三十人以上の人口があったはず。女性を除いたとしても、合わせて百人以上がいたはずの人々は皆殺しにされた。

 恐らくは口封じ、ただそれだけのために。


人間ひとの所業じゃない……たかが女性の誘拐のために、そんな大それたことをするか……? ……いや」


 有り得ない話ではない、かもしれない。

 大陸中央に位置するミトラ聖龍国は各国の中でも有数の豊かさと文化、規律と清らかさがある。

 国策として奴隷制度を許さず、人身売買も禁止された国の民は、奴隷制度に肯定的な他国にとって奴隷としての需要は高い、と聞いたことがあった。


 貞淑。従順。敬虔。

 いかにも人を支配したがる連中には好ましい需要だ。


 真相はどうあれ、ゴブリンの仕業だとして村が焼かれ、娘が攫われたのだ。

 それだけのために、それだけのことをする組織だと思ったほうが良い。


 そして。

 ホウロン村が、四つ目の標的に選ばれた。

 規模が拡大したのは三つの成功例を経て自信を付けたと考えるのが自然だろうか。


「考えがまとまったみたいだね?」


 気が付けば、黒尽くめの少女が立っていた。

 ハルを伴って意味深に微笑む姿にはまだ疲労の色は見えるが、息を整え淀みのない声音を取り戻した彼女はピーターの考えの、その先を促した。


「ここまで来たなら、この件の首謀者が誰なのかも当ててみるといい」


「……」


 難しい問いではない。

 これほどの大掛かりな仕掛けを『彼ら』の目を欺いて実行するのは不可能に近いのだから。


「――冒険団」


 彼ら以外に考えられない。

 村の内部に巣食い、襲撃を操作し、村の目が外に向いてる間に娘を攫う――それができて、組織立って動くほどの人員なんて、彼ら以外考えられないのだから。


「ご明察」


 よく出来ました、と少女の頬が場違いに緩む。


「荒事の専門家スペシャリストを騙る彼らの自作自演マッチポンプ。それが、ゴブリン事件の真相だ。今なら、彼らの手口も手に取るように分かるはず」


「そう、だね。確かにそうだ」


 ゴブリンの印象操作で村人の恐怖心を煽る。

 その上で度重なる襲撃を画策し、それを撃退することで村の信用を稼ぐ。しかし女性は少しずつ内部から誘拐していく。

 ある程度のタイミングが来たら、女性を村からの脱出させることを提案するのだ。


「避難にかこつけて、商品自ら馬車の中に入ってもらうだけ。けれど馬車の行き先は隣村なんかじゃない。多分、非合法の奴隷市だ」


 こうして売り物になりそうな村の女子供は根こそぎ回収。

 後は、口封じと証拠隠滅を兼ねて残された村人たちを虐殺すれば、暗躍する冒険団の存在を知る者は誰もいなくなる。


「でもルシカ、ゴブリンを操れるってとこは間違いないのか? 俺には今でもピンと来てないんだが」


 ハルの疑問に、ルシカはにっこりと微笑んだ。


「地面を這うように設置された装置は土の魔力マナを搾取・吸収してゴブリンの発生を促すもの、天井の水晶は光の魔力マナを人工的にで生み出し妖精の自意識を混濁させる仕掛けで、そこにゴブリンを構成する魔力マナを溶け込ませ……」


「あ、いいです。すみません」


 迂闊な質問だったと頭を下げて、ハルでも分かる機械学入門編を強引に打ち切らせる。

 説明したりないルシカは口を尖らせ、長い黒髪を乱暴にかき上げつつゆったりとした足取りで洞窟の中央へと進んでいく。


「彼らがゴブリンたちを操れるのは間違いない。夕刻の襲撃の時、私がフードを脱いで矢面に立った途端にゴブリンたちが退いただろう? 仕組みどうこうでなく、あれで答えが出てる」


「答え……?」


『きっと、私の美しさに免じてのことさ』


 そう嘯いた少女のしたり顔を思い返したピーターが「あっ」と声を上げた。


「そ、そうか! 連中、ルシカちゃんを見て慌ててゴブリンを退かせたのか! 乱戦で傷付けて商品としての価値が下がることを嫌がったんだ……!」


「ふっふっふ。強欲な連中が、私のような極上の獲物を見逃すはずはないよね?」


 堂に入った自賛には苦笑いも出てこない。

 だが、あの時点でそこまで読み込んで姿を晒したのか、と思うと末恐ろしい気持ちになるピーターだが、ともあれ『敵』が思い通りにゴブリンを操作できる証明としては十分だ。


「じゃあ、お前さんたちが急いで村を出ようと言い出したのは……」


「村は詰んでいた。彼らの言う通りに動けば動くほど死期が近付く状況だ。私たち女子供を馬車で運び出そうという動きは、彼らにとっては最後の仕上げ。あの時点でもう一刻の猶予もなかった」


「……だからピーターを脅してでも脱出するしかないって結論になったんだ。実際にこれを見せるまでは、信じてもらえないと思って。……ほんとに悪かった」


「いや、お前さんたちが正しい。謝ることは何もない」


 それより、と一度言葉を区切る。


「これから、どうするつもりなんだ? もうお前さんたちの言葉を疑ったりはしない。だから教えてくれないか? お前さんたちは何者だ? 一体何をしようとしているんだ?」


 目の前に横たわるのは、目を覆うほどの悪行だ。

 凡人の自分には手に余る代物で、けれど見逃せばホウロンの村もまた滅びた三つの村と同じ末路を辿るに違いない。それを許すまじと目の前の若者が立ち上がろうというなら。


「俺に、まだ手伝えることはあるか?」


 冒険の時が来たのだ。

 挑戦することを諦めた過去の自分を振り切る時が。

 微力を絞り尽くす乾坤一擲の瞬間が。


「危険な場所に向かうお前さんたちに付いていく、そういう約束だったはずだ。まさかここで『お疲れ様』なんて言うつもりじゃないだろうね?」


 身を案じるような少年の視線を跳ねのけ、唇に指を当て思考する少女に目で訴える。

 やがて少年は困り顔で口端を上げ、少女が不敵な笑みで肩をすくめた。


「目的は三つ」


 黒尽くめの少女が白い指を三つ立てる。


「一つ、この件で蠢く悪党どもの摘発。二つ、災禍の小鬼を司るこのゴブリン工場の徹底的な破壊――そして三つ。此処に囚われている娘たちの救出」


 切れ長の瞳を好戦的に吊り上げ、少女が獰猛に笑った。

 身が引き締まる思いでそれを聞くピーターの肩を叩き、ハルを連れ立って洞窟の先へと歩みを進め、周囲を鼓舞するように更に一言を言い添えた。



「連中が必死に集めた成果を、私たちで掻っ攫い返してやるのさ」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 水晶広場を抜けると、再び無機質な岩の通路が続く。

 鼻腔を通り抜ける空気もひんやりと冷え、洞窟にありがちな土や苔の匂いが増す。

 奥に進むにつれ、マナによる光量が少なくなっていくのが不安を殊更に煽り立てた。

 常に饒舌だったルシカが押し黙ったままでいるものだから、三人分の足音以外が聞こえない。


「……結局、お前さんたちが何者かは聞いてないような」


 沈黙に耐えきれず口を開くと、ハルの背中を摘まんで歩くルシカが億劫そうに目を伏せた。


「ただの冒険家が一人と、ただの美女が一人」


「……まだ信用してもらえない感じ?」


「ごめんピーター、そんなつもりはなくてだな! めっちゃ胡散臭いと思うけど、ほんとそれ以外に答えようがないんだ。大層な肩書きもないし、誰かの後ろ盾があるわけでもなくて……」


 申し訳なさそうにハルが言うので、「了解」と返して頭を掻く。

 彼らに隠し事があるのは百も承知だが、向こうから話すならともかく暴き立てようというのも違うだろう。

 冒険家の礼儀にも反することだし——などと考えている内に、単調だった道筋にも変化が訪れる。


 複数の篝火に囲まれた、開けた空間があった。

 楕円の形をした広場で、更に奥へと進む道がある。そこまでは良い。

 問題は入り口と出口を隔てる奈落の存在だ。


「うーわ……」


 うんざりと言った顔でルシカが呻いた。

 奈落を覗き込むも真っ暗闇がぽっかりと口を開くばかりで、下の様子を窺い知ることは出来ない。

 出口に向かう手段と言えば奈落の中に浮き上がる小島のような足場が、ぽつりぽつりと一定の感覚で配置されている。

 移動にこれを利用しろということなのだろうか。


「普段使いに向かないだろ、こんな作り。踏み外して下に落ちたらどうするんだ? 下にクッション敷いてどうにかなる高さじゃないぞ」


「……多分、逃亡防止のためだろうね。こんなの見せられたら逃げ出そうって気持ちも折れるから。この洞窟が魔導品アーティファクトで造られてるなら渡る時だけ平坦な道に変えればいいんだし……よっと」


 ロープを自分に括り付け、その先端をハルに任せてから一番手近な足場へと跳ぶ。

 不安定な足場だが、着地した手応えとしては思ったより頑丈だ。

 冒険家の身体能力なら問題なく飛び越えられるだろう。

 となれば当然、問題は――


「……」


「ルシカちゃん、どう?」


「うん、この距離はだめかな。跳べる自信がない」


 一般人の域を出ない彼女を、どうやって向こう岸に連れていくかという話になる。

 にっこりと硬い笑顔でバツ印に手を交差させる彼女に対し、ひとまず聞いてみる。


「勇気を振り絞ってくれればこっちで受け止めるけど」


「私という人間を甘く見ないでほしい。一人で跳んだりしたら、踏ん張った足首を捻って直角に奈落へと飛び込んでいくに違いない。私を信じろ」


「――、……」


 今日一番の決め顔だった。

 できれば使いどころは考えてほしい。

 だが彼女は「案ずるなかれ」と絶句するピーターにウィンクをすると、おもむろにハルに向かって手を広げた。

 傍目から見れば恋人に向かって、抱き締めて、と催促する仕草に見えるのだが。


「こんな時のために肉体労働担当のハルがいるのさ」


「こんなことのために付いてきてるわけじゃねえ……」


 力なく肩を落とす少年だが、重ねて「ん」と催促されると観念したように目を閉じ、それから彼女の足と背に手を回して抱きかかえ――何をしようとしているのか分かってピーターが泡を吹く。


「いや絶対ダメだって! 一人抱えた状態のまま飛ぶとか危ないって! お熱いのは分かったから別の手を考え、――」


 最後まで言葉は続かなかった。

 地面を蹴った二人組の跳躍は一番手近な足場だったピーターの頭を軽々超えた。


「ぉ……?」


 ハルは三つほど飛ばして比較的大きめの足場へと着地。

 ぱらり、と二人分の衝撃に耐えかねた足場から土が零れ、奈落へと吸い込まれていくもハルは気にした様子なく首を傾げた。


「え、あ、ごめんピーター、破片とか、危なかったか?」


「――あ、いや。全然?」


 咄嗟に言葉を返すものの、目を疑うような跳躍を前にそれ以上の言葉が続かない。

 ピーター自身が全力で跳ぶよりも倍以上の距離を、女一人抱えて跳ぶのはデタラメにすぎる。


 ハルを自分と同じ普通の人間ヒューマンだとばかり思っていた。

 見た目はただの人間で、獣人族ビーストのように獣の姿をしているわけでも背に翼を生やしているわけでもない。

 だが、今の跳躍力はその域を超えている。


(そうか、混血種ハーフ……)


 思い至れば、難しいことはない。

 きっとハルは人間族ヒューマンと他種族との間に生まれた混血種ハーフなのだ。


 この世には人間ヒューマン以外にも様々な種族が存在する。

 そして他種族と子供を為せるのは人間ヒューマンの特徴の一つでもある。

 彼ら混血種ハーフの見た目は人間ヒューマンと瓜二つだが、片親の種族特徴の一部が子供にも宿るという。


(なるほど、脚力自慢の獣人族ビーストなら幾つか心当たりがある――隠したがるなんて、何とも水臭い話――)


 いや、と首を振る。

 混血種ハーフ生まれには様々な苦労があると聞く。

 ハルが黙っていたいと願うなら、知らない振りをするべきだ。


「……ハルさん、俺が先に跳ぶから後から付いてくるように。地面が脆いところがあるかもしれないからね」


「ぁ……うん、ありがとう」


 互いに合図を交わして難所攻略を開始する。

 先ほどの跳躍は足場にも負担を強いるため、比較的床面積の大きい足場を選んで丁寧に一つずつを踏破。

 全体の半分程度まで辿り着く頃には、奈落を意識する恐怖心も薄れ始めていた。


「ハルさん、ここまで跳べるかい?」


「ん、多分大丈夫」


 少女一人を抱えてなおピーター以上の跳躍力を発揮するハルが、何度目かの奈落渡りを行う。


 その時だった。

 安定していたハルの態勢が、中空でがくりと崩れた。


「なっ―――?」


 戸惑いの声。

 足に絡みつく違和感に視線を向け、愕然とする。


 足首に何かが巻き付いていた。

 まるで地獄から生者の足を掴む亡者の腕を思わせる、草臥れた細い蔓。

 正しくは鈍色のデザインを施された鞭だ。

 伸びた魔の手の先を見やると、薄闇の中で光る目がこちらを見据えていて――


「く、そっ……!?」


 慌てて態勢を整えようと藻掻く。

 跳躍の勢いを殺されつつ、どうにか伸ばした片足が頼りない足場に掛かる。

 が、もう片方の足に絡み付いた鞭が更にうねり、引っ張り上げられたハルの体が中空へと投げ出された。


「ッ……ピータァァァ!!!」


 今にも血を吐きそうな叫びをあげて息を呑むピーター目掛け、ハルは両腕に力を込めた。

 腕の中の少女は咄嗟に体を丸め、そして力強くハルに回していた手を放す――それを合図にルシカの身体はハルの腕力によって空中に放り投げられ。


「ハルさ――お、ぉぉお、わっとぉ!!?」


 その華奢な身体を、どうにかピーターが受け止める。

 途端に冷や汗が全身から噴き出た。

 何て危ない真似の片棒を担がせるのか。

 万が一目測を誤ったり手を滑らせたりすれば――突然の暴挙に声を荒げようとするピーターの喉がひり付く。


「ッ!!」


 入り口に、男が立っていた。

 右手で鞭をしならせハルの足を戒め、左手には奇妙な四角体キューブを抱えた丸眼鏡の青年。

 初対面の時より酷薄な笑みで目を細める彼の口が開く。


「困るんですよ。このような勝手をされますとね」


 鞭を持った右手がぶれる。

 長く長く伸びてハルに絡み付く蛇のような動きで鞭がしなり、ハルの体が竜巻に弄ばれる木の葉のように吹き飛んで壁に叩き付けられた。


「ぐぁっ……ァアーーーッ!?」


 ハルの体は壁に弾かれたボールの軌道を作って、落ちた。

 底なしの奈落――落ちれば一巻の終わりとしか思えない、深い深い溝の向こうに吸い込まれ、叫び声があっという間に途切れていく。


「ハルさん……ッ!? そ、そんな……ッ!」


 手を伸ばす行為に意味はない。

 未練がましく膝を突き、絶望するピーターをせせら笑う青年は酷薄な顔で。


「『仕切りは我々で』……そう約束したではありませんか」


 青年が顎をしゃくると、その背後から機敏な動きで男たちが現れた。

 冒険団の構成員――に扮した男たち。

 彼らは手に持つ弓に一斉に矢を番えて構え、頼りない足場で孤立するピーターたちの迂闊な抵抗を縫い留める。


 一歩も動けない。

 転落したハルへと視線を向ける余裕すらない。

 絶体絶命の状況に陥った二人を嘲り、その末路を憐れむような声音で青年は優雅に一礼する。


「しかし招かれざる客人といえご挨拶を怠るは当施設管理者の名折れ。皆様には改めてご挨拶申し上げます。商会肝入りの事業『ゴブリン工場』へようこそ」


 理知的な歓迎の言葉に悪意を乗せて。

 場違いなほど穏やかな声音に敵意を含んで、悪魔が嗤う。


「わたくし、バシム・ファロウが皆様の案内人を務めさせていただきますゆえ、どうか速やかに――その後の人生を諦めて頂きますよう」


 欲深きものども――その首魁たるバシム・ファロウは丸眼鏡の奥で爛々と青い瞳を輝かせ、口端を裂けんばかりに吊りあげた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 10話に続いて11話、12話と面白さが持続しています。 読んでいて素直に楽しいです。今回はとうとう悪役登場ですけど、まだ背後に真打が控えていそうな予感がびんびんしてきます(^-^; [気に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ