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嗚呼、憧れのブラック企業

作者: maru

なろうラジオ大賞 2 への応募作品として書かれた超短編小説です。

 神都しんとハギオポリスの朝は早い。


 ここに住む人間たちの多くは、夜も明けぬうちから働き始める。下層の者たちはもちろん、すでに高い位階に進んだ聖人まで、競い合うように早起きして、仕事にいそしむのであった。「寝る間も惜しんで働く」という言い回しは、まさにこの街の人々のためにある。そしていうまでもなく、住民の約4割を占める神々は、そもそも眠りを必要としない。


 神都の女王として神々に君臨するのが、労働の女神エルガシアである。


「ハギオポリスの住民は、労働を神聖なものとあがめよ!」


 即位とともに出された布告では、驚くべきことが約束されていた。仕事のために命を落とした人間がいれば、不死の存在として蘇らせるというのだ。ハギオポリス近郊に神々のみ立ち入ることのできる紫雲の泉という禁域があり、その泉から発する霊水を飲めば、死者もただちに蘇生し、不老不死の体になる。人間たちは、心おきなく死ぬまで働くがよい――と。


 この布告は、人々の働き方を変えてしまった。やりがいのない仕事、低賃金労働、残業の多い事業所には、求職者が殺到する。無茶な仕事を押しつけ、理不尽な指示を出す者が、理想の上司としてたたえられた。


 介護の仕事も、若者に人気の職種だ。働き過ぎで倒れるという幸運に恵まれず、不覚にも定年を迎えて老後を過ごすことは、本人ばかりでなく家族にとっても、不名誉なことだろう。老人ホームに勤める若者は、老人たちを前に慰めの言葉も見つからない。ただ自分だけはこんな人生を送るまい、と決意を新たにするのだった。


 他方、給料がよく福利厚生のよい職場――その多くは外国企業であった――は、人手不足に陥りがちだ。収入の安定した働き手は、無理してあくせく働こうとしない。労働者の待遇を改善しようなどとする経営者は、不見識を非難されるのが常だった。


 ハギオポリスのエリートたちが最もブラックな企業への採用を夢見ることはいうまでもない――神都庁直轄の公営企業ハギアスマである。なにしろ上司たちは、みな文字どおり不眠不休で働く神々だ。


 だが、今年の入社式に出席した女王エルガシアの表情は曇っている。先日、紫雲の泉が間もなく涸渇こかつするという神都庁の報告を耳にしたばかりだった。


「そろそろ潮時かもしれんな」と、女神は一人つぶやいた。「人間たちは楽なものだ。面倒は神々にまかせて文句ばかり並べ、いざとなれば死ねばよいのだから」

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小説『異世界でハーレム作るつもりだったのにゴーレム作ることになった』も連載しています。あわせてよろしくお願いします!

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