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 佐郷が目を覚ますと、部屋の入り口にいたメルティと目が合った。

 後ろ手に扉を閉めているところで、ちょうど外から帰ってきたというような(てい)だ。


「あっ、起こしちゃいました?」


 メルティは上機嫌そうに頬を緩ませている。昨夜のような悪戯っぽさはなく、実に爽やかな笑顔だった。


「いえ。十分に眠ったと思います。もう外は明るいのですか」

「今は、お昼ちょっと前くらいですね!」

「む……ずいぶん長く寝てしまった」


 寝起きには自信があったのだが。

 久々にまともな睡眠環境だったせいか、爆睡してしまったようだ。

 おかげで身体がすこぶる軽い。


「昨夜は、はしゃぎ過ぎてすみませんでした! えっと……これをどうぞ! お詫びといいますか、なんといいますか……ハルアキさんに合うと良いのですが」


 メルティは手にもっていた、可愛らしいリボンのついたプレゼントボックスを手渡してきた。


「おや。開けても?」

「はい! 開けてみてください」


 上部のリボンを引っ張ると箱が四方に開いて、その中身が現れる。


「これは……!」


 黄と黒から構成された、虎のような色をしたハーフパンツだった。腰回りにはライオンのたてがみのようなファーが付いている。


「魔人ライガーをイメージした、いま流行りのパンツですっ! ……純正品ではないですが」

「これを頂けるのですか?」

「はい! ハルアキさん、ずっと寒そうな格好をしていたので……。あっ、嫌じゃなければ、ですけど……」


 それが純正品ではないにしろ、しっかりと作り込まれているのが分かる。よく織りこまれた布は簡単には破けそうにはないし、ファーの触り心地も素晴らしい。

 ――しかし。


「気持ちはありがたいのですが」

「受け取って、もらえませんか……?」


 なけなしの報酬をいくら使ったかは分からないが、今のメルティには間違いなく高級品だ。得た金は自分のために使って欲しい。

 ここはひとつ、買い取らせてもらおう。


「メルティ。このパンツの値段は――」

「こらハルアキ!」


 佐郷が値段を聞こうとした瞬間、部屋のランプに灯りが入った。そのすぐ側で、むすっとしたチアシードが仁王立ちしていた。


「起きていたのですか」

「いやでも目が醒めるわよ。というか、なんでハルアキは素直に好意を受け取らないの? それで相手がどんな気持ちになるか分かってる?」


 まくし立てるチアシードと、視線を落として不安そうにしているメルティを見て、佐郷はハッとした。

 メルティは自分の金で、自分のやりたい事をやったまでではないか。その結果が、この素晴らしいプレゼントなのだ。

 自立するために(ほどこ)しを受けたくないという気持ちが根底にあったせいで、大変な失敗をするところだった。


「申し訳ないっ!」


 膝をついて、全力で頭を下げる。

 バランスだとか良好な関係をだとか考えておきながら、実のところ自分本位になっていた。未熟だと思った。


「ちょっ……それは大袈裟じゃない? メルティほら。謝ってるわよ。許してあげて」

「えっ、許すも何も、私は……貰ってくれるなら、それで」


 佐郷はパンツを抱きしめて立ち上がると、もう一度頭を下げた。


「メルティ。この贈り物は心から嬉しく思います。ありがとう」

「よかったです……」

「それから、チアシード。大切な事に気付かせてくれてありがとう」


 メルティはほっと息を吐いて、笑顔になった。

 しかし、チアシードは苦虫を噛み潰した顔で不満を表している。


「あのね……ハルアキは真面目すぎると思うの。バランス取ろうとしてるのは分かるんだけど、逆にモヤモヤするというか……」

「良くない、でしょうか」


 チアシードは一見とぼけたところがあるが、よく勘が働く。

 バランスというのは、三人パーティになってから佐郷が特に意識していることだった。


「良くない。ハルアキはリーダーなんだから、俺に付いてこい! くらいの気概が無いといけないわ。バランスなんていうのは、私とメルティで取ればいいの」

「なるほど」


 一理あると思った。三人の問題を一人で管理しようなどという事自体がパーティを軽視している証拠だ。それぞれが役目と責任を負って仕事を始めるから結束が深まるのだ。

 ……しかし、リーダーシップと言われても具体的にどうすれば良いのか分からない。


「具体案を出すわね」

「はい」


 今日のチアシードは冴えている。


「――今後ハルアキは敬語禁止! 自分のことも『私』じゃなくて『俺』と呼ぶように!」

「ええ……」


 前世からこの口調でやってきたのだ。自分のアイデンティティの一つとさえ思っている。今さら変えるのは勘弁してもらいたい。


「森でオークと戦ってる時とか、実際荒々しい口調になってたの自分で気付いてない? きっとあれがハルアキの素なのよ。マッチョタイプなの。メルティはどう思う?」

「はい。敬語はあんまり似合ってないです」


 なんとなく、メルティからは言外の圧を感じた。


「了解し……た。努力しま……する」

「しまする?」

「まあ、先は長いわね……でも、その調子よ。さあリーダー、今日の予定は?」


 二人から期待されているような視線を感じる。なるほど、悪くないと思った。


「うむ。では装備品の調達と、ギルドで新しい依頼を……受けるぞォ! いいなっ? チアシード、メルティ!」

「りょ、了解……ふふ」「あはははっ頑張りすぎ!」


 いたって真面目に発言したのだが、笑われてしまった。


「何がおかしい? 言ってみろ」

「急に不自然すぎるって! あはははは」

「何が不自然だ? 言ってみろ」


 しばらく悪ノリを続けていたら、チアシードに蹴られた。

 少しは真面目すぎる印象も和らいでくれただろうか。




メルティ「あのー」


防具屋「ラッシャッセー!!」クワッ


メルティ「ひっ……えっと、男性向けのボトムを」


防具屋「おっ! 彼氏にプレゼントかい!?」


防具屋「色々あるよ!」ドサァ


メルティ「そんなんじゃないです! けど……」


メルティ「どれが良いのでしょう。むう」


防具屋「下だけじゃあねえ。どんな上と合わせる予定なんだい?」


メルティ「えと……彼、上は裸なのです」


防具屋「なんだって? 特殊なジョブの人なのかな?」


メルティ「まあ、ある意味特別な人です」


防具屋「そうさねぇ……あっ、このパンツはどうだい!」


メルティ「魔人ライガー! 懐かしいですね」


防具屋「ファンが多いよね! うちの娘も彼の試合を観に行く事があるよ」


メルティ「彼は人気者なんですね。それのお値段は?」スッ


防具屋「おや可愛いガマ口だねぇ! でもお嬢ちゃんに買えるかな? 3000Gだよ」


メルティ「帰ります」


防具屋「まってまって! じゃあこっちの贋作はどうかな?」


メルティ「贋作を堂々と売りつけようとしないでください!」


防具屋「いやいやこれがまた同じくらい良い出来なんだよ。しかも安い。300Gポッキリ!」


メルティ「うぅ……それでも高い」パチン、ジャラジャラ


防具屋「ひいふうみい……えっ、予算120G!?」


メルティ「貧困に喘いでいます……」


防具屋「ううーん。えい乗りかかった船もとい釣りかかったタイだ! 120Gで売りましょ!」


メルティ「いいんですか!?」


防具屋「防具屋に二言はないよ。その代わり、彼氏さんと上手くやってくれよな!」


メルティ「は……はいっ! ありがとうございました!」


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