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 佐郷は朝食を済ませたあと、再び冒険者ギルドへと足を運んだ。


 午前中のギルドホールは昨夜のような喧騒はなく、もの静かな印象を受ける。人が全くいないわけではない。装備品や地図を広げたり、抑揚を抑えたトーンで会話をしていたりと、みな真剣な顔つきで、これから仕事に取り掛かる準備を行なっている。


「これからどうするの? ハルアキ」

「まずは『人間』になるための仕事を探します」

「その表現、気に入ったのね」


 まだ森から出てきたばかりの獣と変わらない。お金も信用も無い状態だ。しばらくは仕事をこなして『人間』であることを認めてもらう必要があるだろう。具体的には、馬小屋の世話にならない程度に稼ぐ必要がある。


 佐郷は短い順番を待って受付へと進んだ。


「あら、昨日ぶりですね〜。初めての馬小屋はどうでした? 誰でも最初はFランク。またの名を『馬』ランクと呼ばれているんですよ〜」


 受付嬢はこちらの苦労を知った上で嬉しそうに言う。あまりいい性格とは言えないようだ。


「何か仕事はありますか」

「ペアでこなす依頼ってあんまり無いんですよね〜。特に初心者は三人でパーティを作っておくのをオススメしますよ〜」


 佐郷とチアシードの他にもう一人必要だと受付嬢は言う。


「ふむ」


 佐郷はギルドホールを見回した。

 ほとんどの冒険者が三人、ないしはそれ以上のグループで固まっている。


「そんなあなた達に〜……なんと! ちょうどパーティを探している魔法使い志望の子がいるのです! しかもお二人と同じ新人さん。会ってみませんか?」


 あらかじめ、この方向に持って来るつもりだったかのような手際の良さで話を進める受付嬢。少し不安だったが、会ってみることにした。


「どんな人が来るかな?」

「魔法使いということらしいですが」


 カウンターから少し離れた待合用の席で、魔法使いの到着を待った。

 テーブルにはたくわんの入った小皿が置かれているが、お金が無いので手をつけるわけにはいかない。視線でチアシードを威嚇しながら、待つこと数分。


 受付の方から、真っ直ぐにこちらに向かってくる小柄な人がいた。

 つば広で長い頭頂部の先端が尖った……いわゆる『魔女帽』をかぶって目元が隠れているが、口元は不敵に笑っているように見える。


「我こそは偉大なる魔法使い!」


 魔女帽の少女は駆け足気味でこちらに駆け寄ると、両手を広げてポーズを取った。


「我こそは偉大なる破壊魔法の使い手!」

「(あ、言い直した)」

「(自己紹介かと思われます。待ちましょう)」


 とても威勢の良い、もとい声の大きな自己紹介が始まっていた。ギルドホール中に響き渡るレベルなので、視線が集まっている。


「この右手には怒りの炎。この左手には憎しみの氷。そして、この封印されし右目には闇の…………炎!」

「(炎がかぶってるけど)」

「(指摘はしないであげましょう)」


 魔法使いは勢いよく帽子を脱ぐと、その右目は眼帯……ではなく、包帯で隠されていた。ケガ人の風貌である。

 しかし、艶やかな黒髪とルビーのような紅い瞳は見覚えのあるものだった。


「――紅蓮の魔法使い。メルティ・ガナッシュタルト。ここに見参!」


 周囲から少しの拍手と「今度はハブられないよう頑張れよー」というヤジが飛ぶと、メルティはポーズをとったまま涙目になった。やはり表情豊かだ。


「ぐぬぬぬ……」

「こんにちは、メルティ。昨日ぶりです」


 少女メルティは少しの間、ぽかんとした顔で疑問符を頭の上に浮かべていたが、徐々に目がまん丸に見開かれていった。


「あ、ああー! あなたはあの時の野生児! ということは、そこにいるのは……めがモゴッ」


 チアシードのフードから覗く目がキラリと光ったかと思うと、メルティの口にたくわんが放り込まれていた。ハヤワザ。


「んぐ……んぐ……ごくっ……何をするんですか!」

「……メルティは採用ね」


 チアシードの言わんとしている事は分かった。メルティをこのままにしておくと、女神がここにいる事を口外される危険があるからだ。


「はい。よろしくお願いします、メルティ」

「えっ? 本当ですか? やったー!」


 メルティはホッとしたのか、たくわんを追加で一枚食べてから、とつとつと語り出した。


「あの後、私はこの冒険者ギルドにたどり着きました。お金が無いのでさっそくパーティを組もうと思ったのですが、ことごとく断られ続けて……それで、結局ひとりで魔物退治に出たのですが、この通りです。あたまをかじられました」


 メルティは頭の包帯を指差して、うなだれた。もしかしたら奴隷になっていた時よりも苦労しているのかもしれない。そう考えると、やはりパーティを組んでおくのが正解という気がしてくる。


「でも、あなたたちが来てくれました! ともに頑張りましょう! 今受けているクエストはありますか?」

「まだです。あと、こちらの女性は遊び人のシードルです。詳しい自己紹介は後ほど」

「んん? 人違い? まあ、了解しました。とりあえずクエストを受けましょう!」


 受付でパーティの登録を行った後、スライム討伐の依頼を受けた。


「初心者にはもってこいのクエストです。スライムコアはギルドで買い取るので、やっつけた分だけ報酬が美味しくなりますよ〜」

「スライムはどこに生息していますか?」


 森で遭遇したことはあるが、あそこまで戻るのは危険だろう。女神を捜索している騎士たちに遭遇する可能性がある。


「地下水路ですね〜。あそこはスライムが増えると悪いことばかりなので、常に討伐対象に選ばれている不憫なモンスターです〜」


 受付嬢から地下水路に行くまでの簡単な地図を受け取ると、さっそく出発する事にした。


チアシード「あの……」


受付嬢「あら、シードルさん。忘れ物ですか〜?」


チアシード「いや……冒険者カードの更新をしたくて……」


受付嬢「職業適性検査のやり直しですね〜?」


チアシード「そう! 遊び人は嫌なの!」


受付嬢「良いですよ〜。でも、その前に……」


チアシード「?」


受付嬢「しょ、証明写真も……撮り直しになりますけど……またあの変顔……ブフォッ……やるんですか? ブホホッ」


チアシード「」

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