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ゲオルグ・アスフォルダ

ゲオルグ視点での過去話です


 ゲオルグ・アスフォルダはアスフォルダの第二王子ではありながら、政務は兄に任せ瘴気による被害を抑えるために日々魔物を討伐していた。

 討伐隊の隊長として剣を振るう日々。魔物被害により困窮する町村の復興も行うことから、民に絶大な人気を誇っていた。

 政務も疎かにしているわけではなかった。王都にいれば政務官に助言をすることもある。けれど口を大きく挟むような真似はしない。

 それは、兄であるガイルの権威に影響を及ぼすと理解しているからだった。


 ゲオルグは王位に一切の関心を持たなかった。長兄である兄が王になれば良い。兄が難しいというのであれば下にはまだ弟が二人、妹も二人いる。誰が王位を得ても自身は補助する立場でありたいと考えていた。

 机にかじりついているよりも、外で剣を振るう方が性に合っている。

 けれどゲオルグを王にと呼ぶ家臣もいる。

 王都に居ては余計に声が高まる可能性もある。ならば外に出て魔物を討伐し、被害を抑えようと数年前から外に出ていた。

 しかし瘴気は一向に回復しない。魔物の討伐する数も増える。次第に民はゲオルグに信頼を置くようになる。


 昨今、兄に会うと睨まれるようになった。

 悲しいことに兄であるガイルは王位に固執する上に、弟に対し劣等感を抱いていることをゲオルグは知っていた。自分さえいなければ良き王として前を見据えられていただろうに。しかし王たる立場になりたいのであれば、自分のような人間に目を向けている暇も無いと、兄に理解して欲しかった。


 そんな頃、兄が聖女を召喚すると報せが届いた。

 父たる王が、自身の退位について瘴気を解決した者に譲ると言ったからだ。

 そして、王家総出で聖女を迎えるために国に戻れという召集通知でもあった。


「やれやれ。ようやく国も落ち着くかな」


 ゲオルグとて、王位に興味は無かったが瘴気の根源を絶つために色々考えはしていたが、聖女召喚が決まるとなればそれで全て解決して欲しかった。

 聖女召喚が行われたのは数百年も前となる。今回成功するかも分からない博打に、ゲオルグも賭けてみようと思った。




「ユベル、ユーナ。久し振りだな」

「兄様!」

「兄様!」


 ゲオルグが帰国すると、まずは末弟と末妹の双子に会いに行った。まだ十五の双子は、兄の姿を見かけると喜んで飛びついてきた。


「もう! 帰ってくるのが遅いです!」

「そうですよ! いくら魔物討伐が忙しいとは言っても、少しはお戻りください!」

「すまない。だがほら、こうして無事に帰ってきたんだ。まずはお前達の顔をゆっくり見せてくれ」


 ユベルとユーナの顔を見つめる。ユーナは少しだけ涙を滲ませている。小さい頃は瓜二つだった二人だが性別の違いもあり、見ない間に随分違いが出てきた。

 それでも二人とも父譲りの茶色い瞳と黒髪は同じだった。


「セイランとリースはどうしている?」


 セイランは第三王子、リースは第一王女である弟と妹のことだ。


「セイラン兄様は財務官にお勤めしていて中々お会いできていないです。リース姉様は、今日は母様とお茶会に行かれています」

「セイランは財務官に行ったのか。あいつに合っている仕事場だな」


 第三王子のセイランは今年二十歳になり、正式に王国内で士官することが決められていた。几帳面な性格から、適任だと思った。


「兄様も姉様も、ゲオルグ兄様のお帰りを心待ちにしておりました」

「そうか。すまなかったな。今から共に挨拶に向かうか」

「はい!」

 十五になっても甘えた様子の双子に苦笑しつつ、ゲオルグは王城内に向かった。




「聖女召喚でもしないと兄様は戻ってこないんですね」

「相変わらず辛辣だなぁセイランは」


 財務官の執務室に入ったゲオルグを見かけたセイランによる第一声がそれだった。

 一瞥してからすぐに視線を書類に戻す。

「魔物討伐は素晴らしいと思いますが、兄様は次期王位継承者の一人であることをお忘れのようですので」

「それはお前も一緒だろう」

「生憎、私は辞退しました」

「何だと。ずるいじゃないか」

「早い者勝ちです」


 してやったりと笑うセイランに、ゲオルグは深く溜息を吐いた。


「これで王位継承は、ガイル兄様とゲオルグ兄様ですね」

「面倒ごとを押し付けてくれる」

「城を離れた罰です」


 そう言われると反論も出来ず、ゲオルグは執務室に置いてあるソファに座った。


「兄上の様子はどうだ?」

「息巻いてますよ。聖女召喚を一縷の望みとしています。

成功させた暁には王位を譲ってもらうと王に言質を取っておりましたから」

「そうか。それなら是が非にでも聖女を召喚して頂かなくてはな」

「……兄様は王になりたくないのですか?」

「ああ。俺は王に相応しくない。なりたい者がなればいい」


 ゲオルグは、弟のセイランが自身を王にさせたいということを知っている。しかし首を縦には振らない。


「……召喚の儀は三日後です。どうぞそれまでは大人しくお過ごしください」


 セイランは言いたい言葉を飲み込み、当たり障りないことを伝えた。セイランとて長兄ガイルの心情を理解していた。だからこそ、敢えて何も言わなかった。




 そして聖女召喚の儀が行われる日。

 ゲオルグは大きな出会いを果たすことになる。



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