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第二王子 ゲオルグ

やっとヒーロー登場です…

「出足挫くようなことを言うけれど、聖女様には簡単にお会いできないよ」


 師匠が申し訳なさそうに告げた。


「今のナナヨ様は次期正妃候補とも言える方。更には聖女でもあるから警護が固い。お会いするには手順を踏まないといけないんだ」

「手順……」

「まず嘆願書を、聖女に関する全てを統括する特使団に提出する。それを受け取った特使団が内容を確認し、承認を得られれば一度特使団との面談が行われる。そこで詳細を説明。その詳細を特使団が取り纏めた上で国王となられたガイル様が読まれる。そうしてやっと聖女に内容が伝わるんだ」


 長い。

 一体それまでにどれほどの時間を費やすのだろう。


「まだあるよ。聖女がその内容を読んで承諾してようやく謁見できる時間をもらえる。もし、そこで聖女が否といえば」

「お会いすることはできない……?」

「その通り。私達魔導師団も嘆願書に瘴気の問題を訴えたけれど聖女から許可が降りなかった。理由は『怖いから』だそうだ」


 私が考える以上に、聖女は遠くにいるらしい。召喚した時は、あと少し手を伸ばせば触れられる距離にいた少女。


「私達も困っていたところだ。瘴気は悪化を辿る。瘴気付近にあった町は避難を余儀なくされ、流民が発生する。救済処置を取っているが数が増えれば国の負担も重く、農作物が枯れ果てる。次に起きるのは食糧難だ」

「どうすればすぐにお会いできるのでしょうか……」

「魔導師団で出た案は二つ。一つは、君だ」


 私?

 思わず首を傾げる。


「君は、唯一聖女と繋がりがある。召喚した者とされた者。まだ召喚されたばかりだったナナヨ様からも聞かれたことがあるんだ。自分を召喚した人は誰なのか、と」

「もし私が嘆願書を出せば」

「通る可能性が高いということ」


 確かに、私が目覚めて会いたいと伝えれば、師匠達の要望よりも通るかもしれない。

 けれど、ナナヨ様が私を気にかける理由は想像できる。

 きっと、帰る方法を教えて貰いたいのだろう。

 今の私には帰す方法は分からない。喚び出す方法だけを必死になって探していた。帰る方法も或いはあるのかもしれないけれど、それには更に時間が掛かることだろう。


「もしかして、帰る条件に瘴気の事を伝えると?」

「それが今考えられる方法の中で一番有力だろうね。聖女の帰還方法に関しては私達も調べていたけれど、残念なことに資料が足りない」

「ガイル様にご助力頂けないのですか?」


 召喚する時は即座に対応し、古い書物であろうとも探し出す強力をしてくれた当時の第一王子を思い出す。

 師匠は苦笑した。


「権力の象徴である聖女を還すつもりはなさそうだよ」


 ああ。

 師匠は既に嘆願し、そして断られているのだ。


「……もう一つの案は何?」


 師匠は私の他にもう一つ案があると言っていた。


「もう一つについては……」

「?」


 何故か師匠は私を見て、ニッコリと微笑んだ。


「これから会いに行こうか」




 王城の長い廊下を師匠と並んで歩く。

 王国の魔導師団で働いているけれど、実は王城の中を歩くことは滅多になかったので、私は広い廊下を緊張しながら歩いていた。


「ねえ、何処に行くの? 何か凄く落ち着かない……」

「あとちょっと」


 何故か分からないけど機嫌が良くなっている師匠に引っ付くようにして歩いていく。

 これではぐれたら私は帰れる気がしない。

 どうしてこんなに広いんだろう。あと、装飾品が豪華そうで全然落ち着けない。


 廊下を抜けると、庭園に出た。

 王城内にこんな庭園があったんだ。

 私の知る庭園は、もっと来客に向けて華やかな花や石像が飾られている場所だったけれど、今見えている庭園は全く趣向が違う。

 自然をより美しく見せる景観。人の手を最低限に加え、木々や草花の力を使った楽園のような場所。

 辺りに咲いている花も見栄えが華やかな花ではなく、小さな花だったり薬草だったりしている。


「素敵な場所。自然の力に満ち溢れてる」

「そうだろう? ああ、あそこにいた」


 師匠が指差した先には庭園の中では珍しい馬小屋があった。

 何故こんなところに馬小屋が? とは思ったけれど、一頭のためだけに用意された馬小屋から、ここが身分高い方の離宮のような場所なのだと理解した。


 馬小屋の中では、一頭の黒馬の手入れをしている男性がいた。丹精な身体つきは騎士らしい。馬に対話をしながら毛並みをブラシで整えている姿は、とても惹かれるものがあった。

 顔立ちも男らしく整っていた。黒髪に、近づいてみれば黒い瞳が見える。共にいる黒馬とお揃いだ、なんて考えてしまう。


 ふと、男性が顔をあげた。

 黒い瞳と私は目があった。

 すると男性は穏やかな笑みを浮かべながら、こちらに向けて歩き出した。


「アーリア」


 え?

 どうして私の名前を知っているのだろう。


「元気そうで良かった。体調はどうだ? どこか痛むようなところはないか?」

「あの、え……え……?」


 まるで旧知の仲であるように、男性が私の両肩を掴んだ。大きな掌。包まれるような勢いに、私はいっきに顔が赤くなった。

 だって、こんなに整った顔の男性と間近に話す機会なんて無かったから。


「どうした? やっぱりまだ本調子じゃないのか。せめてもう少し休んだ方が良いんじゃないか?」

 

 男性が師匠に向けて声を掛ける。


「彼女の体調は確認済みですよ。それよりも、アーリアは貴方に驚いているんです。彼女にとって貴方は初対面なんですから」

「そうか。そういえばそうだったな」


 納得した様子で男性がもう一度私を見つめる。

 その見つめる瞳が優しさに満ち溢れていて。

 私は見つめられるだけで恥ずかしさで俯きたくなる。けれど掴まれた肩の力強さと、その瞳の力強さに目が離せなかった。


「お前が目覚めたらとずっと考えていたが、いざ目の当たりにすると何から話せばいいか分からないな」


 困ったように笑う姿に少しだけ愛嬌が浮かぶ。

 体格や顔つきから騎士なのかと思うけれど、一介の騎士であれば師匠は敬語なんて使わない。


「あの……失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 私は思い切って名前を聞いてみることにした。

 男性は不快な顔は全くせず、更に顔を近づけて笑った。


「突然話しかけてすまなかった。俺はゲオルグ。ゲオルグ・アスフォルダという」


 ゲオルグ・アスフォルダという名前に。

 私は固まった。


 その名前は聞いたことがある。

 アスフォルダ王国で知らない者はいない。

 王子という身分でありながら、前線で戦う勇士。近隣で魔物が現れては自ら出向き討伐することから民に親しまれる第二王子。


 まさか、その第二王子がこの方だなんて。


 それにしても、どうして私の名前を知っていたんだろう?


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