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聖女の決断

 真実を理解しても、自分の振る舞いや行いを元に戻すことは出来ない。

 ガイル王が真実を知ってその場に崩れ落ちても、ナナヨ様がただひたすら涙を流されても。

 私にも、ゲオルグ様にもどうすることも出来ない。

 けれど、この先に待ち受けているだろう問題を回避することは、出来る。


「ナナヨ…………いつから……知っていたんだ?」


 押し殺したような、ガイル王の声。か細いまでの訴えに、涙を拭わずにナナヨ様は俯いた。


「ガイル様と結ばれてから…………暫くして、魔導師の方を呼んで頂いた時です。前には感じていた魔力というものが、全然分からなくなっていました……原因がどうしても分からなくて、とにかく魔導師の方に魔力が減る原因を色々教えて頂いた中に、契りを交わすと消える魔力もあるという話を聞きました」


 一息に話してから、少しだけ落ち着きを取り戻し、ナナヨ様が顔をあげられた。


「身に覚えがあるとしたらそれしかなくて。もし、ガイル様やみんなに私が聖女じゃなくなったって知られたらと……怖くて……」

「ナナヨ……」

「ごめんなさい、ガイル様…………そして、アーリアさん……」


 突然名前を呼ばれたので驚いてしまった。

 ナナヨ様は、以前お会いした時のような冷たい雰囲気は既に無く、今目の前にいるのは、年齢よりも少し幼い女性だった。


「ひどいことをしてしまいました……ごめんなさい……!」

「ナナヨ様」

「怖かった! 私を呼んだのだから、聖女じゃないってわかったら元の世界に戻されると思ったの……私はもう、あの世界には戻りたくない……! ガイル様がいない世界になんて戻りたくないっ!」

「…………」


 私は何も言えなかった。

 戻さない、なんて約束はできない。

 何故なら私は今、彼女が望まない事を成すためにここまで来ていた。

 

「まさか……お願い! どうか戻さないで!」

「ナナヨ」

「お願いします!」


 ナナヨ様が私の考えを読んだかのように、慌てて縋り付いてきた。必死な形相で帰りたくないと叫ぶ。

 けれどもう、事態は大分良くない方向に向かっている。

 続く瘴気、動かない聖女に対し、国内の不満も大きい。

 その状態で、ナナヨ様に聖女としての力が失われたこと、そして失った原因がガイル王だと知られれば更に混乱を招くし、アスフォルダ国にとって悪影響であることは絶対だ。

 その事を予想できたのか、ガイル王の表情も固まっていた。彼こそ言葉にはしないものの、ナナヨ様の聖女としての力を望んでいたのだから。


「アーリアから離れてくれ」


 しがみついていたナナヨ様から私を引き離すために、ゲオルグ様が私を抱き上げた。


「アーリアは私利私欲や復讐のためにお前を戻しにきたのではないと、何故分からない」

「え……」

「この先、お前がここに居ても待っているのは死だとしても、お前はここに残るのか?」


 ゲオルグ様の言葉にナナヨ様が震えた。そして、本当なのかと確認するように私を見た。

 私は躊躇したものの、小さく頷いた。


「私が…………殺される、の?」

「聖女の名を騙ったとして罪に問われることになるだろうな。お前が召喚されてから一年以上もの間に費やした資金は全て民からの税だ。彼らにしてみれば、己の財産を奪われたと思われても可笑しくないだろう? お前には常に事態を伝えていた。突然の召喚で被害に遭ったことは申し訳ないと思う。だからこそアーリアは還すための努力をしてきた。だが、その結果、お前は彼女を追放したという。その事実を世間が知ればどうなるか、想像できないか?」


 怒りを抑えたゲオルグ様の言葉は、ナナヨ様に鋭利に突き刺さる。

 少しばかり言い過ぎなのではと思って、抱き上げられながらもゲオルグ様の服を軽く引っ張り注意してみるも、彼は一向に変わらなかった。それどころかより強く抱き締められてしまった。


「……お前の実態を知った時、次に被害に遭うのは兄であることも分からないか?」


 その言葉が、ナナヨ様にとって一番傷ついた言葉だったのかもしれない。

 今まで悲痛な表情で訴えていたナナヨ様の御顔が静まり、そっとガイル王を見た。

 そうして、しばらく見つめ合い。

 穏やかに微笑んだ。


「分かりました……」


 還りますと、小さな声で呟いた。


 

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