真実を辿ってみれば
少し短めですがキリが良いところで切ってみました。
ナナヨ様は聖女ではない。
そう、告げた時に分かれた反応を見て、私はやっぱりと思った。
驚愕し、信じられないといった様子のガイル王に、真実を暴かれたことにより顔を蒼白にされたナナヨ様を見て、ナナヨ様は分かっていたけれども王には伝えていなかったのだということを。
「な……何を言うんだ、お前は……不敬だぞ……? ナナヨが聖女ではないなどと!」
みるみると怒りを露わにしたガイル王が私に向かい怒鳴った。手さえも出そうとする雰囲気を前に、ゲオルグ様が私の前に立ち塞がって下さった。
庇ってくれたことに、こんな緊迫した状況だというのにときめいてしまう。
気持ちを切り替えて、私はもう一度ナナヨ様を見た。
「ナナヨ様」
彼女の体が恐怖で震えた。つい先日、私を追放しようとした冷血な姿が今は見られない。
彼女はまだ幼い。だからこそ自身の保身にしか目が届かない。邪魔なものは排除すれば済むと、単純な考えで私を遠くに放っただけで、その先まではきっと考えていない。
私が追放された先で死のうとも、彼女はきっと分からなかっただろう。
無垢でいて残酷な聖女。
「貴方はもう、ご自身が聖女ではないことをご存じだったのですよね。召喚した私がその事に気付くかもしれないことも、私に召喚されたのだから、還されることにも怯えていた……だから私を、追放したのでしょう?」
「私…………私は……」
ガタガタと見ているだけで震えていることが分かる。
目尻に溜まる涙。ガイル王にしがみ付いていた手を離し、体を守るように己を抱き締めた。
「怖かった……聖女じゃないってバレたらもう……ガイル様にも愛してもらえないって……!」
「ナナヨ……!」
「ごめんなさい……っごめんなさい、ガイル様……」
偽っていた事実を、心の内を明かしたナナヨ様はその場で泣き出した。目の前で立っていたガイル王を見た。真実に驚愕し、目の前の女性にどう言葉を投げかければよいのか分からない様子だった。
ガイル王は確かにナナヨ様をお慕いしていた。それと同時に、彼女が聖女であるからこそ、自身の王位を確固たるものにしていたのだから。王の権威を失いかねない真実は、彼に相当の衝撃を与えたのだろう。
「…………ナナヨ……どうして……」
膝を突き、そっとナナヨ様を抱き締められた。その姿は本当に彼女を慈しむ様子が窺えた。
それから鋭く私を睨んだ。
「何故ナナヨは聖女の力を失ったというのだ! それに何故お前にその事が分かる!」
「…………歴代の聖女が訪れる神殿に記録がございました。聖女は、その…………」
言葉にするには言いづらいんですけど。
それでも、しっかりと伝える必要があるため、一呼吸してから口を開いた。
「一度でも契りを交わしてしまうと、聖魔法の力は潰えてしまうようです……」
きょとん、としたガイル王の顔。
あ、ちょっとゲオルグ様に似ている。
その御顔がみるみると、真っ青に染まっていった。
身に覚えがあるらしい。
「そ、そ……んな…………」
「…………兄上」
ようやく発したゲオルグ様の呆れたお声。
「知らなかった! そのような文献が国には残されていなかったぞ…!? 真実なのか?」
「はい。私も初めて知りましたが、古くからの神殿を探索した結果、その記述を見つけました。後日、魔導師団が調査に入り報告書にまとめさせて頂きます」
ガイル王は口をパクパクと、何も言えず空気だけを発しているような様子で私とゲオルグ様を、そしてナナヨ様を見た。
そして。
「全て、俺のせいではないか…………」
突き付けられた事実に、彼はその場に崩れ落ちた。




