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帰路への道

あと5話前後で終わらせる予定です!

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


 まさか、と思った。

 ゲオルグ様の姿が目に映った時は、その声を聴いた時はついに自分も頭がおかしくなったのだろうと思ったぐらいだった。

 でも、こうして私を抱き締めてくれている温もりも鼓動も全部本物で。

 彼の呼吸すら聞こえるぐらいの近距離に感じて、私はようやく今抱き締め合っているゲオルグ様が本物なんだと実感した。


 抱き締め合って……抱き締め……


 ちょっと待って。

 私、何日体を洗っていなかったっけ。


「ゲ、ゲオルグ様っ離れて頂けませんか……?」

「……………………何故?」


 大分経ってから返事があった。けど、まだ抱擁は止まらない。


「私、もう何日もお風呂に入っていなくて」

「気にならない」


 ゲオルグ様が気にならなくても、私が気になるんです!

 ようやくお会いできた喜びは相当なんだけれども、お慕い……している相手には自分の臭い匂いなんて嗅いでほしくないわけで。


 本気で抵抗しているだろう私の気配に気づき、深々と溜息を吐いたゲオルグ様が私を離した。手は肩に置いたままだけれど。


「あのな、こちらは死ぬ気でお前を探していたんだぞ?」

「はい…………」

「…………っふ。変わりなくて安心した。本当に無事で良かった」


 ああ。

 いつも見ていたゲオルグ様の笑顔だ。

 朗らかで温かくて、愛おしくて。

 私はまた泣きたくなったけれど、グッと堪えた。


「あの花火はお前だろう?」

「はい。気付いて頂けたのですね!」


 結構な距離だったため、届くかどうか不安だった。それに、気付いたとしてもこんなに早く来てくれるなんて思いもしなかった。


「見た時からアーリアだと思ったが、念のためエストラにも確認させた。あれがお前の術だと分かりすぐに駆け付けた。後に魔導師団の者も来るだろう。それよりもお前の事を聞かせてほしい」

「はい」


 私はナナヨ様と謁見してから今までのことを全てお話した。

 この地で過ごす中で見つけた神殿のことも。その、聖女となる力のことも。

 ゲオルグ様は聞いている間、とても驚いた顔をなさっていた。どうやら王族でも知らない話だったらしい。


「聖女の文献は少ないため、ここに残される遺跡の話も知らなかった。この件は落ち着き次第エストラと調べ上げた方が良さそうだな」

「そうですね。今回のように、召喚しなくても瘴気を解消できる方法があるのかもしれませんし」


 召喚するよりもよっぽどスムーズに解決できるかもしれない。

 ふと、ゲオルグ様の視線が私に向かう。


「ゲオルグ様?」

「お前は瘴気を消滅する力を得たのか?」

「え? あ、そうか。そうですよね」


 浄化する力を得たのだから、私にもできるはず。


「実際に試してみないと分かりませんが、恐らく出来ると思います」

「……まさか本当に聖女になるとは」


 私の答えを聞いてゲオルグ様が苦笑した。

 

「俺だけの聖女だと思ってたんだがなぁ」


 汚れているだろう私の髪を優しく指に絡めつつ、そう仰った。流れるようなスキンシップに、私は顔を赤くするしか返せない。

 

 それからゲオルグ様が乗っていらした黒馬に乗って帰路に就いた。やっぱり密着するしかないことに抵抗を感じていた私を配慮してか、ゲオルグ様は何も言わずに私に外套を頭にまで被せ、包み込むようにして私を前に乗せた。「寒くなるから」とだけ告げて。


 この自然な優しさに惹かれない人がいるのだろうか。

 そんな方に好きだと言われた私は。

 多分、誰よりも幸せ者だ。





「本当だ。君、聖女になってるね」


 道の途中で合流した魔導師団の馬車に乗っていた師匠と再会し、私は馬車に乗せてもらい休ませてもらっていた。一緒に乗った師匠に私の魔力を見てもらっての一言がこれだった。


「浄化できるほどに聖魔法が強まってる。いや、凄いな。事が落ち着いたらその神殿とやらに行かなくては」

「そうですね。あと、考古学者も呼んだ方が良いと思います。古の文字で記されている碑文もありましたし」


 師匠と再会をした時は、ゲオルグ様と同じで抱き締められた。やっと再会できた家族の温もりが嬉しかったけど、ふと視線を感じて見上げた先では不機嫌そうなゲオルグ様がいたので私は慌てて体を離した。

 事情を読み取った師匠は笑っていた。


「いやー逞しいとは思っていたけれど、よく森の中で生きていけたね」

「魔導師じゃないと生きてなかったかもしれないです……」


 聖魔法の話の後に出てきたのはどうやって私が生き延びていたのか、ということだったけれど。

 その経緯を話し終えた後の師匠は腹を抱えて笑っていた。一緒に探しに来てくれた同僚も必死で笑いを堪えていた。失礼な人達め。


「ゲオルグ様が花火を見つけて下さってよかったよ。誰よりも早くあの合図を見つけて下さったんだ」


 ゲオルグ様の名前を出されただけで、私の頬は赤く染まった。

 あの合図、ゲオルグ様にも届いていたんだ。


「その顔は、どうやら気持ちが固まったのかな?」

「…………内緒です」


 どうやら私の考えなんて養父には全てお見通しみたいだった。

 私がとっくにゲオルグ様に惹かれていることも。彼の想いに応えたいということも。

 けれどそれは、今ではないということも。


「全てを終えた時に、ちゃんと伝えられるといいね」

「…………はい」


 私達が今向かっている王都では、聖女と王が待っているという。

 私の意志はもう、決まっていた。

 師匠ともその話をした。彼は何も言わず承諾してくれた。

 何か責を問われれば、共に罪を背負うとまで言ってくれた。


 私がこれから成そうとしていることは、報復でも仕返しでもない。

 ただのけじめ。


 先ほどまで共に居たゲオルグ様とも話をして決めたこと。


「ナナヨ様を元の世界に帰します」


 例えそれを彼女が望んでいなかろうと。

 私はもう決めたのだ。


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