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再会

 夜空に咲いた満開の花を眺めながら、私は疲れ切った体を崩しその場に座り込んだ。

 王国で式典やらイベントがある度に駆り出されては唱えていた魔法が、まさか今になって役に立つとは思わなかった。

 こう考えると沢山の魔法を覚えるべきだなと実感した。


「本当、人生何があるかなんて分からないものね……」


 まさか王国の仕事場に引きこもってばかりいた私が、こうしてサバイバル生活をするぐらいなのだから。

 遠くの空まで届くように、通常以上に空高くに舞い上げた大きな花火が何処までの人が目にするかは分からない。計算上王都までの距離を考えて飛ばしてはいるから、その付近にある民家等にも見えているかもしれない。


「…………」


 瘴気に、魔物に苦しむ人々にとって少しでも心が癒される時間であれば良い。


 そう考えながら、私はその場で静かに眠りについた。



 翌朝。

 既に慣れてきてしまっている野宿により体のあちこちが痛む。

 それでも、眠っていた場所が神殿だったためか、魔力による疲労は全く無かった。

 痛む体に鞭打って起き上がり、探索して覚えた湧き水の場所まで歩く。

 汲んだ水を念のため浄化し、それから喉を潤す。疲れた体が生き返る気分だった。

 そろそろ飽きてきた果実を捥ぎ取り、水で軽く洗ってから口にする。

 少し酸味は強いけれど、食感もよくそれなりにお腹も満たされるこの果実は、王都ではあまり見かけない果実だったけれど、神殿の周囲に沢山実がなっているため、有難いことに食料には困らなかった。

 

 昔の書物に、女神が好んだ果実の話があったから、もしかしたらこの果実の事なのかもしれない。

 食事が終わってから神殿の中を散策する。

 不思議なことに、聖魔法が強くなってから、見えなかった通路や部屋を見通す力まで出てきた。まるで隠されたようにしている部屋を見つけるのが楽しかった。


 見つけた部屋には、石像や石に刻まれた文書が点在した。

 古代文字だけではなく、昨今まで使われていた王国の古い文字もあった。

 流石に古すぎたり異国の古い言葉になると私も読めないけれど、王国の文字や魔術に関する文字であれば多少理解して読めたため、研究も兼ねて石像に刻まれた文字を読んで過ごしている。


 読んでいて分かったことだけれど、聖女というのは聖魔法の属性が強い者が総じてそう呼ばれていた時代があったらしい。

 アスフォルダが建国するより前には頻繁にこの地に聖女が訪れ、この魔力を蓄えたのち各地を訪れ瘴気を祓うという風習があった。

 けれど時代により風化していき、当時聖女を管轄していた組織が戦争により無くなり、聖女という単語だけが残った。

 更には聖女の存在を知った時の王がこの地を他の者に貸し出すことを良しとせず、聖魔法を独占したらしい。その流れがアスフォルダに続き、今では選ばれた聖女がこの地を訪れるという風習だけが残っている。


「初めての事実ばかりだわ」


 多分だけど、前王やガイル陛下もこの事実は知らないだろう。知っていれば早々に聖魔法を使える者をこの地に連れていき、魔力を蓄え瘴気を祓っていただろうし、聖女を召喚するといった手の込んだ方法をとらなかったと思う。

 聖女の召喚についても少しだけ書かれていた。

 この地を独占したことにより周囲の国が瘴気に悩み、ついに禁術に手をだし、別の世界から聖魔法に長けた者を召喚したという。

 その力が強い者を血縁として続けさせようと婚姻を結ばせるも、契りを交わすことにより聖魔法の力は潰えてしまうという記述まである。


「契りって……アレのこと?」


 何だか気恥ずかしいが、魔術学的には女性も男性も未経験者が望まれる話は強かった。他者との交わりをもって強まる魔術もあれば、弱まる魔術もあるという。

 聖魔法はどうやら後者らしい。結局、聖女の血族を増やしたところで力は強まるどころか、聖女の力が消滅することから廃止されたという記述まである。

 一体どこまで詳しく書いてあるのか興味があったけれど、記述は時代の途中で途切れ、一切の記述を無くしてしまっている。

 きっとこの風習すらも失われた時代があるのだろう。


「これって……多分あまり知られてはいけない内容なのかな……」


 軽率に散策ついでに知った情報の膨大さに、段々私は手に汗が滲みだした。

 それ以上先の情報は分からないならと、一旦その場を離れて外にでた。

 気づけば空は明るく、時間は昼頃になっていた。


 神殿の前で心地良く風を受けていたところで遠くから馬の嘶きが聞こえてきた。

 まさか、こんなに早く到着することがあるのかしら。

 もしかしたらナナヨ様が何か命令されたのかもしれないと思い、警戒しながら馬の啼き声がした方角へ歩く。

 森の木々に姿を隠しながら、更に音が近づいてくることに緊張が走る。

 数名の声と、何頭かの蹄の音。

 そして。


「アーリア! 何処だ!」


 ずっと聞きたいと、会いたいと願っていた人の声。

 その声が聞こえた瞬間、私は走り出した。


「ゲオルグ様!」


 木々を越え、ようやく見えたその人の、ゲオルグ様の姿に。

 堪えていた涙がとめどなく流れ落ち。


 私を抱き締めようと向かってきたゲオルグ様に手を差し伸べ、強く抱き締め合った。



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