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追放されました


「聖女様を悲しませることは重罪である!」


「は?」


「また、聖女様に対し聖魔法を強要した罪は極めて重い!」


「えっ? あ、あの……」


「特使団の名において汝を許すわけにはいかない!」

「重罪!」

「追放すべきだ!」


 矢継ぎ早に責め立てられる。

 気付けば聖女の前に数人の男性が立ち、ジリジリと私の元に近づいてくる。

 その圧迫感たるや恐怖で体が動かない。

 しかも、言っていることは支離滅裂すぎる。

 まるで最初から仕組まれたような状態に、ようやく私は察した。


 元々、これは聖女による罠だったのだ。


 嘆願書を元に私を呼び出し、こうして周囲を自身を擁護する者で囲み、私を追放するために。


 追放する理由は、本人が言っていた。

 帰されたくないから。

 

「恐れながら聖女様! 私は貴方が望まない限り、帰還の魔術を行うなど考えていません!」


 両腕を男達に捕まれ身動きが出来ない中、必死で叫んだけれども。

 聖女の冷たい瞳は変わらなかった。


「たとえ貴方がそう思っていても、他の人が望むかもしれないでしょう?」

「そんなこと……!」


 否定しようと思ったけれど出来なかった。

 私が帰還の魔術を探している間に可能性としてその話も出ていた。

 そもそも、ナナヨ様という聖女を呼び出した私に対しても非難は強くあった。責任を持って帰還させ、新たな聖女を呼び出せなどという声もあった。

 口に出す者はどれほどの労力があって聖女を召喚しているか知らないから言える。

 一年間を無駄に眠って過ごしただけの私は、運が良い方だったのだ。

 下手をすれば命を失うかもしれない。

 更に悪い方向に考えれば、周囲にも被害が及んだかもしれないぐらい、禁術の一つでもあった。

 そう易々と人を連れ去ることが可能なわけがない。


 それでも、どう叫んだとしても聖女には届かない。


「貴方に罪はないの。ごめんなさい……」


 切ない表情で、哀れんだ声色で聖女が囁いた。

 憐憫に思われる感情こそ、聖女らしいと思ったけれど、そもそも元を辿れば彼女が諸悪の根源なのだ。


「酷いようにはしません。ただ、私から……この国から離れていてください。お願いします……」


 罪悪感からだろうか。

 聖女は懇願した。

 それでも、私は頷くことなんて出来ない。

 この国を離れたくない。

 けれども腕は力強く男達に引き摺られる。


「こんなこと……やめてください!」


 聖女に声は届かない。


「聖女様! ナナヨ様……!」


 どんなに叫んでも、扉は無情にも閉じられた。




 無理矢理馬車に乗せられ、ひたすら走り続ける。

 私の両腕はいまだに特師団の男性によって拘束されている。

 聖女のために用意されていたらしい上質な馬車が、人通りの少ない馬車道を走る。

 外は瘴気により危険な場所も多いため、転々と安全な地を遠回りしながら馬車は進んでいた。


 何処に連れて行かれているんだろう……


 私は荷物も何一つ無い状態だった。

 長いこと馬車に揺らされていることから、きっとアスフォルダから随分離れた場所に連れて行かれているのだろう。


 思い浮かぶのはゲオルグ様のお顔だった。


 今頃何処かで危険な目に遭っているかもしれない大切な方。

 戻ってきた時には、絶対に私の想いを伝えたかった。

 けれどそれも出来ない。


 悔しくて涙が滲んだ。

 けれど目を閉じて首を横に振る。


 命がある限り、きっと戻れるはずだ。

 そしてこの状況を良しとしない人が、例えば師匠が気づいて行動を起こしてくれるかもしれない。

 何より、私は絶対に戻ってみせる。

 アスフォルダを今のままにはしておかない。

 私の大切な人達を絶対に守ってみせる。


 


 馬車は時々休憩を取りながらも、恐らく一日中走り続けていた。

 軽食を与えられたり、監視のいる中休憩を取り、夜通し走っていた馬車がついに止まった。


 降りるように命じられた場所を見て。

 私は強く願っていた戻りたいという意思が挫けそうになった。


 目の前に広がる光景は、ただひたすらの森だった。

 不気味な鳥が鳴き声をあげ、日光すら遮断するような薄暗い森。人の気配があるどころか、魔獣の気配が漂うような場所だった。


「ここ……ですか?」


 どうか間違いであって欲しいと、縋るように特師団のいる方を見たけれど、男性達は無表情に頷いた。


「二度と国に戻ってくるなよ」

「そんな……こんなところに置いていかれたら……!」


 馬車に戻ろうとする特師団の腕を掴もうとしたけれど、強い抵抗で引き離され、勢いでその場に倒れた。


「全て聖女様の意思のままに」


 もはや聖女を崇拝する彼等に常識は通じない。

 私は呆然としたまま、砂埃を舞わせながら来た道を戻る馬車を眺めるしかなかった。


 周囲には何一つ人の気配は無い。

 目の前には深い森だけが広がっている。

 どうにか来た道を戻ろうにも、既にあたりは薄暗くなっている。

 タイミングが良いか悪いか、お腹の音が鳴った。


「どうしろって……いうの……」


 今度こそ泣きたくなった。


 どうやら私は戻るよりも前に、どうやって生きていくのかを考えなければいけないようだった……



本日、「転生した悪役令嬢は復讐を望まない」の発売日となりました!

読者皆様のお陰です……ありがとうございます!

書き下ろしも書かせて頂いておりますので、興味がある方は手に取って頂けると嬉しいです!


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