外側からの圧力が怖いです
暫くこちらの作品を毎日更新頑張ります
ついこの間まで雲の上の存在だった王族に、声をかけられることだけでも恐れ多いというのに。
「おはよう、アーリア」
毎日のように会いに来て下さるゲオルグ様に慣れてきてしまっている私がいる。
「おはようございます、ゲオルグ様」
「すまない、時間を貰えないだろうか」
少しばかり困った様子を見せるゲオルグ様の様子が珍しくて、私は首を傾げた。
仕事といえば、聖女様と会うための嘆願書を作り、更には帰還できる術を探す以外、私の仕事は無いため、自由に動きやすい。
「何か御用でしょうか?」
「アーリアに会いたいという者がいるんだ」
「私にですか?」
考えなしに頷きついて行ったことを、後々後悔するほどに面会者は意外な人物だった。
王宮の端まで歩けば、そこは後宮と呼ばれる場所だった。華やかな花の香が建物全体からする優美な世界。まるで天上のような美しさを見せる場所に、私は場違いすぎて硬直していた。
「緊張しているのか? 俺も、ここだけはどうも苦手だ」
雰囲気に呑まれている私に同情するように、ゲオルグ様が仰るけれど。
私としては、後宮に出入りされる方など、思い当たるのは一人しかいない。
「母上。お呼びしましたよ」
「あら。早かったわね。もっと待たされると思っていたわ」
後宮の広い庭園に向かえば、そこにはテーブルを囲んで優雅にお茶を飲んでいる女性が二人いた。
一人は絵姿にもなっている、前国王が妻であるエスリン様だった。
「は、初めてお目にかかります! 魔導師団に所属しておりますアーリア・ストラトと申します!」
私は勢いよく頭を下げた。
「初めまして。ゲオルグの母、エスリンと申します。どうぞ頭を上げてください。可愛いお嬢さん」
緩やかな声色。ゲオルグ様という雄々しい男性の母親とは思えないほど優雅なお姿に、私は見惚れてしまう。
僅かな目元に皺がある以外、彼女からは老いも衰えも微塵に感じさせない。それどころかその年齢独特の優雅さ、美しさ、成熟した女性の賢さが見えた。
聡明な出立でありながらも、王を息子を立て、自身は後宮から王城の管理を取り仕切っていらっしゃる王妃の噂は良い話ばかりだった。あまり評判の見えない国王の影で王権を支えているのが王妃と揶揄されるほどに存在感が強い方でもあった。
そして隣に座っていらっしゃる麗人は、ゲオルグ様と同じ黒色の瞳を宿した女性、リース姫。
このアスフォルダ国の第一王女にして、ゲオルグ様の妹。
長い亜麻色の髪を優雅に垂らし、細身の体によく似合うドレスを着ていらっしゃるその姿を見ているだけで、天上の国の方ではないかと見間違えるほどに美しかった。
「初めまして、兄様の大切な方。私はリース・アスフォルダと申します。長兄であるガイル兄様の無茶にお応え頂きながらも、冷遇されたと聞いております。身内の恥をこの場で私が代わりお詫び申し上げます」
物静かな仕草で頭を下げられ、私は慌てて彼女の前に出て、より頭を下げた。
「そのようなことはございません! 私の至らなさが原因でもございます。そのお言葉だけで十分でございます!」
「あらそう? じゃあ、今回のことはこれでお終いね?」
あれ?
思っていた以上にサクッと終わった話題に、そっと顔を上げてみれば、ニコニコしながらリース様が私を見ていた。
「王族としての会話はこれぐらいにして。さあ座って」
「そうそう。私の隣に。ええ、母と私の間にどうぞ。兄様はそちらの席でどうぞ。何当たり前のようにアーリアさんを隣に座らせようとしているのです」
「そうよ、ゲオルグ。ここは女子だけの園。女性の意見こそルールなのですよ」
「そんな無茶な……アーリア。嫌ならすぐに嫌と言ってくれ」
「え? え?」
何が起きているのか分からないままに、私は恐れ多くも右隣にエスリン王妃、左隣にリース王女を挟んだ席に座っていた。
緊張しすぎて何も喋れない私を、左右からじっと見つめる視線に冷や汗が出てくる。
「お母様によく似ていらっしゃるわ」
「母をご存知なのですか?」
「ええそれはもう。魔導師団で、まだ小娘だった私の護衛をしてくれた時もあったの」
私の両親は魔導師団に勤めていた。事故で亡くなったものの、それなりに技術の高い魔導師だったと聞いている。
「貴方にお会いしたら感謝を伝えたいと思っていたのです」
「感謝、ですか?」
今度はリース様が嬉しそうに仰った。
「ええ! 今まで半年に一度帰ってくれば良いぐらいだった兄様と、今では月に一度以上会えるようになったのも、全てアーリア様が城にいらっしゃるお陰なの」
「そうそう。この子は親不孝だからちっとも城に居ついてくれないから。本当に今は貴方のお陰でこうして会えるのですからね」
「母上……リースまで……」
うんざりするような顔付きで溜息を吐くゲオルグ様の様子を見て、どうやらその話は事実なのだろうと思った。
「さ、アーリア。お話しましょう?」
「貴方のこと、色々聞きたいの」
「は……はい……」
私は左右から迫りくる圧力に押されながら。
逃げられない小動物になったような気持ちで、二人からの質問攻めに合うことになった……




