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聖女を召喚することになりました


「え? 本当にやるつもり?」

「だそうだよ。そして君が召喚士として任命されることになった」


 師匠のとんでもない発言に、私は手に持っていたクッキーを落としてしまった。

 多忙な任務ばかり押しつけられる王国魔導師団で働く私、アーリア・ストラトはようやく手に入れた束の間の休憩時間にとんでもない話を聞いてしまった。

 

「聖女召喚の儀の実施は三ヶ月後だって。アーリア、大変だろうけど頑張ってね」


 私の大好きなクッキーを代わりとばかりにもぐもぐ食べる師匠は他人事とばかりに声援してくる。

 いや、実際他人事なんだけど。


「師匠……聖女召喚なんて何百年も前の召喚術ですよ? 資料だってろくに残されていないじゃないですか! そんなことやってるよりも、早く各地の瘴気を無くす方法を考えた方が優先すべきだと思いますけど」

「う〜ん国王にも何度もその話は提言してきたんだけどね。この話に関しては第一王子が指揮を取っていて、優先すべきだと公言してるんだよ」

「そんなぁ〜」


 この国の王太子が主体となっているということは、決定事項じゃないか。


「何だって私なんですか……魔導師団長は師匠なのに……」

「そうだけど、聖魔法に関しては君の方が能力値が高いからね。妥当な判断だと思うよ」


 私の師匠、エストラ様は飄々と言っているけれど、そこに至るまでには数多くの会議が行われた上での決定なのだろう。


 このアスフォルダ王国で魔導師団長を長年勤めるエストラ様は大陸随一と呼ばれるほど強い魔導師だった。若く見えるお顔と端正な顔立ちであるにも関わらず、実は今年で五十歳になる。

 

 私ことアーリアは、そんな魔導師団長に小さい頃から育てて貰っている。親代わりでもあり、魔法の師匠でもあった。

 小さい頃に両親が事故で亡くなってしまった私を、遠縁のエストラ様が引き取って下さった。その頃から私にとっての家族の一人。

 

 そのせいか、二十一歳にしても私は親離れもせず、結婚もしないで師匠と一緒に魔導師団に所属している。

 この国の平均結婚年齢は二十歳。私もそろそろ縁組みしないといけない年齢でもあったのだけれど、十九から働いている魔導師団での仕事が忙しいこともあって、ずるずると先延ばしにしている。


 いっそ、もう独身のままでもいいのかなぁなんて考えていたりもするけれど、それを師匠に話すと「孫の顔も見られないなんて」とか袖で涙を拭う素振りを見せられる。


「いや、貴方既に孫がいるじゃないですか」


 師匠は二十歳の時に結婚して子供が一人いる。私の義兄にして兄弟子であるエスティードは一昨年に結婚して、産まれたばかりの子供がいる。

 つまり、師匠には孫がいる。

 若く見えるため、周りに言っても信じてもらえないけれど。


「そうだけど。アーリア似の可愛い孫が見たいな〜」

「やめてくださいよ。そういうプレッシャーみたいなの」


 そんな話題が、日常茶飯事職場で行っている。

 周囲の同僚にとっては当たり前の光景になりつつあった。




 話は戻って聖女召喚。

 アスフォルダ王国建国の頃、古の時代から伝わる儀式が聖女召喚の儀。

 異界より聖なる乙女を召喚し、王国に蔓延る瘴気を消滅してもらうという話。

 アスフォルダの周囲には魔の森と呼ばれる地があり、人に害をなす瘴気を放つ。その周辺には魔物が住み着き、瘴気が増すと魔物の行動範囲も増え、街に被害が出てしまう。

 そのために魔導師団は瘴気を抑えるために働いているのだけれど、昨今急激に瘴気が勢いを増していた。

 本来なら王国に点在する聖堂で聖魔法による結界を築いているので、瘴気が増加することもないはずなのに、どうしてか魔力が弱まっているらしい。

 

 その結果、聖魔法を使える数少ない人材の一人である私は、毎日のように遅くまで魔導師団で働きづめだったりする。

 なので、結果的に見れば聖女を召喚して瘴気を消し去ってくれれば有り難い話なんだけど。

 そもそも自国の問題を他の世界の人にお願いすることもおかしいし、聖女に納得してもらったとしても、魔法が使えない聖女に魔術を教える必要も出てくる。過去の資料を見た限り、訪れる聖女はみんな魔法が使えない。

 なので、いくら召喚してもすぐに問題は解決できる事ではなかったりする。


 ただ、今のアスフォルダ王国には王子が六人もいて、次の王を決めるための決定打になるだろうと言われているのが、この瘴気の問題だった。

 もし、王国を不安にさせている元凶の瘴気を解決させられれば、その者は次期国王として相応しいだろうと、現国王が発言されたからだ。

 だからこそ、長男だけれども次男の王子よりも人気の低い第一王子が聖女召喚に躍起になっているんだろうな。

 

 そして、その召喚を任されているのが私、だと……


 ああ。


「何だかとっても嫌な予感しかしないわ」


 

 そして悲しいことに。

 この予感は的中した。




 

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