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レインボウ アーツ  作者: ニョグタさん
4/4

スロウライフ

 あれから一週間程、


 「アルカ〜朝ご飯出来たわよ〜!」

 「んーぃ」


 今、凄く眠い。


 惰眠を貪りたい所だけど、

 降りないと怒られるしなぁ…

 あっそうだ、


 「ちぢまれ〜」

 近くの壁に手を伸ばした。


   ズズズズズ…キュッ


 私の持つこの力、

 実は、私と動かない物に使うと

 ちょっとした移動が出来るのだ!


 「…歩いた方が早いな…」


   ヒュイッ


 移動の際に埃を巻き添えにした

 毛布を退け、普通に歩く事にした。


 「んーねみー」


 動かし辛い体を無理に動かそうと試みる。

 駄目だ、動かん…


 「あ゛〜」

 「…何やってんのお姉ちゃん…」

 「お〜しえるぅ〜わたしをたすけろ〜」

 「うわぁ…」


 この子は私の妹、シエル・トワイド。

 まだ十歳なのにしっかり者で

 お姉ちゃんとしてはべん…嬉しい限りだ。

 ちなみに、私の年齢は十七歳。

 年が離れている理由は、

 父と母が、私の子育てが一段落してから、

 シエルを生んだから、らしい。


 「もうふはどけれたぁ〜

  でももううごけん〜」

 「はいはい、進歩だね…」

  グイッ

 「うげっ」


 ベットから引き摺り落とされた


 「ちょっとは目が覚めた?」

 「いつつ…強引だなぁ…」

 「お姉ちゃん、最近一寸

  マシになったよね、もう動けるでしょ?」

 「んーっしょ、ういしょ…」

 「あの子のお陰かなぁ」


 私は最近、早起きを心掛けている。

 前までは、昼まで寝る事も有った。

 

 「はい、これに着替えて」

 「んぁ…はいよ」


 服はシエルに選んで貰っている。

 前に自分で服を見繕ろうとした時が

 あったけど、その時シエルから、


  “絶対自分で服選ばないで!”

 

 って言われた。何でだろ。


 「…昨日、髪乾かした?」

 「んぇ?…あー…」


 ついでに髪も梳いて貰う。

 ちなみに、

 私の髪は首半ばまでしか伸ばしていない。

 定期的にシエルに切って貰ったり、

 自分で切ったりしている。

 これは自分でやっても大丈夫らしい。

 むしろ、シエルのも切ってやってる。

 髪は少し短め位が好みだ。

 髪を洗う時長いと面倒臭いし、かと言って

 短過ぎるのも何かちょっと…ね…?


 シエルの部屋にあった、


 【最先端!王都のイケてるヘアー!】


 って言う本によると、私のヘアーは

 ショートボブらしい。


 シエル、いつ買ったんだろ…

 こんなやつ本屋さんに置いてたっけ…


 「おー」

 「今日は、お姉ちゃんが好きな

  動き易い服で纏めておいたよ」


 今日の服は、

 袖の無いブラウスと

 長さが膝位までのズボン。

 少し暑くなって来たのも相まって

 夏に入り始めたっていう感じがする。


 スカートは履かないようにしている。

 ヒラヒラしてて邪魔だからね。

 でも、シエルに

 しつこく勧められるんだよなぁ。


 「今日は一段と早かったわね」

 「私に掛かりゃこんなもんよ」

 「…」


 シエルに白い目で見られた。


 私の母、

 アルコ・トワイドは、凄く優しい。

 怒られた事は数える程しか無い。

 父の、バレイド・トワイドの

 心配症も相まって、私はかなり

 甘やかされている自覚がある。


 「おー美味しそうな玉子焼き…」

 「まだ食べちゃ駄目だよ」

 「分かってるって

  みんなで食べた方が美味しいからね」

 「ふふふ…あの子は愛されてるわね〜」


 父は先に朝ご飯を済ませて畑に行った。

 暑くなる前に農作業を

 済ませにに行ったのだ。


 では、誰を待っているかというと…


  ガチャッ


 「牛ニゅう買っテきた

  ドコニ置ケば良イ?」

 「今飲む分が有るから、

  取り敢えず食卓の上に置いといてね」


  トコトコ…

  ドン!


 そう、ナスビちゃんである。


 あの後、私の家に住むことになったのだ。

 私の家は、いきなり来た人を養える程の

 お金は無いけれども、父と母、

 更にはシエルも、二つ返事で

 一緒に暮らす事を認めてくれた。


 …みんな私に甘過ぎ無い?

 単純にナスビちゃんが良い子って

 だけじゃ済まない問題だよ?


 一週間経って、ナスビちゃんは

 大分馴染んできているみたい。

 今日は、お使いで

 搾乳缶入りの牛乳を買って来た様だ。

 …今夜はシチューかな。

 夏のシチューは、冬のシチューとは違った

 美味しさがあって私は好きだ。


 「もうゴ飯出来テる」

 「もう少し遅めでも良かったわね」

 「お姉ちゃんの為にも、

  これ位で良いよ」

 「まぁ、取り敢えず食べよ」

 「クい意地張っテる…」

 「そこまでじゃない…んじゃあ、」


 「「「「頂きます」」」」



 ―――――――――――――――――――――


 「そういやナスビちゃん」

 「なニ?」

 「オーロクは元気そうだった?」


 オーロクは、魔物だけれども

 おとなしくて可愛い奴だ。

 赤ちゃんだったオーロクを

 連れてきたのは私だけども、


 “魔物だろうが死なせちゃいけない”


 という事で、酪農家のクーダンさんに

 育てて貰っている。

 オーロクは、牛に似ており、

 牛と同じく牧草を食べれたので

 大きな損失は無いそう。

 牛ってデリケートだから、

 ストレスが溜まると乳の出が悪くなったり

 するんだけど、むしろ、オーロクを

 仲間と認識しているらしく、

 その心配も無いそうだ。


 そのオーロクだけれども、

 最近は色々あって、

 中々会いに行けなかった。

 さっき、牧場にお使いに行った

 ナスビちゃんに様子を聞いてみる。


 「おーろク…牛の魔物?」


 あれ?反応薄いぞ?


 「…あー、そういやあの時

  名前言ってなかったなぁ…

  よく分かったね」

 「アるかの友達っテ

  ソれ位だカラ?

  「いやもっといるよ…?」

  おーろクは、遠クデ

  もソもソしテた」

 「もそもそ…うーん、

  久々に会いに行くかぁ」

 「なスびも行きたイ」

 「おけおけ」

 

 取り敢えず持ち物を纏めるとする。

 鞄には、既に、財布とナイフ、

 スケッチブック、筆記用具が入っている。

 要るのは、軽く羽織れる毛布と

 地面に敷く物、お昼ご飯位かな。

 ご飯は、家に有るパンと空の水筒だけ

 持って行って、美味しそうな惣菜と

 ブドウ水を市場で買おう。


 あー、惣菜は温かい方が美味しいし

 家の保存箱持っていこう。

 熱さや冷たさ、新鮮さを長時間保てる

 優れ物だけど、箱をへこませたりして

 魔法式が機能し無くなったら大変だ。

 安くても銀貨十枚するし、

 慎重に扱わないと…


 「ナスビちゃんは何かいる物ある?

  一応、羽織れるやつは持っていくけど」

 「日除ケニなりソうな物とカ」

 「背中がっつり空いてるから

  必要かぁ、どこに有ったっけ」


 ナスビちゃんは、普通の服は着れない。

 大きな腕が、袖を通らないからだ。

 なので、私とシエルのお下がりを

 布の様に加工して、首と腰部分を結べば

 袖無しの服になるものを着ている。

 その関係上、背中が丸見えになるんだけど、

 髪が長かったので気になら無かった。


 でも、ナスビちゃんは、

 髪を切りたかったらしく、私が切ってやった。

 白髪と、角の様に可愛らしく飛び出た

 癖づく毛を活かす為に、

 前髪は思い切ってぱっつん、

 顔周りの毛は長め、全体的に

 丸くなる様に切った。

 思惑通りの可愛い髪型に出来たので

 満足だけど、服の背中が空いている事を

 考慮していなかったので、

 どう仕様も無い事になった。


  ギィィ…


 「んー、おっ有った」


 家の倉庫に良さそうな物が有った。

 肌触りの良い黒いマントだ。

 なんでも、本物の吸血鬼のマントらしい。

 オーロクの件で仲良くなった

 冒険者さんから貰った物だ。

 裁縫とかで使えそう、とシエルや母が

 喜んでいたが、貴重な物なので、

 結局持ち腐れている。


 長いこと放置されていたので

 ほこり被っていたけど、

 ニ、三回叩くだけでほぼ取れた。

 汚れも見当たらない。

 凄いなこれ…

 吸血鬼の物だし、

 日除けもばっちりだろう。


 「良さげなやつ見つけたよ」

 「コれ、マンと?」

 「そうそう」

 「…明らカニ長イケド」

 「あっ…長さ調節しなきゃなぁ…」


 出掛けるのは、昼前になった。



 ―――――――――――――――――――――


 「行って来まーすっと

  取り敢えず市場に行こうか」

 「お腹スイた」


  ・

  ・

  ・


 魔物が出ない村、ジマリハには、

 王都に流れ込む物資の集積地として、

 貯蔵庫が多く有る。

 魔物が出ない=物資が安全に保管出来る

 という事で、同じ条件で

 土地の値段が高い王都より、

 ジマリハに物資が保管されているのだ。

 …最高戦力が小さな自警団の村に

 物資を保管するのはどうかと思うけど。


  ワイワイガヤガヤ…


 「今日も多いなぁ

  腕、見えない様にしてる?」

 「だイ丈夫」


 そのせいあってか、

 市場はいつも賑やかだ。

 様々な場所から集まって来た食料や

 工芸品等がそこかしこで売られている。

 毎日の様に品揃えや

 市場の様相が入れ替わるので、

 “百変化市場”なんて呼ばれてたりする。

 ちなみに、ナスビちゃんが逃げて来た

 あの日から数日間は客足が遠のいていた

 けれど、一週間でもう戻って来ている。

 

 「おばちゃーん、ブドウ水ー」


 ブドウ水はジマリハの夏の風物詩。

 ブドウ酒を水で薄め、飲んでも酔いが

 回らない様にした物で、

 子供から大人まで幅広く親しまれている。


 「あいよーアルカちゃん

  あらナスビちゃん、可愛い格好ね

  もう一つのはナスビちゃんのよね?」

 「そうそう」


 そう確認した

 ブドウ酒の屋台のおばちゃんは、

 二つの水筒の片方に、

 黄金の液を人掬い入れた。


 「はいよ、合わせて三銅で良いよ」

 「いつもまけてくれてありがとね」

 「早ク飲みたイ…」

 「牧場まで我慢」


 はちみつ入りのブドウ水が待ちきれない

 ナスビちゃんの頬がプクっと膨れる。

 気持ちは分かる。

 はちみつもブドウ酒も、

 ジマリハの名産で凄く美味しいし。

 それを混ぜ合わせるなんて

 まさしく悪魔的な飲み物だ。


  ・

  ・

  ・


 いくつか美味しそうな

 惣菜を買って牧場へ出発。

 オマケも貰ったけど、

 保存箱に入れとけば大丈夫だろう。


 市場の騒がしさとは打って変わって、

 ブドウ畑が広がるジマリハ山方面は静かだ。

 澄んだ空と相まって心地良い。

 のんびりするには丁度良さそうだ。


 「到着っと、

  取り敢えず放牧場に

  入っても良いか聞いてくるね」

 「分カった」


 市場から歩いて二十分、

 なだらかな丘に有る牧場に着いた。

 軽く入場許可を取り、早速放牧場に入る。


 「まずはお昼にしようか」


 ナスビちゃんが、見るからに

 待ちきれ無さそうな顔をしている。


 小高くなった場所に敷物を敷き、

 早速お昼ご飯の準備に取り掛かる。


 まず、持ってきたハーブ入りの

 平たいパン、フォカッチャを、

 ナイフで横方向に二つに分ける。

 そして、市場から買って来た惣菜を

 挟めば出来上がり。

 よく私が小腹を満たす為に作る物だ。


 「はい、ナスビちゃん

  んじゃ、いただきます」

 「イただきまス」


 モグモグ…今回の組み合わせは当たりだ。


 花ズッキーニのフリットが売っていたので

 思わず買ってしまったけど、

 玉ねぎのサラダと合うなぁ。

 中からあふれるチーズが堪らない。

 熱々のままの

 チーズが食べれるのは、保存箱様々だ。

 次に食べられるのは来年の今頃、

 そう考えると名残惜しい。


 ブドウ水を飲む。

 ほんのりとした甘みと清涼感が

 口に残る油を消してくれる。

 基本、ブドウ水は

 シロップで味付けするのだけれど、

 このブドウ水は塩で味付けされている。

 甘みの強いシロップのブドウ水よりも、

 ご飯に合うし、個人的に好きだ。


 隣をふと見ると、

 ナスビちゃんが無我夢中に

 惣菜サンドを食べている。


 「どう?美味しい?」

 「うぉイふぃイ」


 そう言うと、

 また惣菜サンドにかぶり付く。


 …やっぱり手づかみは食べやすいみたい。


 ナスビちゃんが家に来てから

 一番困った事は、食器だ。

 ナスビちゃんは、肘の関節から下が

 石で出来た大きな腕になっている。

 研いだ黒い石を組み上げた様な物だ。


 …多分、ナスビという名前は

 髪とこの腕から来ているのだろう。

 髪の毛が、よく見る茄子で、

 腕がこの前貰った黒い茄子だと思う。

 そう考えるとぴったりな名前だなぁ。


 その腕の都合で、

 スプーンやフォークが口に運べなかった。

 しかし、スプーンやフォークを

 棒に括り付けて握る事で、

 何とか食事が出来る様になった。

 今は、食事の作法を練習している。


 …しっかし、

 花ズッキーニのフリット美味しいなぁ。


 「あっ、言うの忘れてたけど

  次この味が食べられるのは来年だから

  味わって食べるんだよ?」


  ゴクン…


 「…言うのおソイ…」


 惣菜サンドは、もうお腹の中だった。

今回の内容について


・この世界の貨幣は、基本的に


  金貨、銀貨、銅貨


 となっています。

 日本円に例えると、


 金貨が十万円、銀貨が千円、銅貨が十円


 となります。

 例外として、国王即位記念硬貨等、

 法外な額の貨幣が有ります。


・主人公や、ナスビの容姿について、

 書かせて頂きました。


 主人公とナスビの髪型ですが、


 長髪が好きな方には申し訳有りませんが、

 短めにさせて頂きました。

 主人公は長髪にする案が有りましたが、

 彼女の行動理念を考えるに、


 髪を洗うのは最低限するが、面倒臭い。

 かといって髪が短すぎるのは勘弁。


 に至ると思い、

 ショートボブにさせて頂きました。


・ナスビの色合いですが、


 髪の色は、ナスビと言う名も有り、

 ジマリハのモチーフの地方では一般的な

 白茄子をイメージし、白としています。


 しかし日本人に馴染み深い、黒い茄子を

 取り入れたいと思いまして、

 大の特徴である石の腕を、黒としました。


・ジマリハの特色について、少し

 書かせて頂きました。


 ブドウ酒に使われるブドウは、

 加熱すると臭みが出て来てしまいます。

 モチーフの地方の物がそうです。

 その為、水で薄めた物をブドウ水と言う

 清涼飲料水として扱っていますが、

 未成年に仮にでも酒を飲ませている

 事になります。申し訳有りません。


  お酒は二十歳になってから。


・いきなり出て来た保存箱についてですが、

 詳しくは後の話で書かせて頂きます。


・前話から出てくる冒険者については

 近い内に書かせて頂きます。

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