八話
「そういえばさ、新海ってもう風祭さんとキスとかしたの?」
「お前マジでぶっ飛ばすぞ」
2限と3限の間の休憩時間、いつも通りに適当な話を進藤と湊としていると、唐突に進藤がそんなことを言い始めた。
「まあ、いいじゃねえかよ。そのくらい教えてくれても」
「絶対に教えないし」
実際まだしてないんだから隠すことも特にないんだが、なんかこいつに話したら負けな気がして適当にはぐらかす
「バカだな連夜、そういうのは相手から話してもらうのを待つのが一番いいのに……自分から好感度下げてどうすんだよ」
「お前の好感度は今だだ下りだよ」
「バカな……」
信じられんと言わんばかりの顔をする湊だが、それもいつも通りの軽口だと俺も湊もわかっている。
そんな会話をしてればすぐに始業のチャイムが鳴って、俺たちは自分の席へと戻った。
俺と渚が付き合い始めてから二週間が経った、今の日常はそんな感じだった。
そして、4限が終わって渚とお昼を食べようと立ち上がった時に異変は起きた。
なにやら廊下が騒がしいと思えばその騒々しさの犯人はすぐに教室の入り口に現れた。
「えっと、新海陽翔くんってここのクラスにいるかな?」
「いたら呼んで欲しいんだけど」
入り口に現れたその人は美咲先輩と和樹先輩だった。
2人の指名に教室内にいたクラスメイト全員が俺と渚の方を振り向いて俺の居場所はすぐに2人にバレた。
「あ、いたいた。陽翔、昼飯一緒に食べないか?」
「可愛い彼女ちゃんも一緒にどう?」
「「あ、はい」」
弁当箱の包まれているであろう巾着袋を掲げてにこやか笑う和樹先輩と渚に小さく手を振る美咲先輩。
唐突すぎるそのお誘いに、俺と渚は頷くことしかできなかった。
先輩達2人に連れてかれるがままやってきたのはこのあいだのベンチ……ではなく学食だった。
2人は渚が2人分の弁当を持ってるのを見るとそのままちょうどいい席を見つけてそのまま座る。
「えっと、これってどういうことなんだろう……私、生徒会長と副会長のお二人と面識ないはずなんだけど……」
渚のそのつぶやきが正面に座ってた美咲先輩にも聞こえていたみたいで美咲先輩はニコニコしながら渚の言葉に答えを返した。
「まあ、直接の面識はないかもね。私も初めて見たときはキミ、陽翔くんの膝の上で気持ちよさそうに寝てたし」
「え……ええ!?うそ!?あ、あのとき……!!?」
顔を真っ赤にしてあわあわし始めた渚を見て美咲先輩はケラケラと笑う。
「まあ、そういう美咲も実は陽翔を起こすまでは俺の膝の上で寝てたんだけどな」
「ちょっ!和樹!そういう余計なこと言わないでって!」
「どうしようはーくん、私すごく恥ずかしい」
「あ、うん。そうだな。俺も少し恥ずかしい」
顔を真っ赤にした美咲先輩と渚、おんなじように顔を下に向けてキョロキョロするあたりが本当にそっくりでつい、笑ってしまった。
きっと、これは和樹先輩も美咲先輩と幼馴染とかそんな感じなんだろうなとそんなことを勝手に思ってしまった。
渚だけが2人のことを認知していなかったということで軽く自己紹介を済ませ、弁当をつつきながら会話を弾ませる。
「そのお弁当、渚ちゃんが作ってくれてるんだー?」
「はい、毎朝作ってくれて本当に助かってます」
「いいじゃないか、愛妻弁当みたいで」
「愛妻!?わ、私たちまだそんな関係じゃ……」
「ん、まだ?」
「え!?いや、その……た、助けて陽翔ぉ……」
「あ、うん。ごめん無理」
どうやら、渚は2人の先輩には敵わないということをその身をもって体験してしまった昼休みも終わりに近づき
「あ、私たちそろそろ戻んなきゃ……それじゃね、渚ちゃんに陽翔くん!またご飯に誘わせてもらうから!」
「は、はい」
「2人が迷惑じゃなければまた一緒に食べてくれるとありがたい」
「あ、はい。いつでも大丈夫ですから」
2人を見送って俺と渚も席を立つ。
少し遠くから「やっば、渚ちゃんめっちゃ可愛かったわ」なんて少し興奮したような声が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
「すっごく恥ずかしかった……」
「わ、悪い人じゃないんだぞ?多分……」
「わかってるよぅ……」
顔を紅潮されたまま、俯きながら教室まで戻っていくと渚は香坂と朔月にそのまま机の方まで連行されていった。
「おい、一体どういう経緯があった」
「聞かせてくれ新海」
「こんなやりとり前もあったな」
少し呆れて見せたが、出会い自体はそんなに大したもんじゃない
「いつどうしたら生徒会長と副会長の上級生カップルと仲良くできたんだよ……」
「いや、それ自体は大したことじゃなかったんだけどさ……渚と前に中庭で弁当食べた時にちょっと知り合ったくらい」
「マジか……ってかあそこカップルの温床みたいなとこなのによく入ったよな……って、お前彼女持ちだったわ」
くそ、末永く幸せにしやがれとか言いながら進藤は渚の方を見る。
朔月と香坂と話しながら困った顔をしてるところを見ると同じ質問をされているんだろう。
本当に、どこかで見たような光景だけに俺はクスリと笑ってしまった。
残された二限も終わりを告げ、俺と渚は特にやることもなくそのまま家へと向かう。
「そういえば、私のお引越しって今週末だよね?」
「だな、つっても隣の俺の部屋にもの移すだけだから1日で余裕で終わるだろ」
最近ではもう慣れてきた左腕に抱きついて歩く渚と今週末の予定を話す。
渚は今週末……正式には土曜からだが、俺と一緒に住むことになった、それもうちと風祭の家から直々にそうするようにと通達が来たわけである。
それに対して、渚は大喜び。
その日ははしゃぎすぎてずっと俺の膝の上から離れなかったレベルだった……
ちなみにだが、俺と渚の住んでるアパート一室2LDKの高校生が一人暮らしするには少し広めの部屋となっている。
「はあ、早く週末にならないかなぁ……楽しみすぎて幸せすぎて心臓破裂しそう……」
「頼むからそれだけはやめてくれ、俺立ち直れないわ」
「えへへ、そう?」
「当たり前だろ、俺は渚しか見てこなかったんだから」
「そ、そっか……わたしもはーくんだけ見てたよ?」
渚の恥ずかしくなったらその顔をすぐに真っ赤にするのはどうにかならないんだろうか……可愛すぎて俺の心臓がもたないんだけど
アパートの部屋の前に着けば渚とは一度着替えるために別れる。それも今週末には無くなって、同じ部屋に一緒に帰ることになるわけだが……
「思えば、渚が同じ部屋で一緒に過ごすのか……色々と耐えきれるかな、俺」
そうして思い起こすのは先ほどまで抱きついてきていた幼馴染の姿。
渚のプロポーションは正直に言えば高校一年生とは思えないほど完璧というべきだ。
出るとこは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる。
そして、毎日抱きついてくる時に当たっているものだって決して小さいわけではない、寧ろ世間一般的に言っても大きいとも言えるだろう。
普段からいろいろ抑えられなくなりそうになったら空いてる右手でいろんなところを抓っているせいで最近は右半身に青アザだらけになって来たとこの間鏡を見て思った。
青あざはまあいい、2人きりでいる時なんかは全力で甘えてくるものだから密着することが多くなる。
今までは渚とアパートの部屋が別だったからなんとかなっていたが、これからはどう対処しよう……
「いろいろ、我慢しないとな。そういうことはキチンと渚の人生に責任持てるようになってからじゃねぇと……」
頬を叩いて気合いを入れる。
渚が来る前にいつもやるそれを行えばいつ来てもいいように俺も部屋着に着替えることにした。
バタンと私の家の扉を閉じてすぐに鍵を閉める。
そして、そのまま寝室へと向かってベットへとダイブした。
「あっー!今日もはーくんと一緒に帰ってきたー!!!」
さっきまで抱きついていた腕の感触を思い出して、わざとに当てていた自身の胸を見る。
決して小さくないそれは、まず間違いなく意中の男の子への切り札になるはずだった。
今まで意識的に当てていたし、彼の背後から抱きつく時なんて必ず彼の頭に当てるようにしていた、それ以外での場面でも色々をこの武器を使って大好きな幼馴染へとアピールしたつもりではあったが……
「……陽翔のガードが思ってたよりも硬いなあ」
そう、何しろ彼は何にも気にしないようなそぶりで普通に過ごすのだ。
もしかして、女の子として見られてないのでは?
と、疑問に思ったことがあったがそうでないことも色々分かっている。
私が少し薄着で彼の部屋へ向かえば少し視線を逸らして照れた顔をするし、その日はなんだかよそよそしくなることもある。
これは、つまり私は女の子としてきっちり意識はされているはずだと確信に至れたことの1つだ。
生まれ持ったこの才能を、どう陽翔を誘惑しようかに考えるためにフル回転されるが……
「夜這い……してみる?」
勝負は今週の土曜日の夜。
私と陽翔が一緒に暮らし始めて初めての夜になるその日。
私はお母さんにこの間渡された薄すぎる下着と小さな箱に入った意味深なゴムを見てそう決断した。
そうして、その後は普通に着替えて何事もなくイチャコラしながら夕飯を食べて就寝の時間までくっついてテレビを見ていた。
そして、迎えた土曜日の朝
「それじゃあ、陽翔。お願いね?」
「ああ、任せてくれ。すぐに終わらせるから」
((今日は絶対に……))
───耐え抜いてみせる!
───押し倒してみせる!
何気なくいつも通り会話する2人。
しかし、お互いに今日の意気込みを胸に1日を迎えたのだった。