六話
本日2回目の更新です。
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公園に来る途中でジュースを二本買ってさっきまで俺がいたベンチに今度は2人で腰をかける。
少しの間、気まずい沈黙が流れる。
意を決して声をかけようとして
「「あの(えっと)」」
2人の声が重なって、俺たちはハッとしてそしてくすりと笑った。
昔から、何か大事な話があるとこうして2人同時に切り出そうとして声が重なることが多かった。
「渚から……って言いたいけどごめん、今日は俺から話させてもらって良いか?」
「うん……少し怖いけど、覚悟はしてきたから」
なんの、とは聞かなかった。
俺は自分の中で決めたことを口に出そうと、そう決めたんだから。
俺はもう、渚から逃げないって
そう、心に決めた。
「今朝は、ごめん。変なこと口走って渚の前から逃げて」
「ううん、それは私もそう。はーくん……陽翔にずっと依存して陽翔に迷惑……かけてたよね?」
ズキンと心の何処かにその言葉が刺さる。
けど、俺は渚のことを迷惑と思ったことなんて一度もなかった。
「渚のこと、迷惑なんて思ったことは一度もない。俺は……俺はきっと渚の近くにいたから渚の才能を枯れさせたんじゃないかって……本当にやりたいことを出来ないんじゃないかってそう思ってた」
「そんなことない!朝も言ったけどね、私は陽翔が褒めてくれたからなんでも頑張れた!私が陽翔のそばにいたのは依存してるっていうのもあるけど……本気で陽翔のそばにいたいから……」
「ありがとう……でも、そう考えるのも止めることにしたんだ」
「え……?」
不安そうな瞳で渚が俺の顔を見る。
わかってる、俺が渚に釣り合わないこと。
わかってる、渚にはきっとふさわしい人がいるって。
わかってる、その選択が渚のもつ才能を殺すことだって。
だけど、俺はもう自分の恋心を騙すのをやめる。
「俺は例えそれが渚の可能性を……才能を殺すことになっても渚のそばにいたい。小さい頃からずっと、普通の女の子として、たくさん努力してきた君を……ずっと、好きだったから」
「す、き……?陽翔が……はーくんが私のこと好きって……う、うそ、ほ、本当に……?」
瞳から沢山の雫を流して俺を見る渚をずっと見つめる。
沢山泣きじゃくる渚を俺は落ち着くまで待った。
「本当に、ずっとずっと俺はなぎちゃんが大好きだった。だから、俺をそばにいさせてくれませんか?」
「わ、わたしも……はーくんのことがずっと、ずっと大好きでした……私のそばに、ずっといてくれますか?」
渚の返事になってない返事に気がついて2人で顔を合わせて笑った。
そして、今度は2人揃ってその返事を口にした。
「「ぜひ、ずっと一緒にいてください」」
俺にとっての10年以上にも及ぶ初恋は見事成就したのである。
公園を後にして、俺たちは特に話すこともないまま実家に向かっていた。
「えと、その。恋人として付き合えた今言うことじゃないんだけど……私、きっとはーくんにもっともっと依存しちゃうよ?迷惑、かけちゃうかもしれないよ?」
顔をうつむかせてそう口にする渚の頭を少し撫で回して、俺はそれに対しての回答を口にした。
「いいよ。渚が依存してしまったのは俺の責任だ。なら、これまで以上に依存されても俺は構わないし、なによりさっきも言ったけど、渚を迷惑って思ったことなんて一度もないって」
「えへへ……そっかあ……嬉しいなあ」
学校や習い事の場では絶対に見せなかった人には絶対見せられないような頬が緩みきった顔をした渚はとても可愛かった。
「それに、そのうち依存なんてなくたって俺のこと好きになってもらえるようにもっと俺も頑張るからさ」
「依存抜きにしても大好きだもん」
上目遣いのまま、頬を膨らませてそう抗議した渚は個人的な補正値を完全に取っ払ってもめちゃくちゃ可愛かった。
「可愛すぎか、そんなん即死だわ」
「え……?ちょっと待って、私10年来の恋が成就したその日に恋人失うのヤだよ?」
ほんと、俺の幼馴染可愛すぎてつらい。
ちなみに、その後だが互いの家……とは言っても隣り合わせだから両家族を呼んで俺たち2人が付き合い始めたことを報告したら
「やっと、渚ちゃんの努力が報われたか」
「渚ちゃん、陽翔のことよろしくね」
「陽翔くんなら、渚のこと任せられる。というよりも陽翔くん以外の男には絶対渡すつもりはなかった」
「この子、少し重たいところあるからよろしくね?」
そんな感じのことを言われ、その日は新海家で散々パーティーやった挙句、渚は俺の部屋に泊まらせる流れになってしまった。
「なんか、陽翔の部屋で一緒に寝るのって久しぶりだね」
「小学生以来だから少なくとも3年ぶり以上だな」
布団を二枚敷いて、その布団の上で2人で話している。
こういうことに抵抗を覚えなくなったのもいつぶりだろうか。
何も考えないでこうして2人でいることがこんなにも心地のいいことなんて今までわからなかった。
「ねえ、陽翔」
「ん、どした」
「陽翔は私でよかったの?」
「なんだよその質問、言っただろ。ずっと好きだったって」
「ん、んふふふ。そっかそっかー」
素直にそう返せば渚はまたもや緩みきった顔でニコニコと幸せそうに笑っていた。
「そういう渚こそいいのか?控えめに言ってもオーバーに言っても俺って平凡を絵に描いたようなやつだぞ」
「私が陽翔を好きになったのは見かけじゃないよ」
「幼馴染だから?」
「それだけじゃない。今日の朝、私が言ったこと覚えてる?」
あの時はものすごいショックを受けたからその言葉の数々はきっちりと覚えていた。
「ああ」
「才能じゃなくて“わたし”を見てくれたのが陽翔だったから、陽翔がずっと私を支えてくれて、私のこと普通の女の子として友達として幼馴染として触れ合ってくれたから、小学校上がる前には私、陽翔のこと大好きだったもん」
「そっか、それは嬉しいな」
純粋に好意を向けられるとものすごく照れ臭い。
だけど、俺にとってそれが当たり前だったことが渚にとっては特別だったんだろう。
だったら、やっぱり俺のやってきたことは間違ってなかった。
「ち・な・み・に・はーくんは私のこといつから好きだったのかなー?」
「自覚したのは小学校上がってすぐくらいかな」
「ふふっ、それならはーくんのこと好きだった時間は私の方が長いね!」
ガバッと正面から抱きついてきて、だらしない声を上げる渚を俺は受け止める
「えへへ、ぎゅーっ!」
「はいはい、ぎゅー」
「しあわせぇ」
「そっか、よかった」
ああ、こんな日々がこれから続くのかと思うと俺の心臓と理性は持つのかとそんなことを今度は不安に思うのであった。
これで渚ちゃんと陽翔くんの心の中にあったしこりは(強制的に)なくなりましたね。
それでは次回よりタイトル通り(甘々の)高校生活編始めていきたいと思います。
依存気味の渚ちゃんとそれを受け止めた陽翔くんの新生活、お楽しみいただければ!