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前世・悪役令嬢モノ

深淵を覗く悪役令嬢

作者: 佐田くじら


先日、婚約破棄をされた。


婚約者が私を愛してなかったなんて知らなかった。

家族が私を煙たがっていたなんて知らなかった。

友人たちがただ私に合わせていただけだったなんて、知らなかった。



…………もうこのまま、死ぬのかしら?



そのとき。とん、と肩を叩かれた気がした。

振り向こうとして、ズルッ、と足が滑った。



「「「―――グレイシア様ッ!!」」」



名前が呼ばれた、と感じる間もなく空を飛んだような浮遊感を味わう。

やがて額のあたりをナイフで削がれたような痛みを感じ、耐えかねて………気絶した。


そしてそのまま、私の世界から光が消えたのだ。






 ◽

 

 ◽






『回復する可能性は、ほぼ無いと思われます』



先ほど医者に言われた言葉を思い出す。不思議と不幸とは思わなかった。


今回のことは完全な事故だった。ただ、私が階段から落ちたまでのこと。私の目がもう、何も映さないだけのこと。


そう思って、自嘲の笑みが溢れる。

頼りなく、独りで、そのうえ、盲目? 世界は私に、死ねと言うのだろうか。そんなことを考えたときのこと。



「……グレイシア!!」



―――この声は、殿下?



「大怪我したとは本当か!? 大丈夫なのか!?」



―――どうして、あなたが?

  あなたは私を、棄てたのでしょう?



「ああ、そうだが………でも、僕も迂闊だった。もっと時期を見て穏便に済ませるべきだったんだ。……至らなくてすまない」



―――そうじゃない。あなたは、好きな人がいるんでしょう?

  どうして、私に優しくするのです!



「………違う、違う、たしかにそうだが、でもお前が嫌いな訳じゃない。不幸を願ったのではないんだ」



―――何が違うのです!



―――私に、無責任な情けをかけないで!!












「………グレイシア」



―――お父様。



「お前は………うちへ帰ることになった」



―――!?


―――王宮へ軟禁されたあと、ほとぼりが冷めたあとに、侯爵の後妻になる手筈では………?



「だが………お前は、失明したんだ。これ以上不幸になることも無いだろう。……心配ない、お前の面倒の一切は、お前の兄に頼んだ」



―――つまり私に、政略結婚も果たせぬ役立たずに成り下がれと?



「………納得してくれ。あの男の妻になるよりマシだろう」



たしかに侯爵は愛人も多く、さらに横柄。金遣いも荒いとはいうが……



―――何故? お父様は公爵として貴族令嬢(コマ)の私を、愛していたのでは……?



「………死なれでもしたら、流石に夢見が悪いしな」



―――……………。


―――それが、本心ですか? 家のためにと動いたお父様(あなた)が、良心の呵責に負けたと言うのですか?












「………グレイシア様! 申し訳ありません!」



―――何が?


―――仲が良いように欺いたこと?

  罪を私に被せたこと?



荒んだ心で、そう尋ねた。



「わたくしたちが声をかけたせいで、グレイシア様が階段から落ちてしまわれて………」


「あれから何日も、後悔しました」


「本当に申し訳ありません。わたくしたちはこれからの一生、グレイシア様に償いを続けます」



―――――――――――そう。やはり肩を叩かれたのは、気のせいではなかったのね。それで? 可哀想な私を見て、嫌いだった私が好きになったと?



「一生ついてゆきます、グレイシア様」



決意を固めたような声だった。



―――欺瞞、ね。


―――私は視力を失ったけれど、誇りも自我も、失ってはいないのに。みんなが私を、憐れな弱者と蔑むのね。












やがてひと月後、王子が毒殺された。


そのふた月後、公爵が刺殺され。


次の月には三人の令嬢が順々に溺殺された。



いずれも犯人は見つからず、現場にいたのは憐れな盲目の令嬢だけだった。そして最後は、彼女も首を吊って死んだ。



彼女の最後の日記には、こうあった。



『弱者の強みは、見下されていることだ』と。


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