第6章 学校の怪談 近未来バージョン (時系列-19)
「ねえアラン、知ってる?三組のタダくんが昨日見たっておばけロボットの話」
学校、けだるい午後授業を待つ休み時間。昼食が終わり、授業が始まるまでの五分ほど前の時間、神妙な面持ちで教室に戻ってきた生徒の一人がジェス。女の子だ。その彼女が昔から縁のある男の子のアランに親しげにそうやって話しかけると、アランは露骨に疑うような表情を作ってくだらなそうに聞き返した。
「おばけロボットぉ? 怖くねーっ、ジェス、混ざり合わないよそれ」
科学の粋であるロボット、アンドロイドに超自然的な存在が混ざり合うことにアランはくだらなさを覚えている。オカルトも時代と共に変わっていくのだろうが、今はロボットに乗り移る時期なのだろう、ジェスは一人で盛り上がっているようだ。
「でもすっごい怖いんだよ、本人も本当に見たって言って、すごく怯えてたもん」
先程の休み時間にその話を聞いてきたジェスはその興奮をアランに伝えたいらしい。
「どんなのよ?」
アランは取り留めのない話に対して最初から聞かないような無粋はせず、とりあえず内容を聞いてみることにした。机に就いて次の授業の準備をしながらではあるが。
「それがね……昨日の夜、タダくんが突然話しかけられたんだって『助けて』って。でね、振り返ったら誰もいなかったの。で、気のせいだってまた前を向いて進み始めて」
「ほむほむ」
相槌を打ちながら先生に出題されていた宿題が終わっていることを確認しているアラン。
「その時また『助けて』って聞こえて、振り向いて下を向いた時にやっとその声の正体がわかったの……それがね、アンドロイドだったんだって。片手ずつでこう、死にかけの人みたいに這いずりながら『助けて、助けて』って言ってたんだって……」
ジェスは這いずり方を教えるように両手を滑稽に動かしながら何故か自分で背中に寒気を感じ、ビクビクと身体を震わせているのだがアランは呆れ顔で息をするように
「はぁ」
と一言。ジェスは信じられない表情を作る。
「怖くない!?」
ジェスは興奮しながらアランの机をどん!と叩いた。
「うん……まぁ怖いけど、なんだそれって感じなんだが」
よくわからないなとアランは頭をポリポリかいている。
「だってアンドロイドはそんな事しないよ?! まるで人間みたいに見えたってタダくん言ってた」
どん!どん!と机を叩きながら「怖がってよ!」なんて訴えているようなジェスの言葉にアランは何かを思いついたようだ。
「それ……え、それでタダはどうしたんさ?」
「逃げたって! そりゃ逃げるでしょうよ! 這いずって『助けて助けて』って、タダくんが逃げるとすごい連呼し始めたんだって『助けて助けて助けて』って……うぅっ、また鳥肌立っちゃった!」
ぶるりと身を震わせ、腕に浮かんだ鳥肌を隠すように自分の腕を包み抱いている。
「いやそれさ、まじで人間だったんじゃないの? 夜だったんでしょ? コスプレしてるだけの人だった的なさ。本当に助けを求めてて、それ放置してもしもとかの方がこええよ……警察とかには行ったんかな」
「えっと、多分行ってないんじゃないかな、おばけだおばけだって言ってたし……」
「うわぁ……それまじで人間で死にかけだったとかだったら笑えねぇ~……ちょっとネットのニュース洗ってみるか……」
と、ジェスもアランの意見になにか思うところがあったようで一緒にネットを検索し始めた。
「……うーん、いないね。昨日の時点でこの周辺で変な死に方をしたり失踪者の届けみたいなのは出てないっぽい? ほらっ、やっぱりおばけなんだよ!」
よくそんなに盛り上がれるなぁ……なんて言いたげなわかりやすい音を出して小さく鼻で呼吸をしたアランは次の授業の準備を終わらせながら返す。
「何事もなく助かっただけなんでないのかね……人間説だろ多分」
「……でも、おばけロボットよりはそっちの方がいいかぁ」
アランは放課後にはその話を忘れてしまった。