第42章 ARISE (時系列-42)
「少佐」
「ばばあ」
少佐は足をテーブルに乗せ、悪口を言うような呼び方に対して老婦人はこれみよがしに大きなため息を付きつつ、それでも少佐を褒めた。
「まったく、いつものことだけどお行儀が悪いわね。それはさておきよくやったわ少佐、これで売国奴は逮捕。システムの一部はワタクシの手の内に入った」
それに対してT・グースが背筋を正しながら聞く。
「でも叢雲さん、いいんです?勝手にオーディンシステムのコピーを手元に置くなんて」
「バレなきゃ使ってることにならないわよ。それに法の介在できない悪への鉄槌を下す”ゴースト”部隊には打って付けのシステムじゃない。表で解決出来ない犯罪を追うためのシステムとして新たに運用させてもらいましょう」
叢雲と呼ばれた老婦人は実年齢よりも若々しく、凛々しい声で優雅に言い放った。自分の信じる正義のためなら何でも活用する、そんな意志が聞き取れるほど溢れている。
ちなみにシステムはロバートが内部情報を巧妙に隠しており、国が悪用することも流出して悪用されることも無い。犯罪捜査に使える程度の機能が叢雲に渡り、革新的な頭脳部分は二人のエルダに。この件は闇に葬られることだろう。
「ばばあ。そう言うなら早く腕をよこしてよ。こんなんじゃ折り紙も折れない」
少佐は簡易骨格の腕をガションとアナクロな音を立ててそのサイバネティクスにおける「グー」と「パー」を作ってアピールする。
「今最上級モデルを取り寄せてるんだから、もう少し待ちなさい。どうしても折りたいならその片手があるでしょ。練習すれば片手で鶴だって折れるわよ。さて、本題に入るわ。休息も無くて悪いけど次の仕事よ。コンラッド、データは届いてるわね?」
叢雲はまるで自分は折れるぞとでも言いたげに自分の片腕に適応されたサイバネティクスを見せながら折り紙の話をした後、コンラッドにそう尋ねながら自分の席についた。
「はい、マダムムラクモ。では概要を説明します」
少佐は椅子を座り直し、T・グースは部屋の明かりを落として、コンラッドがホロモニターを起動した。新しい隊員であるロバートも、そのモニターの中でブリーフィングに参加する。