第41章 道標の星の下 (時系列-41)
自分と娘を助けてくれた部隊の隊長らしい少女……少佐と呼ばれる彼女に、セイとステラは呼び出されていた。
最初の邂逅で突然銃で撃たれた瞬間は声もあげられないほど驚いたセイとステラだが、作戦の上でそれは仕方がないことであった。
なんせ世間的に死んでいないと巨大システムにいてネットに接続出来るジョンに気づかれてしまう可能性が極めて高かったため体に害の無い麻酔を撃ち、近所には死体が運ばれていくように見せる必要があったわけだ。
そうして運ばれた非電波施設にて保護されていた二人は少しの間外出と通信が許可されていなかったが、事情を聞かされたセイ達は事が解決するまでの間そこで警護班と過ごすことになる。
彼女らは特に不自由のある生活だったわけではなく平和に過ごしていた。そこは少佐らの拠点の一つでもあり、セイはそこで少佐らと何度か会話を交わしている。
例えばリボルバーの事だ。
少佐がとても良い銃だと褒めると、セイも自分のもののように誇らしげにロバートからの受け売りのその銃の伝説を語る。
コンラッドなどは確率の計算からリボルバーの弾詰まりなど現物の完成度を考慮すれば本当にありえないと驚く。
少佐はそのロマンを否定せず丁寧にリボルバーを手入れしてセイに返そうとするのだが「ロバートの事が片付くまであなたに持っていてほしい」と、ロバートのリボルバーはしばらく少佐が大事に預かっていた。
最終的にそのリボルバーは事件の決着に一役買い、ひいてはメアーズ外務次官に決着をつけたのだ。
そうして事件が一段落した後で、セイとステラは非電波施設から連れ出されて警保局の本部につれてこられた。
「どうぞ、座って」
少佐としか呼ばれない少女の姿をした女性が椅子を引く。その片腕は現在サイバネティクスの中でももっとも簡素な”骨格そのもの”が適応されたのみの状態にあり、つまり骨組みだけの痛々しい見た目をしていた。
そうなった彼女の事を最初にじっと見てしまった時「あぁすみません、上司が良いのを発注してくれてるんですけど、それまでの代わりになるのが無くて」と笑った様子は臨戦状態における凛とした姿とはだいぶ違っていてむしろ可愛らしいほどだった。
今の少佐はスーツを着ていて若干大人びているとは言え、非電波施設にいた時の私服で雑談に応じる少佐は十代にも見えたものだ。
とはいえその発言は見た目よりずっと大人びていて、実際の年齢も早いうちに子供を産んだセイより少し年下くらいの年齢である。
サイバネティクスの適応箇所が多すぎて成長が止まったのだというが、それについて詳しく聞くことをセイはしなかった。
「あとはご自由に。私か部下が隣の部屋にいるはずなので、お帰りの際は一声おかけください、家まで送りますから」
それを聞いてようやく自宅に帰れるんだ、とセイはホッとした。ちなみにアンドロイドの襲撃によって破壊された部分は既に叢雲の手によって修復と改善が施されている。
「ありがとうございます」
「ばいばいお姉ちゃん~」
ステラの無邪気なばいばいのジェスチャーに少佐はニコニコと手を振り返しながら部屋を出ていった。
そしてセイは目の前にある端末に触れて声をかける。
「ロバート、聞こえる?眠っているの?」
続いてステラも、聞こえるように大きな声で。
「パパっ、起きて~!」
モニターに火が灯る。記録の欠片と記憶の残滓、それから思い出を集めて出来たロバートの電子体が彼女らに答えた。
「あぁ、起きたよ」
彼は煌めく星々の下、ながい眠りからようやく目を覚ました。もう旅行はできないかもしれないが、これからも家族はずっと一緒だ。