第40章 繋がってない人なんていない (時系列-40)
『メアーズ外務次官が連行されて行きます! 外務次官!! 米朝に亡命しようとしていたというのは本当なんですか?! 外務次官!』
喫茶ミカドでは二人組の常連のじじさんばばさんとマスター、バイトがホロテレビの中継を見ていた。テレビの向こうではインタビュアーがマイクを向けながら立派な服を着た初老の男性を必死に追いかけている。
その様子をさして真剣にではなく話の種としてそれぞれボヤきながら、テレビを見る客らはそれぞれどこか他人事のようにコーヒーでも飲んでいる。
「やぁねぇ、メアーズさん、私好きだったのに」
「でもあの人は極度の親米朝派だろう? 米朝が天下とってた時代はもう終わったっつぅのになぁ」
中継映像が終わってスタジオ映像に戻るとキャスターが手元の資料に目をやりながら伝える。
『えー、情報によりますと、複数の企業との癒着が取り沙汰されていたメアーズ外務次官ですが、公費の横領と併せてメガテック・カンザキ社でとある研究を行っており、警察の発表によるとその研究内容とは核爆弾に変わる新たな兵器だったそうで、その技術を持って米朝への亡命を企てていたということです。また、これの試射のためにいくつかの地域で戦闘状態を作り出していたとの情報もあります』
テレビのコメンテーターは興奮気味に事情を伝えている。
「かーっ、ナァ二やってんだかなぁこの人は」
『今回の件が露呈した裏ではハッカーチーム”クサナギノツルギ”が暗躍したという噂もありますが、その辺はどうなのでしょうねぇ?』
『もしそうだとしても警察は隠したいでしょうねぇ。内務警保局の叢雲長官によると予てよりメアーズ外務次官の行動にはマークしており、職員らの努力が功を奏した、とのことですが……』
「メアーズさんが亡命してたらどうなってたのかしらねぇ? ねぇマスター?」
「知らねぇよっ。なにがあろうと、俺はここでコーヒー淹れて、のんびり過ごしてらぁな」
マスターがそう言ってホロテレビの画面を切って立体風景を表示させる。その間にも他の客が入ってくる。
バイトは机を拭きながら一人考えた。
街の片隅にある喫茶店の一つで、一体どれだけの人が繋がっているのだろうか。
こうやって、例え他人事にも平和を享受出来るのは誰かの頑張りの上にあって、自分に関係が無いように思える誰かがどこかで繋がって与えてくれているものなんだろうな……そんな事を思いながら、今日も新しい客を出迎える。
「いらっしゃいませ。喫茶ミカドへようこそ」




