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第38章 自分が愛されてる事、思い出すと頑張れるんだ (時系列-28)

 ロバートに身体を与えられたエルダは、真っ先にチトセのいる病院へ向かった。その脳にはチトセの病気の解析データも保存されており、病院につくなり事前に名前を調べておいたチトセの担当医に解析データを渡して貰うよう、看護師に念入りに頼んだ。そしてエルダはチトセのいる病室へ急ぐ。


 きっと寂しくしてる、泣いてるかも知れない、とにかく直ぐに声をかけてあげなきゃ。なんて考えて。


「チトセ、チトセ、チトセっ」


 泣きそうなのはどっちなのか。チトセという名前を病室の札に書いてあるのを遠くからズームしてまで見つけて、出来る限りの速さで滑り込むように病室へ入るなり部屋全体、どこに隠れてても聞こえるような声で名前を呼ぶ。


「チトセ!!」


 ピクッ!と少女の身体が入口へ向いた。目を丸くして何事かと伺っていた少女だったが、自分を呼んだのが誰なのか直ぐにわかったらしい、驚いていた顔をみるみるうちに嬉しそうに変える。


「エルダ……エルダだ!」


 そういえばボディが変わっているのに……それでも気づいてくれたことにエルダはこの上ない喜びを覚えた。


「遅いよ!ずっと待ってたんだからね!エルダー!心配したんだよー!」


「チトセー!ごめんねぇ!会いたかったよぉー!」


 それはシステム・オーディンにジョンが侵入してからたった八日後の事であったが、二人共もっと長い時間を一人で過ごしてきたような気持ちだった。


 病院の規定で保護者は夜には返されてしまうのだが、介護ロボットであればその限りではない。だがエルダのボディは保険や生産ラインに登録されたボディではないため、データが参照された場合に存在しないロボットとして面倒があるかもしれないと、一度家に帰ることにした。次の日には面会時間の最初から最後までいるからと約束して。


 そしてルーデンの家に着くのだが、自分の家なのに入ることが出来ないという大問題が発生する。システム・オーディンとの強制同期が行われた際、オーディンは共有出来るデータを全てコピーし、機密データにあたる部分を自分に取り込んだ上でエルダからは全て削除していた。


 つまり自宅のロック解除用コードをエルダは失っていたのだ。厳重な戸締まりがされている家である上に窓から見える家の内部を見るに、自分がルーデンから連れ出された日から何も変化していない。


 誰も帰ってきていないらしく、ここで待っていたとしても何にもならない可能性のほうが高い。


「どうしよう……」


 途方に暮れるエルダ。街を歩きながらフリーのネットシステムを使って自分の状態について調べてみると、メガテック製の介護ロボットとして既に登録されているのがわかった。


 ロバートはエルダがチトセのために何をするかの見当をつけていたし、生産時に予め登録してくれていたのだ。


 これでロボットとしては信頼性の高い身分証を持っているのと同じ状態である。急いで病院に戻り、チトセの隣で一晩を過ごすことが出来たのだ。


 チトセの前と変わらない寝顔を見て撫でた後、ルーデンに連絡を取ろうとしたのだが繋がることはない。彼は以前ジョンによって殺されているという事実をエルダは知らなかった。


 何かの事情で繋がらないのだろうということは納得するとして、そうなると次の疑問はルーデンがいつ帰ってくるのかということだ。


 一応チトセの医療費は既に振り込まれているため退院までは安心だし、お金の蓄えはあるはずで、チトセがいれば家には入れるが、お金の管理をしていたのはルーデンであったのでルーデン無しでお金を引き出したりするのに手続きの時間があったりするだろうし、その時にチトセにひもじい思いをさせてしまうかもしれない、なんて考えるエルダ。


「どど、どうしよう……」


 ルーデンはいつ帰ってくるのだろうか。それまでチトセとどう過ごそう?心配は尽きない。


 だがエルダにはチトセを中心にあふれる悩みすら愛おしく思える。かつての小さなチトセの言った言葉を思い出し、自分も頑張るぞと奮える気持ちでエルダは眠っているチトセの毛布をかけ直した。

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