第4章 お守り (時系列-?)
ロバートは拳銃をもらった。
熱式小銃や銃の中に仕込まれた液体がリアルタイムで弾丸を作り出すような銃が主流の時代に、火薬で弾丸を発射する旧式のリボルバーを、父親からもらった。
「これは父さんのまた父さん、お前のじいちゃんだな。じいちゃんから譲り受けたもので……じいちゃんは昔特殊部隊にいたって話したろ?その頃にカスタマイズされた銃なんだ」
それはロバートが十六歳の誕生日を迎えた日のことだった。その日、軍人だった父親が自分の書斎にロバートを呼び、一丁のリボルバーを持たせて誇らしげにそう言った事を、ロバートは大人になった今でも覚えている。
「最初はじいちゃんが使っていたものでな。いいか、じいちゃんが敵の捕虜になった時、捕虜の仲間と反攻作戦を企て、実行した。じいちゃんは混乱に乗じて鹵獲した装備を置いてある部屋にまでわざわざ行ってこれを取り戻そうとしたんだ。ある女捕虜……お前のばあちゃんになる人と一緒にな。
だがそこにこれはなかった。それはもうがっかりしたらしい、大事に手入れしていたから。その時そこに一人の敵兵士が現れた。じいちゃんはその時無防備で、反撃に出るよりも敵が銃を構えるほうがずっと早かった。だからじいちゃんもばあちゃんもその時に自分は死んだと思ったんだそうだ。そして敵兵がじいちゃん達を撃った。……だが弾は発射されなかった。弾詰まりを起こしたんだ。その隙にじいちゃんは一気に敵兵士を倒し、その敵から銃を奪った。
……だがな、その敵が持っていたのが、なんとこの銃だったんだよ。信じられるか?リボルバーで弾詰まりなんて構造上ほとんどありえないんだ。でも実際に起きた。じいちゃんの銃が、じいちゃん達を撃たずに守ったんだよ。そこでじいちゃんは確信したんだそうだ、この銃は最高のお守りだってな。それからじいちゃんは敵の自動小銃も奪わず、この銃一つでたくさんの敵を倒して仲間と敵の包囲を抜けて、やがてばあちゃんと結婚したんだそうだ。眉唾って感じもするけど、父さんはそう教わった」
父親はそう言って、そのリボルバーを両手でロバートに手渡す。
その時キレイに手入れされたリボルバーの光沢がキラキラと部屋の電気の明かりを反射していたことも覚えている。その部屋には父や祖父が軍歴の中で獲得した勲章や楯が飾られていたが、そのどれよりも光を放っていたのはこのリボルバーだ。時が経ち、ロバートが軍人になった今でもその輝きは失われていない。
「それで……父さんが十六になった時、じいちゃんからこれを受け取ったんだ。お守りにってな。実際、戦地でこれに助けられたことは何度もあった。父さんが使っても一度も弾は詰まらなかったし、命中精度はオート……最新式の拳銃顔負けの精度だし、昔に母さんと雪山で遭難しかけたときの話もしたよな。あの時こいつが無ければ動物を狩れなくて死んでたかもしれない。そんな銃なんだ。……それをお前にやる。十六歳の誕生日おめでとう」
十六歳だったロバートは最初、受け取りたくないと言った事も覚えている。そんなお守りの銃だったら軍にいる父親に持ってもらって、しっかりと戦地から生還してほしかったからだ。
「いいんだ。もちろん父さんだってお前や母さんのために絶対に帰ってくる。でもこれはお前に渡す。それがどういう意味か、しっかり考えて生きてほしいんだ」
そうして迷いながら受け取った誇りと守護のリボルバーは大尉となったロバートの腰にいつでも備えられている。