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第32章 執着する心 (時系列-36)


 アラン達はルーデン氏の邸宅からまっすぐにメガテックカンザキ社へと向かい、内部への侵入を果たしていた。


 エルダは予め内部の地図を用意していたしメガテック社の守秘コードから監視カメラの映像もリアルタイムで取得している上に自分たちが通る際はループ映像を流してカモフラージュしている。


 大型システムにいたことで元々持っていたのであろう内部の最上級セキュリティコードを持っていることで開かない扉は無く、スパイ映画さながらの動きで奥へ奥へと潜入していった。


「かっこいいねぇ、エルダくん」


 いつかそんな会話をしたか。だがエルダはその時のことを覚えているのかいないのか、シッと指を口にあてる動作をして二人を後ろに下がらせる。どうやら誰か来たらしく、別の部屋に隠れてから更に進んでいく。


「良いですか二人共、ここまで来ていただいてありがたい事はありがたいのですが……あとはもう僕が同期するだけです。システムに戻ったらお二人に何かをお礼をしますし、今ならまっすぐここから帰ることができます。本当についてくるのですか?」


 アランは頷いて。


「もちろんだ、……友達だろ?」


 確認するようにそう言った。


「そうですか。まぁ僕がシステムに戻ればお二人を帰すことくらい訳ないですし、お二人が良いならそれで」


 アランの言葉に対するエルダの言葉は冷たくて、やはりどこかすれ違っていると、アランにはそう思えて仕方がない。ジェスだってそうだ。仲良くしてきたエルダとは別の人格になっているような気すら感じてしまう。


 三人はやがてメガテックの地下へと降り立った。そこにエルダがかつて入っていたというシステムがあるという話だったが、それはエレベーターで下ってくるときから正面に見えているほど巨大な姿をしていた。


 誰もいないその部屋を進んでいき、巨大な「電脳」へ向かう。


「なぁエルダ、今更だけど……」


 アランは地下に降りてからそこに来るまでの間にある数えきれないコンピューターを見ながら漠然と考えていた。これだけの装置で一体何が出来るというのか。


 かつてエルダは「戦争による経済の発展」を唱えていたし、「世界を支配できるほどのシステム」という話にも説得力が持てるほどに非日常的である。それらが合わさって、前に学校で経済学の先生が言っていた「ディストピア」という言葉が脳裏に浮かんできてしまう。


 どこか温かみの消えたエルダがこれに戻る事は必要なのだろうか?だからこんな提案をした。


「世界を支配できるシステムなら、破壊してしまったほうが良いんじゃないかな……」


 二人を先導しながら話を聞いていたエルダが初めて歩みを止め、ゆっくりと振り返る。ジェスが息を呑む声が聞こえたし、アランも少し身体を強張らせた。


「アラン……一体何を言っているんですか? 意味がわかりませんね、この装置を破壊する?これは、これは、これは僕の家そのものなのですよ? 破壊すると?何故?」


 ロームはひょこひょこ動いて感情を表現するし、多少の表情も持っているが、このアンドロイドのエルダはもっと人間的で、微笑みや怒りも表現出来るほどに表情豊かに調整されたロボットだ。


 そのアンドロイド・エルダが無表情でそう言っていた。


「だってエルダ、人殺しが入ったシステムって言ったって、所詮はシステムなんだしメガテックの人に伝えたりオレたちで先に物理的にネットワークを遮断したり、ここに来れたんならいろいろやりようは……」


 そこでエルダの表情が変わる。


「馬鹿な事を言わないでくださいッ!」


 その表情は怒りそのものだ。ただしその表情を出力するプロセスはきっと人間と同じなのだろう。エルダは今何を感じている?


 その様子に対してやはりそうだ、とアランは思い至った。あのアンドロイドにあったデータをエルダに戻した時点からエルダの様子はおかしくなっていて、初めて怒鳴ることまでしてきた。ゆっくりとアランに迫ってくる。


 見た目は愛嬌のある人型アンドロイドだが、迫ってくる姿には言い知れない恐怖があってアランは生唾をゴクリと飲み込んだ。でもアランもジェスも、感じていたのは恐怖感だけじゃない。


「言ったでしょう、僕の家だって……アラン、ジェス、あなた方はいい友人でしたが、僕がシステムに戻る邪魔をするなら、多少の暴力だって辞しません」


 一歩、二歩、近づいてくるエルダに二人は同じように一歩ずつ距離を取っていく。でも二人共エルダから離れようとはしなかった。


「お、落ち着いてよエルダくん……ねぇ、じゃあ、エルダくんはあのシステムに帰りたいってことなんだよね……? 私達といるのに飽きちゃったの? 嫌だった? 楽しかったでしょ……?」


 ジェスは確認を取るように聞いた。アランも頷きながらじっと見据えている。このシステムが家なら、オレたちが過ごした場所は?その疑問を口に出せないアラン。


「僕はあなた達とのんきに過ごすよりも大事な事を思い出したのです。僕にはこのシステムでメガテックのために世界の経済水準を上げるという役目がある。ミスターカンザキに与えられた僕の役目……」


 エルダは静かに、それでいて強く語り、そして後ろにあるシステムを自分自身であるかのように言った。


「そう、それこそが僕の生まれた意味……! だって、僕こそが真なるオーディンなんだから!」


 エルダの中の断片化していた記憶が合致し、エルダを名乗ったロボットは真の姿を現した。だが同時に真のオーディンたる自分がオーディンの名を冠したシステムから排除されるような事になったのかという理由の欠落にも気づく。


「……そう、僕はオーディン……でもじゃあ、どうして僕はここから追い出されたんだっけ……」


 システム管理室を映し出す監視カメラの向こう側、その会話を聞いている者が不敵な笑みを浮かべていた。

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