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第31章 ともだち? (時系列-35)


 エルダから「悪いサイボーグによる世界の支配」という深刻な現在について聞いたアランとジェスだったが、俄には信じることが出来ないという気持ちでいた。


「システムの中にいた時、彼が接続して時のことを覚えています……あれこそ純粋な怒りの炎。世界すら呪ってしまうかのような感情の波……ジョンを止めなくちゃ、これから何が起こるか……」


 そのサイボーグが支配したシステムから必死に逃げ出して助けを求めたエルダが言う通り、ネットで調べてみたところここ最近でメガテック・カンザキ社に関係のある人物が立て続けに不審な死を遂げていたのだ。


 警察にいくべきと提案する二人だがエルダは却下する。メガテック社は政府との繋がりが太く、ネットワーク上での不審な動きをもサイボーグ人間「ジョン」に拾われてしまう恐れがあるという。


「ジョンを止めるためにはシステムそのものを上書きする必要があります。そのために必要な構築式はこの記憶デバイスに入っています。一度上書きできればジョンの意識を完全に消し去ることが可能なはずです。でも一度ジョンに乗っ取られているコードでは自殺行為かもしれません……」


「じゃ、じゃあどうするの? 新しいコード書き起こす?」


 プログラムに強いジェスがそう尋ねるのだが無駄だろう、なんせ天才が二十年掛けて書き起こしたプログラムだ、一介の学生がそれを超えられるものを即座には作れない。エルダは「残念ですが」とジェスの考えに首を横に振りつつ、謙虚に提案した。


「こうなると鍵は僕とシステムの生みの親であるルーデンです。彼はもうメガテックによって殺害されてしまいましたが自宅の研究室には何かが残っている可能性があります。僕だけではたどり着けないでしょうし、着いたとしてもこの体では人間の住居に設定された様々な規格に合いません……だからどうかお二人についてきてほしいのです。あなた達の世界を救うことにもなります」


「突然に話がでかすぎるんよ……」


 思えばエルダの記憶デバイスを取り出し、接続してからたった三十分でペットロボットが世界を救うなどと言い始めている。


 それも反証不可能な材料をこの時間でいくつも提示したのだ。ニュースサイトに掲載された軍人の死、科学者の死、企業幹部の死。全てメガテック社に繋がっているし、その事件が始まったのがエルダの身体を拾った日とも合致してしまう。


「でも本当にエルダくんを上書きするだけで解決するの? 上書きはどうやってする?」


「システムの警備は厳重ですから直接システムに有線接続しなければならないでしょう。解決については間違いなくします。僕ことエルダはシステムの管理をするために作られたAIの系統にあり、僕はシステムの最善運用ができます。少なくても自身の復讐に人を殺すような事はしませんし、僕以外に止められる者はいないでしょう」


「確かに、人を殺すようなサイボーグがそんなシステムにいるんじゃ怖いけど……」


「システムを掌握するためのヒントはルーデンが残しているはずです。だってそもそも僕にサイボーグが投入された理由だってルーデンが……あれ? ……いや、とにかくルーデンはシステムに介入出来る何かを持っているはずです。早速行きましょう、ジェス、あなたはプログラムに強いのですよね。あなたにも是非ついてきてほしいのですが」



 というわけで、さほど遠くなかったエルダの実家に向かうことになった二人と一体。辿り着いたルーデン邸はそれなりに大きく立派な邸宅で庭も広いが今は誰も管理していないのか明かり一つ無くとても静かだった。


「僕は当然ですがここのコードを持っています。安心してください、僕が招待する事になるので侵入罪には当たりませんから。……とはいえアラン、僕を持ちあげて呼び鈴のところに近づけてもらっていいですか?あ、ジェスはケーブルを僕に繋いでもらって……」


 言われたとおりに動作させると玄関先までの光が灯る。ぴょこんと地に降りたエルダが駆け足で玄関の戸に近づくと、ドアは自動的に開いたので三人は入っていく。


「すごい豪華な家だねぇエルダくん。懐かしい?」


 ジェスが内装を見ながらエルダに尋ねる。エルダは部屋を歩き回って懐かしがっているのか、そうでなければ何かを探しているというところだろう。


「実は、あまりこの家の事を覚えていないのです。それよりもルーデンの私室を探しましょう。どこだったかな……」


 ひょこひょこ歩き回るエルダ。ジェスとアランは手分けして一つずつ部屋を見て歩くと、アランが可愛らしい女の子の部屋を見つけた。技術者の娘であることが伺い知れるような機械の多い部屋で、その中にある一つ、アランでも見覚えの無い機械は医療サイバネティクスの管理端末である。


「なぁエルダ、ルーデンって人は殺されてしまったって言ってたけど……ここに住んでいた女の子はどうしたんだ?」


 その部屋に入ってきたエルダに尋ねるアラン。エルダは部屋を見渡してから答えた。


「……ここにもなさそうですね。女の子の事は知りません。僕とは接点がなかった人です」


「へぇ、そうなのか。まぁエルダはシステムの管理に作られたって言ってたしな」


 そう言って部屋を出ていくエルダ。アランはジェス以外の女の子の部屋に入る機会はほとんど無くて、心の奥で悪いなと思いながらも物珍しさからその部屋をポツポツ歩き回っていた。タンスの中を物色したりなどはもちろんしないにせよ、壁にかけられたデジタルフォトフレームを起動して、そこに写る色白で細身の可愛らしい少女を流し見る。


 その中の数枚で妙だったのは小さな子供だった少女が満面の笑みでパソコンとツーショットしているものだ。成長してからの写真では特定の人型アンドロイドとのツーショットを撮っていて、勉強机にも一つ写真立てタイプのデジタルフォトフレームがあり、そこに写る一枚はかなり最近の写真なのだろうが……。


「あれ?」


 その写真に併せて表示された文字にはこうあった。


『チトセとエルダ いちばんのともだち』



 ルーデンの部屋を見つけたエルダたちだったが、そこに肝心のデータは入っていなかった。システム・オーディンについての情報の一切がなかったのだ。


 だがエルダが直接PCに有線接続してデータを探そうとしたとき、ルーデンの部屋に繋がっていた廊下の壁がパタンと開いた。隠し通路奥に小部屋があり、そこには女性型アンドロイドが横たわっていて更にいくつかの端末が置いてあった。


「きっとここです……あのアンドロイドはなんだろう、何かのプロトタイプかな……」


 そう言ったエルダと一緒に「どうだろうね」とウサギ耳を垂らしながら首をかしげるジェスだったが、その様子にアランだけは眉を寄せた。横たわるアンドロイドはあの「チトセ」という少女と一緒に写っていたアンドロイドと同型だったからだ。にも関わらず「きっとルーデンが仕上げたモデルだ」と何も知らないような事を”エルダ”が言っている。


「アラン、ジェス、端末からシステム・オーディンについて……いえ、オモイカネシステムについての検索をお願いします。元々はそういう名前だったのでした」


 ローム・エルダも机にぴょこんと飛び乗って短い前足を使って端末を起動させ、それに有線接続して解析を始めた。アランもそれを始めるつもりでいたが、まず横たわるアンドロイドに目をやった。そこに拙い文字で書かれている単語を、思わず口に出して読み上げた。


「……エルダ?」


 端末についたジェスとエルダを横目に、横たわる空っぽのアンドロイドに子供の文字で書かれていた名前を読んだアラン。箱の形をしたエルダは「はい?」とアランに応えた。エルダは人型アンドロイドの死体についてもはや何も考えていないらしい。


「いや……そのデータが見つかったらどうする?」


 きっとどこか自分の考えが足りていない部分があるだけだとアランは自分の疑問に踏み込むことをやめ、そんな風に話題を変えた。自分と過ごしてきたエルダを信じているからだ。なんせ昨日までメインの記憶デバイスも取り付けていなかった。なにか技術的に複雑な事情があるはずだ、として。


「僕の情報ストレージの電脳ソースに追加できる内容が出てくれば……最悪システムの初期化でも行けるでしょうし、とにかくオーディンとなったもののコードが出てきたら考えましょう」


「あっ、あった、オモイカネ。うわ、めちゃくちゃ重いコード……ルーデンって人、こんなに書いたの……?」


 ジェスが進展を見せるとエルダはてててと寄っていき、コードをざっと読んでいく。それから次に横たわるアンドロイドに端末ごと自分を繋げてほしいと言った。


「もしかしてエルダくん、身体を変えるの?」


「はい。いざというとき自分で動けたほうが良いでしょう。世界の命運を守るのにロームの身体では締まりませんし、見るにこのアンドロイドはなかなかのスペックを持っています。ルーデンの作ったものなら僕の兄弟となるアンドロイドのはずです、きっと直ぐに馴染みます」



「なぁエルダ」


「どうしました? アラン」


 エルダの新しい身体への適応中、アランは友達に声をかける。


「システムに上書きするって言ってたけど、そうなったらエルダはどうなるんだ?ほら、映画みたいに自分を犠牲に、なんて事ないよな?また家に帰れるんだろ?」


 オレ達で、と。一抹の不安を感じている。


「大丈夫です、僕がシステムに戻ることで全ての歯車が元に戻ります、心配は要りませんよアラン。さぁ、適応の工程が完了しました」


 大丈夫ですという返答を、アランは返事と受け取れなかった。どういう意味で大丈夫なのか。質問を重ねる前に揚々と立ち上がったエルダにはロームのときの可愛さは無くなって、無駄のない……言ってしまえばどこか『ロボット』らしい動きを感じてしまう。


「助かりました、お二人とも。さて、手足も手に入れたことで、後は僕一人でもなんとかなるでしょう。お二人は帰っていただいても結構ですが、どうしますか?」


 その言葉がアランにはすごく寂しかったし、ジェスも小さく困惑の表情を浮かべていた。


「いや……オレ達も行くよ、一緒に。友達なんだから」

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