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第29章 復讐の始まり (時系列-14)


 ジョンは捕らえたルーデンをマンションの屋上に離し、話を聞くことにした。ルーデンの足につけられたパワーアーマーは動かなくなっているため逃げることは出来ない。


「ジョン……人間の機械化、サイバネティクス導入率が90%を超えるサイボーグが君であることは、既にわかっているだろう」


「あぁ……気づいたときから俺はそうだった」


「君の本当の名前はロバートと言うんだそうだ。元軍人、階級は大尉。家族もいた……」


 家族という言葉に反応したジョンは直ぐに次の言葉を紡ぎ出す。


「娘……?」


「覚えているのか?」


「いや……ただ、いるとしたらと……」


「そうだ、君には娘がいた。名前はステラ。君の奥さんと同じ意味の名前をしている」


「星……」


 デジャブのように残っている記憶から単語を引き出したジョンの言葉にルーデンは静かに頷いて話を続ける。


「君はとある作戦で最前線の駒として使われた。メガテックカンザキの作った舞台に敵を引き込むための餌に……囮作戦の最中で敵に捕まった君はひどい拷問を受けた。そこからどうやってか生き残った君を、メガテックは買ったんだ。君の上官に二百万クレジット、奥さんに二百万クレジット。たったそれだけで君の命は売られ改造された。そして生まれたのがジョン、ジョン・ドゥ(名無し)という殺人サイボーグだ」


「セイに、売られた……?」


 ロバートの遺した脳から自然と発せられた言葉だったのだろう、セイという人間の事を全く思い出せないのに、ただショックを感じている。


「メガテックを出る前に見た機密ファイルにはそうあった。君は電脳搭載サイボーグ実験で二十五人目にしてやっと一人目の完成者とも。この研究は止まることはないだろう、メガテックのために一体何人が犠牲になるかわからない。君もメガテックの敵となる人間を何人も殺しているしな……」


 ルーデンの口調は少し責め立てるようだった。実際にはジョンを批難しているというより、そんなことをしていたメガテックの裏に気が付かなかった自分への不甲斐なさからの自責に近い言葉だ。


「そう言われても、俺にはもう哀れみの感情なんてほとんど湧いてこないんだ。情動は殺人行為にだけ、快感に近い感情がある……」


「殺人サイボーグとして君を生んだデッカーの調整の結果だろう。命令に疑問を抱かず、メガテックの世界支配に邪魔となるものを最高効率で対象を排除する。人間としての心に与えるのは殺人の快感だけ。君は役目に忠実に完璧に作られたということだ」


「……あんたの話に納得している俺がいる。信憑性なんて無いのに、頭のどこかで本当のことだって理解出来る。日頃から感じてきた怒りのような感情の理由を知れた気がして……より怒りが増していくのも感じる。ルーデン、俺はどうすればいい……あんたを解放すれば、俺を元に戻してくれるのか……?」


「残念ながら私には不可能だ、君をどうすることも出来ない。だが協力してくれればメガテックに一矢報いることは出来る」


「協力?何をするんだ?」


「私を殺せ、ジョン」


「なんだと?」


「私はメガテックのシステムにある種を植えた。人間と機械を繋げるかも知れなかった果実の種。恐らくこれの影響でメガテックの地下にあるオーディンというシステムに異常が発生する。オーディンを知っているか?」


「いや」


「私の作った『人間に助言を与える隣人』だったものだ……今は世界をも支配するマシンとなりかけているが……愚かな私は研究ばかりで何も見えていなくて、カンザキがこれを独占するとは思っていなかった。人々が使えばきっと役に立つものだったのに。さっき植えた種というのは、オーディン内部に人格を発生させる可能性を持つものだ。これできっとエルダは……カンザキの命令に従わないでいてくれる……そう信じてあの子をオーディンの元へ送った。もしも私が生きていたら拷問をしてでも私にシステムを復旧させるだろう。私がいなければシステムは単なるコミュニケーション装置となるはずだ……実際にどうなるかはわからないが、少なくてもメガテックによる世界の支配を阻止できる……と見ている。だから私は、生きて捕まるわけにはいかない……」


 ルーデンはその上に、エルダがシステムを掌握すればチトセの元に戻れる可能性にも懸けている。


「簡単に自分を捧げるんだな。娘はどうするんだ」


「愚かな私には相応しい末路というものだ。確かに娘達のことは心残りだが、覚悟もしてきたし当分困らないだけの準備もしてきた……これは私が償わなければならない事だ……今の状況に至っては、私の死すらあの子のためになるんだよ」


 もしも自分が生きたまま捕まってメガテックが娘の安全と引き換えにシステムの修正を強制してきたら? 拒めない、もし拒んだ場合娘はどんな目に遭うだろうか。


 ルーデンは自分がいなくなることで娘を悲しませることも大きな迷惑をかけることも承知していたが、それでも自分が死ねば娘はメガテックからは「ただの病弱な娘」となるはずだというのもわかっていた。


「やってくれ。ジョン」


 ルーデンは首を差し出した。


 ジョンは少し迷った。ルーデンの事は恐らく善人だと考えている。だがここで逃がすわけにはいかない。作戦進行の男にはもう捕らえたことを伝えてあるのだ。「ジョン」という個体が事を仕損じることはありえない。


 だから逃した場合はジョンはルーデンからなにかを吹き込まれた、とメガテックに悟られてしまうだろう。脳内のログを漁られるかもしれない。なら生きてメガテックに渡すべきだろうか。だがそうなるとオーディンとやらは確実に修正されてしまうだろう。


 ジョンは今自分の記録を探ろうと思っているし、それが出来るのはメガテックの機密にアクセスするしかないと考えている。ならば混乱が起こるのは望むところだ。システムに仕込んだというなにかを修正させるわけにはいかない。


 結論。ルーデンは邪魔だ、舞台から排除しなければならない。これまで手にかけてきた善人かもしれなかった者たちと同じように。



「こちらジョン」


 車で待機していた作戦進行の男の元に鮮明な通信音声が届く。最後の通信から少しでも待たされたのはこれが初めてだった。


「ジョン、一体なにをしてる?」


「状況変更だ、対象は死亡した。死体はどうする?」


「そうか。メガテックも確認したいだろうからな、持ち帰れそうか?」


「ほとんどは川に流れてるが、一部なら」


「じゃあ一部で良いだろう、珍しいな、派手にやるとは」


「必要に迫られた。これより合流する」


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