第23章 ハロー・ゲーセン! (時系列-31)
アランはジェスとローム・エルダを連れてゲームセンターに来ている。
目的はジェスが欲しいというキャラクターモノのぬいぐるみだ。頭が大きく青い球体で、顔文字のような表情を作る可愛い人型のマスコットロボットキャラクター「はっしぃ」のぬいぐるみを狙いに来た。
「お~、ここがゲームセンター。知識にはありましたが、実際に訪れたのはこれが初めてです」
エルダがぴょこぴょこと歩き回って興味津々に筐体を覗き込んでいた。
「はっしぃがどうしても欲しいんだ~……アラン、お願い~」
「はいはい……」
学校帰りに寄ったゲームセンターは学生たちで賑わっている。VRホロゲームや脳波コントロールの体験型ゲームが主流になった今でも現品を手にできるクレーンゲームは未だに可動しているし、ゲームセンターの稼ぎ頭となっている。
ジェスが欲しいというキャラクターの置いてある筐体は三つの爪で景品を挟み込むようなタイプのクレーンキャッチャーだった。
「これがはっしぃですか。なるほど、球状の頭部と爽やかな青色は確かに経済効果が高そうですね」
エルダはそんな事を言いながらジェスに抱っこしてとポーズして抱き上げてもらうと、アランと同じくらいの目線からプレイを見守るようだ。
「このキャッチャーのアームの形を見るに、はっしぃ人形の頭を包み込むように掴むことで一回で入手できるでしょうね。この大きさの人形であれば原価は材質次第ですがおよそ四百から七百クレジットくらいでしょうか。一度で取れれば利益が発生……」
アランは百クレジットを投入するとレバーでアームを動かし、はっしぃ人形の頭から少し外したボディ部分から足の位置にアームを落とした。
「ああっ、それでは掴めません」
案の定、アームははっしぃを掴んだと思ったら上っていく途中で落としてしまう。
「僕もやってみたいです。アラン、一回プレイしてもいいですか?」
エルダはお願い! と小さな両手をぴょこっと合わせてアランを見上げてそう言った。
「お? いいよ、ほら」
ジェスから預かったエルダの身体をレバーに寄せてもう百クレジットを投入する。それからエルダの指示にしたがって視点を上や左右から見せてやって、ここだというところでアームのボタンを押す。アームは的確にはっしぃ人形の頭を掴んだ。
「見てください二人共っ、ベストな位置ですよ! ……あら?」
だがアームはポトンとはっしぃ人形を落とした。いわゆる確率設定というものである。
「ま、ゲーセンってこんなもんよ」
アランは構わずにもう百クレジットを投入し、もう一度アームを動かしている。
「なるほど、これが娯楽経済。僕はそちらの方面には詳しくはありませんが、このキャッチャーを動かす楽しさにお金を払っているということなのでしょうか?」
「まぁ見てなって……」
今度もまた腰に向けてアームを落とす。タグにかすって身体を掴むと、これまでに無いパワーで景品をガッチリと掴んで持ち上げた。
「わーやった!」
景品落とし口に運ばれるはっしぃ人形を見てうさぎなら耳を立てるほどにぴょんぴょん飛んで喜ぶジェスだが、エルダは「ふむ?なるほど!」と一人納得している。
「わかりました、この機械には確率かなにかがあって、その数値によってアームのパワーが変わるのですね? 先ほどとは明らかに掴む力が違っています。恐らく利益の回収を備えたシステムが内蔵されているのはないでしょうか。それならこのように見た目で確実に取れるはずのアームで落としてしまう理由も納得がいきます」
「そういう事。今回は運が良かったなぁ。その確率を無視するために普段はタグを狙って撃つんだけどな」
取り出し口から出てきたはっしぃ人形をヒョイとジェスに渡しながらアランはそう言った。ジェスは嬉しそうに受け取る。
「そ! アランはタグにアーム入れるの上手なんだよぉ。わー、ありがとうアラン! 今度カレー奢るね!」
「サンキュー」
「ふむむ、人間の欲に売る商売……娯楽が経済行為として廃れない理由がわかりますねぇ」
エルダは興味深そうにキャッチャーと喜ぶジェスの顔を交互に見てそう言った。